第62話
◇◇クーガ本選 前夜祭前2
綺麗な街並みの中、迷子を見つけてしまったカール達 どうしたものかと悩んでいるのだが。
「え~っと 僕はカールって云います。 このお姉さんがクリスティナさんでこっちのお姉さんがアメリアさんです。 貴女のお名前は?」
カールは少し屈んで泣いているだけの少女に優しく声を掛けた。
「シーリア!」 少女は小さな声で呟いた。
少女はまだ泣きながらだがポツンと名前を名乗った。
「そうか シーリアちゃんか 今日はここに誰と来たの? お母さんとかな?」
カールの優しい声で少しづつ話せるようになったのか 迷子に成った経緯を話し出した。
シーリアは中央神殿があるセントリック島に住んでいる姉を尋ねて両親と来たとカール達は聞き出した。 そして今年 初めてクーガを見るために両親と姉の4人でこのアポロニア島に来たらしい、そして姉と一緒にこの街を散歩していて逸れてしまったと云う事だった。
「お姉ちゃんが。。。。 居ないの! お。。お姉ちゃ~ん」
「シーリアちゃん お姉ちゃんのお名前は?」クリスティナが優しくお姉ちゃんの名前を尋ねた
「ミューア!」
「そうか お姉ちゃんのお名前はミューアって云うのか」
「処でシーリアちゃんはエルフ族なの?」
「。。。。。?」
「カール様 エルフ族って聞いてもわからないと思いますわ!」アメリアの突っ込みに流石のカールも納得するしかなかった。
クリスティナとアメリアが色々とお姉ちゃんのミューアさんと逸れたはぐれた経緯をシーリアちゃんから聞き出したカールはどうやって探すか思案することになった。
シーリアは数日前にこのアポロニア島へクーガ観戦の為に来たのだが、クーガ自体はまだ始まっていない事に退屈してしまい 父母に内緒で姉のミューアとアポロニア島の散歩に出たらしいのだが シーリアちゃんは久しぶりの自由な環境で弾けてしまったらしい。
初めは二人で手を繋いで色々なお店を覗きながら歩いていたのだが、シーリアちゃんはそれもつまらなくなり、繋いでいた姉の手を放しお店を行ったり来たりしていたのだ。
そのうち、姉の存在をすっかり忘れお店の中にまで入り見ている間に迷子に成ったらしい
「う~ん シーリアちゃん! お姉ちゃんのミューアさんって このお姉ちゃん達と比べて背の高さはどうかな?」カールはクリスティナとアメリアの二人を基準にして聞いてみたのだ
「え~っとね こっちのお姉ちゃんより少し高い」シーリアちゃんはクリスティナの身長より高いと答えたのだ。
クリスティナはアメリアや同年代と比べ少し成長が良い(おませさんなのだ)
この時、カールはまだ120㎝位しか無かったのだが、クリスティナは140㎝位あった
カールはこの情報を上空に漂うハイドへ伝え、上空より探してもらう事にした。
其の頃、シーリアと逸れた事に気が付いたミューアは密かに護衛に付いて居た者にシーリアを探すように指示を出していた。
そして、突然感じられてきた畏怖とも感じ取れる神気に似た気配に身体が硬直する。 今までに感じた事のない経験をしていた。
最も近い事と云えば、やはり目覚めの儀式で女神ディアナより聖紋と共に聖女の位を授かった時の痺れるような感じに似ていた。 そんな事を思いながらも妹シーリアの無事を女神ディアナに祈ることにした。
実はシーリアとミューアは建物を挟んだ反対側に居たのだ、距離にしても50m位だろうか?
そしてもしミューアがシーリアちゃんを探し回っていれば、ハイドにその存在をキャッチされたのだが
ミューアは自分が動き回ることで二重遭難の危機を回避するために動かずにいた。 自分さえ動かなければ、妹のシーリアが動き回ったときに見つけられるだろうと考えていた。
この結果、ハイドにはミューアの存在は普通の住民と認知され捜査対象から外されていた。
こんな行き違いから本来なら直ぐにお互いが分かる距離に居ながら、お互いを探せないでいたのだが 漸く、護衛の一人がシーリアちゃんを発見したのだ。
護衛は直ぐにシーリアちゃんの元へは向かわず、仲間を呼んで周囲を固めることにした。
これはもし人攫いがシーリアちゃんを拉致しようとした時に安全にシーリアちゃんを確保するためだった。
まぁ 今回はシーリアちゃんと一緒にいたのがカール達、少年少女達だった為に人攫いだとは考えていなかったのだが。。。
そして、護衛の一人がシーリアちゃん発見の知らせをミューアの元へ届けた。
こうして、シーリアちゃんの少し不安に満ちた小さな冒険は無事に幕を閉じる事になった。
「シーリア! 何処に行ってたの? 一人で動き回ると迷子に成るって言ったでしょ!」
ミューアの声を聴いた途端、シーリアは「お。。。 お姉ちゃん~~ 」目に涙を浮かべ姉の元へ走り出した。
カール達は突然始まった迷子の捜索がここで終了した事にホッとした。
「シーリアちゃん ミューアお姉ちゃんは見つかったようだね! 良かった。。。 もう迷子に成らないようにね」
カール、クリスティナ、アメリアの三人はシーリアちゃんに別れの挨拶をして散歩に戻ろうとしたのだが
「あ すみません! 貴方がたが妹のシーリアを保護して頂いたのでしょうか?」
「はぃ その先、左の脇道に逸れた辺りで泣いて居たので迷子かと思い 、私達 3人で保護をしていました。 でも見つかって良かった、もう安心だね」カールはシーリアちゃんに微笑みながら答えた。
「そうですか、 本当にありがとうございました。」
「いいえ! では、僕たちはこれで失礼します。」カール達は散歩の続きとばかり歩き出したのだが
「あ あのお待ち下さい! 妹のシーリアを保護して頂いたのにそのまま、お帰ししたとなったら私が父母に叱られます どうか、感謝の意味を込めてお茶でもご馳走させて下さい。」
カール達はお互いの目を見ながら考えたが、これと云ってする事も無かったので素直にお茶をご馳走してもらうことになった。
実を云えば聖女であるミューア・ルミナリアはカールの姿を見た時に畏怖とも感じ取れる神気に似た気配を感じていた。 先ほど感じた気配の主がカールである事を確信したと同時に胸の高鳴りも感じていた。
こうして5人は近くの喫茶店に入り少し早いテータイムを味わった。
カール達はクーガの為にこのアポロニア島に来たハイランド王国の学生であると自己紹介した。
また、ミューア達もクーガの観戦の為に来た事を話し、自己紹介としたのだが自分が聖女であるとは打ち明ける事が出来なかった。
もし、此処で聖女と打ち明ければ 逆に迷惑になると考えたからだった。
その為にこの時はまだ、お互いの素性までは話していなかったのだ。
こうして、お昼近くまで喫茶店で話をした後 お互いに引き上げていった。
★★ カール達(カール、クリスティナ、アメリア)
「シーリアちゃん、お姉さんのミューアさんに会えて良かったね!」
「本当ですわ! もし見つからなかった、どうしようかと思いました。」
「確かに! 見つからなかったら 困った事に成ったかもしれません!!」
「カール様 困った事って何でしょう?」
「もし 見つからなかった場合、騎士駐屯所へ預けなくては成りませんでした」
「騎士駐屯所ですか?」
「そうです ここでは僕達は土地勘がありませんから、シーリアちゃんからの話ではミューアさんを探すことは難しかったと思います。」
「そうですわね 今回はたまたま、お姉さんのミューアさんの方から探して貰えたので良かったですけどね」
こんな、会話をしながら宿舎の方に帰る3人だったのだが、実を云うとこの3人も迷子扱いに成っていたのだ。
元々、アポロニア島の散歩は初等学部と新入生との合同で行われていたのだ。 その散歩から突然、3人はドロップアウト(世間では迷子と云う)になり騒動に成らない訳がない、もう少しカール達の帰りが遅ければ、カール達が騎士駐屯所に居る騎士たちに探されていたのだ。
この後、カール達は謹慎と云う名の罰を受ける事となる。
★★ ミューアとシーリア
「シーリア! 私の手をしっかり握っていなさいと云ったでしょ! ダメじゃない」
「ミューアお姉さま ごめんなさい」シーリアは姉と逸れ一人になった時の心細さを思い出し、素直に頭を下げていたのだ。
「本当に気を付けないと、人攫いに攫われちゃうのよ 今回はたまたま、カール様たちに保護して貰ったけど」
「カール様達はハイランド王国の学生っておっしゃって居たけど クーガの選手かしら? それとも見学かしら?」
ミューアはカール達に会う前から神気に近い物を感じていたのだが、まさかその神気に近い物がカールから発せられて居るとは思っても居なかった。
そして、この事は他の聖女たちにも話さなくてはならないとミューアは心に誓った。
この世界には4人の聖女が居る。
・人族のエルザ・ルミナリア
・獣人族のオリガ・ルミナリア
・魔人族のリザベート・ルミナリア
・エルフ族のミューア・ルミナリア
の4人である。 聖女は目覚めの儀式で女神ディアナより聖紋と共に聖女の位を授るのだ。
そして聖女と認定された瞬間から名前にこの世界を示す『ルミナリア』を名乗る事になる。
因みに教皇の『ヨハネ・ディア・フィリップ』は教皇に就任した時に名前の真ん中に女神の愛称を許された。
そしてこの世界に於いて女神ディアナから直接、下賜されるのは聖女の位だけである。
よって4大陸を管理する枢機卿の中から選ばれた教皇より上位になるのだ。
この事はこの世界に於いては常識である。
女神ディアナを象徴する4人の聖女、女神ディアナを崇め教会を管理、運営する最高責任者としての教皇と役割が分かれていたのだ。
普段、聖女は中央神殿に4つある聖女宮からは出ないのだが クーガやクーナ等のセントリック諸島で行われる祭事には交代で出席する事になっていた。
クーガやクーナは遥か昔、この世界の争いを憂いた女神ディアナが争いの元を和らぐために行わせた事から女神ディアナを称える祭事となっている。
エルフ族のミューア・ルミナリアが妹シーリアの手を引きながら聖堂殿へ向かうのを護衛しながら、護衛の任を務める聖騎士達は今回の不祥事を重く捉えていた。
もしシーリアを保護したのがカール達でなく、町に居る不良や他の大陸から来た者がシーリアを保護していたら今頃 攫われていたかもしれないのだ。 考えただけで背筋が凍る!
この後、聖騎士達は護衛方法の見直しを迫られることになる
この件はミューアから語られることは無かったのだが、聖騎士から報告を受けた駐屯部隊長は1000名の騎士達を3名1組としてアポロニア島、全ての巡回を行う事を決めたのだった。
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