第59話

◇◇フラッグ5


第5試合が始ると同時に何時もの通り、カールによる素早い城壁の構築が始まった。


相手はまだ半分も出来ていない 、いつもであれば出来上がった城壁の上、フラッグの横にカールが座るのだが今回は何やら3人が残るような?



「さぁ~ クローディア先輩! 速攻でモナード公国のフラッグを奪いに行きましょう」



カールがいつもの様に検知魔法のサーチで相手の構成を探る、


「ブラッドリ先輩! 相手はやはり魔法師2名で攻撃を仕掛けるようです」



「当初の予定ではそのまま、相手のフラッグを奪いに行く予定でしたが、各個撃破が出来そうですので1人は迎撃しておきます」



素早く、カールは隣に居るクローディアと打合せを行った。


作戦としては至って簡単だ。クローディアを潜ませて於き、そこへ相手の魔法師を誘い込むのだ


至ってシンプルだけど、シンプル故に難しかった。



カールは水魔法の幻影を相手魔法師の前方に浮かび上がらせた。 実態は無いのだがそこに魔力の塊を3つ実態の代わりに置いたのだ



相手が優秀な魔法師だけに魔力の存在と微かに見える人影、相手に3人による待ち伏せと思わせたのだ


クローディアは気配を消してただ、獲物が迷い込んで来るのを待つだけだった、それから数分後 左前方だけを気にしながら近づいてきた相手魔法師を一撃のもとに戦闘不能にした。



「クローディア先輩 お見事です!」カールに褒められて素直に喜ぶクローディアは少し頬を赤らめていた。



「ブラッドリ先輩! クローディア先輩が相手魔法師1名に攻撃を仕掛けて戦闘不能にしました こちらはこれからフラッグを奪いに進みます。」



カールは相手攻撃陣を1名戦闘不能にした事を報告して敵陣めがけて突き進んだ。



残り100m、モナード公国の魔法師からは絶えずこちらを探る魔法が展開されていたのだがカールはその魔法が到達するギリギリで止まりクローディアと最後の打合せを行った。



「クローディア先輩 ここから先は相手を探すための検知魔法の射程範囲に入ります その検知魔法を誤魔化すために水魔法による濃霧の魔法と威力は弱いですが少し大きめのファイアボールを2つ作ります 先輩はそのファイアボールに隠れて進んでください 僕はそのファイアボールと共に相手の城壁を崩しますので、崩れた城壁から侵入しフラッグを奪ってください。」



「分かったわ」



カールは簡単に説明したけど、実際にはモナード公国の魔法師が繰り出す魔法を避けながら濃霧の魔法を維持しつつファイアボールの飛翔するスピードをコントロールするのは至難の業である。



カールが作ったファイアボールはクローディアが走る少し先を飛ぶようにコントロールされていた。



「クローディア先輩 では行きましょう!」



カールの掛け声と共に水魔法の濃霧の魔法が展開されだした。 その濃霧が相手陣営に到達すると同時に直径2mのファイアボールを頭上に2個作り、一つは城壁の攻撃用として先行しもう一つはクローディアの走行スピードに合わせながら徐々に相手陣営に向かっていった。



カールは素早く身体強化の魔法を自分に掛けて先行しているファイアボールと共に相手陣営の城壁を壊しにかかった。



モナード公国が作った城壁はカールが作った水を湛えて堀に高くそびえる塀と同じように構築されていた その塀の内側には1人の魔法師が隠れ、そしてモナード公国の守護者は如何やら剣士と魔法師が2人で務めているようだ。



カールはクローディアが50m位進んだ辺りで既に相手陣営の堀に到達していた「クローディア先輩 が到達するまでに僕の方で堀と塀を壊します。」



カールは先行して進んでいたファイアボールを塀にぶつけると共に掘りの一部を埋め立てて通路を作ってしまった。



ファイアボールがぶつかった事で壁は人が通れる位の大きな穴を開ける事に成功した。


更に穴を拡張する為とクローディアを隠す為に作っておいたファイアボールも続けて壁にぶつける。



濃霧の魔法と城壁が壊れた事で舞い上がる土埃で未だにクローディアを隠す事に成功している。 カールは城壁に隠れるようにしながらこちらをうかがって居る魔法師を見つけ、相手の魔法が完成する前に後ろからの軽い手刀で無力化をした。



残りはフラッグの横にいる守護者の2人だけだ。



カールは自分が攻撃をしていても絶えず、自陣の様子は把握していた。


モナード公国の魔法師はカールが作った城壁の前で、単独で攻めるか相棒の魔法師を待つかで思案をしている様子を3人の守護者が塔の上から眺めていた。



モナード公国のもう一人の攻撃者は既にカールによって各個撃破されているのだが、知りようが無かった。



一方、モナード公国の守備側は壊れた城壁と残りは守護者の2人である、実を云うとカール単独でそのまま攻めても問題は無かったのだが、カールはクローディアに花を待たせたかった



元々、この最終戦での攻撃はカール単独でも十分に可能であったのだが、そうなればカールが目立ち過ぎてしまう。 これを避けるために敢えて2人で攻撃をする事に決めたのだ。



カールは次に幻影魔法で剣士を誘き出す事にした。 この幻影魔法で、モナード公国の魔法師が作った城壁をカール達が必死に壊して居る姿を映し出したのである。



そうする事で相手陣営から何方かが妨害の為に出て来ることを期待したのだが、何と二人とも誘き出されてしまった。



さてどうしたものか? 



幻影魔法と土埃で舞い上がった城壁の穴をクローディアを庇いながら通り過ぎ、誘き出された相手に対して風魔法を背後より叩きつけた。



幻影に集中していた二人は突然、背後より生じた風魔法に身構える事が出来ずにそのまま、自分達が作った堀の中に放り込まれた。 幸いだったのは 堀の中にはまだ水が入って居た事だろう。



クローディアは相手の守護者を用心しながら進んでいたのだ。



「クローディア先輩 相手の守護者を始末しましたのでそのままフラッグを取って下さい。」



カールから突然、耳元で囁かれた内容が暫く理解できなかったのだが、段々と耳から頭、頭から心に理解が進んでいくに従い、用心しながら進んでいたスピードが上がり、今では全速力でフラッグを目指した。



フラッグに於いて、守護者と双璧を成すのがフラッグを引き抜き、勝利を確定するアタッカーである。



通常、アタッカーはフラッグのリーダーが務めるのだ、でもこの最終戦に於いてアタッカーの名誉はクローディアに委ねられたのだ。



どの様な試合でも、自分が勝利を決める事はどんな名誉にも代えがたい物なのだ。



クローディアは相手が築いた、城壁を崩し、駆け上がり、ようやく夢にまで見たフラッグを引き抜いた。



その瞬間、勝利の火球が第5試合会場に上がった! 勝利が確定した瞬間だった。



クローディアはフラッグを持ったまま、カールに抱き着き勝利の喜びを味わったのだ。



こうして、濃密な時間も終わりを迎えようとしていた。



第5試合会場に終了の火球が上がったのに喜んだのはクローディアだけでは無かった、守護者としてフラッグを守って居た3人とハイランド王国の新入生や初等学部の生徒にクーガリーダーを務めるカトリーヌ・フォン・アーレンハイトは周りの目も気にせず、飛び上がって喜んだ。



フラッグの最終試合が終わり、初等学部の順位が決まった。



<新人戦   >

 ・ハイランド王国    110点


 ・モナード公国      25点


 ・ホールミア獣人帝国    35点


 ・ローランド聖王国      5点


 ・コーラル連邦       10点


 ・ディノス帝国      40点






<初等学部>       男子   女子  フラッグ 新人戦  合計

 ・ハイランド王国    30点  25点  20点 110点 185点


 ・モナード公国     20点  20点       25点  65点


 ・ホールミア獣人帝国  20点  20点       35点  75点


 ・ローランド聖王国    5点  20点        5点  30点


 ・コーラル連邦     12点   7点       10点  29点


 ・ディノス帝国     21点  16点       40点  77点





今年の初等学部のクーガ代表は他に3倍近い差を付けて優勝した。 特に新人戦は圧倒的な差と云っても良いだろう。



新人戦だけでフラッグの戦績を賄えてしまうのだ、この事実は他国にも衝撃を持って伝えられた。


そう、あの悪夢の再来を連想される出来事だったのだ。



国王夫妻が観覧している貴賓席でも歓喜の波は押し寄せていた。 国王夫妻にしても自分の娘が出場している初等学部の優勝は嬉しいのだ、まして自分の娘が優勝にも貢献している。これは親として純粋に喜びを表して居た。



「マルガレータ、アグネス、マティルダよ  流石に我が娘が交際を申込むだけの事はある、そなた達の息子は凄まじいな!」



今年 初等学部の試合は国王が話した一言に尽きていた。



実は国王ハンス・フォン・ハイランドは娘のクリスティナからカールが新人戦のメンバーと初等学部のメンバーを指導していた事を聞いて居たのだ。



始めは新入生のカールが初等学部の先輩を指導するとはどういう事かと思ったものだが、クーガが始まり、カールの力量を知るにつれ納得してしまった。



今回の初等学部が稼いだ点数は中等学部や高等学部の生徒達に大いに刺激と成った。



中等学部や高等学部としては初等学部が稼いだ点数を食いつぶし逆転負けをしたなんて事になったら物笑いの種であるし恥を晒すようなものである。



また、他国の選手にしても中等学部や高等学部でどれだけ点数の差を縮めるかが問題であった。



元々、点数の差はこんな差に成る事は無かったのである、どんなに差が付いても30~50点の差と云う物が今までの点差である、それが100点以上の差が付いて居るのである。



他国の選手としてもこのままでは恥を晒すようなものだ。



初等学部が稼いだ点数は明日からの中等学部の試合にどの様な影響を与えるか、考えるまでも無い 各国の首脳陣は今年の初等学部の点数を実際の点数以上に重く考えていたのだ。



何処の国もあの悪夢の再現がまた起こるのではないかと。 いや! あの悪夢の再現以上の事が。。。



何故ならあの悪夢の3女帝達が初めて登場した新人戦でもこんな大差には成らなかったし、最盛期でも点数差に100点以上は付けられなかったのだ。



各国の首脳陣や国の重鎮達には今日のフラッグの選手紹介で話された内容が耳に張り付いて居た。




「「「「「「カール選手のお母さまは 我が国では伝説の3女帝と云われた方々です。」」」」」」

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