第57話
◇◇フラッグ3
事前に心配された魔力切れの有無に関しては全く問題が無かった。
今回は人族のコーラル連邦である、魔族とは違い魔法にそれほど特化していない事から女性を中心としたチームを作ったのだ。
作戦は前回と同じカールが守護者として一人でフラッグを守り、他の4人で相手のフラッグを奪うのである。
今回も開始の合図と同時にカールは魔法を行使し完璧な城壁を構築していく、他の4人はカールのウィスパーの魔法で誘導されて敵陣へ突き進む。
ここで観客席の何人かが気が付きだしたのである。
「ねぇねぇ~~ ハイランド王国の選手だけど相手の選手の事が分かって居るのかな~ぁ」
「そんな訳無いだろ? きっと大回りしてわざと相手に気付かれないようにしているんだよ!」
「あ~ぁ そうか! そうだよね でもよく気が付かれないね」
「あれで結構広いから気が付かれないんだろ~」
観客席からそんな会話が聞こえだした事も気が付かず、カールはいつもの様に誘導をしていた。
今回もハイランド王国の選手は密集体系を取って居るのだが、突然カールから
「あ ストップ! コーラル連邦の選手が前方100mの岩の影に身を潜めています。 多分、魔法師で此方を探っているようですけど どうしますか?」
対応方法は二つ 一人なら4人で囲んで撃破してしまう方法と更に回り込んで躱す方法が有るが、今回は相手が魔法師でこちらを探って居るなら 一気に距離を詰めて撃破してしまう方が良いと云う事になったのだ。
「カール君 こちらは4人だから撃破しましょう! 誘導してくれる?」
「ブラッドリ先輩 了解いたしました。 誘導いたします。 まず、ブラッドリ先輩は幻惑魔法の詠唱をお願いします。 魔法発動後に前方にある岩まで風魔法で誘導します。」
こうして突然始まった遭遇戦は圧倒的な力量差でコーラル連邦の選手を無力化に成功した。
「ブラッドリ先輩、そろそろ相手の索敵範囲に突入します。 コーラル連邦の選手は結構、こちらを警戒しているようです」
ハイランド王国の選手は相手の索敵範囲ギリギリの処で立ち止まり様子を見る事にした。
本来なら、こんな悠長な事はして居られないのだが守護者を務めるカールに任せれば心配なかった。
実はハイランド王国内の練習時にカール対6人で何回も攻防を行ったのだが、カールの防御を1度も破ることが出来なかったのだ。 こうして生まれた絶対的な信頼感が有る為に攻撃側は安心して任せられた。
「さぁ~ カール君が守って居るから大丈夫だけど 私達がもたもたしてたら先輩としてみっともないわよ!」
「ブラッドリ先輩 相手は超守備的陣営の様です 攻撃は先程の魔法師1人で残りは全員、守備に回っているようです 陣営は魔法師2人、剣士と武術家が1名づつです。」
「フラッグは厚さが10cmで高さが2m、直径3mの土塀の真ん中に有るようです。」
「作戦としてはフライはどうでしょうか? ブラッドリ先輩が水魔法で濃霧を発生させて全員で近づき、僕がコーデリア先輩を風魔法でフラッグのもとまで運んで、一気にフラッグを奪う!」
「あ~ぁ あれか! あれは素晴らしいな 私はあの浮遊感は好きだぞ 何だか鳥に成ったようでワクワクする。」
「よし その作戦で行こう!」
敵陣営まで100m どうせ、近づけば存在がばれてしまうのだからと開き直ったサリー・フォン・ブラッドリは得意の水魔法の中から霧の魔法を発動した。
徐々に霧が発生し辺りを濃霧で覆われてきた時、第2試合会場での試合終了を告げる火球が2つ上がった。
コーラル連邦の選手は霧の魔法が発動したと同時に索敵魔法にハイランド王国の選手を捕らえていたのだが、まだ十分な距離が有る為油断をしていたのだ。 否 油断と云うには可哀そうになる 緊張をする準備に入った処だった。
そこに一陣の風が吹いたかと思った時には自陣のフラッグが奪われていた。
全く、何が何だか分からない内に試合は終了して居たのだ。
これは観客席でも同じである。濃霧のために詳しい事は見えて居なかったのだ。
ただ フラッグが所定の処から引き抜かれ、それに連動して終了の火球が上がったのだ。
「アグネス! 今のは?」マティルダはともかくマルガレータには一般の観客と同じで全く分からなかったのだ、これは国王夫妻も同じである。
アグネスにしても可能性が有るとしか言えなかったのだが「今のは水魔法で濃霧を発生させ、その濃霧を目隠しとして一気に相手陣営まで風魔法を使って人を運んだと思う 但し風魔法で運ぶにしても相当、難しい!」
「今 誰が風魔法を使用したかと云うと。。。。。 カール以外居ないと思う?」
「え~ぇ カールなの? だってカールは自陣で守護者としてフラッグを守っているのでしょ それに距離だって500mも離れて居るのよ!」
「実を云うとね さっきコーラル連邦の攻撃者を倒すときにもカールは風魔法を使ってたわ」
優秀な魔法師であるアグネスにはカールが魔法を使う予兆のような物が分かるのである。
多分、この会場の中ではもカールが使った魔法が理解できたのは数人だろう
「ねぇねぇ アグネス! 例えばサリー・フォン・ブラッドリって云ったかしら、初等学部のリーダーの女の子 その子が魔法を使ったとかじゃないの?」マルガレータとしても可能性の問題としてアグネスに確認をしたのだが、アグネスが指摘した魔法が放たれたのなら、マルガレータ本人もカールが行使した魔法だろうとしか思えなかった。
「それにしても アグネス! 今年の初等学部の生徒たちは優秀ね! さっきの岩の後ろに隠れている相手がまるで分かって居るように倒したわよね」
やはりマルガレータはクーガには向いて居ないようだとアグネスは思った。
「マルガレータ! さっきの動きは事前に岩の後ろに相手がいる事が分かって居るから出来た動きだぞ」 マティルダは溜息をつきながらマルガレータに話した。
実はここにいる、メンバーで正しく理解できているのはアグネスただ一人しかいなかった。
解説役としている学長のリクール・フォン・バイエル侯爵でも魔法的な事は分からなかったのだ
その為、3女帝達が世間話の様に話す事を大人しく聞いて居た。
「じゃ~ぁ さっきの岩の後ろに居るのを誰が調べたの? まさか魔法で?」
多分そうだろうな 昔 カールが魔力を薄く張り巡らす事で魔物を見つけていた事をアグネスは思い出した。
「確か これも風魔法と土魔法を組み合わせた検知魔法のサーチだったかな?」
「凄いな! やっぱり今年の初等学部は優秀だ 魔法だとすると、あのサリー・フォン・ブラッドリよね?」
「隠れている敵を見つける魔法が有れば、物凄い有利に進めるし もしこれが実践で有れば不意打ちを受ける心配が無くなるわ」マルガレータの言葉に周りに居る王族や護衛の人々もその有益性に一瞬で気が付いたのだ。
アグネスは渋い顔をしながら首を横に振った。
「いや 多分違うと思うわ!」
「え~ぇ 違うの? だってアグネスは魔法だって云ったわよね あそこに居る魔法師はあのサリーしか居ないわ?」
マルガレータは完全にカールの事は頭の中から抜け落ちていた。
それは仕方が無い事だったのだ、カールから隠れている相手までは300mは離れて居るのである。
それにもし、カールが分かったとして、それをどうやって相手に知られずに味方に報せるか?
そんな事は不可能だったのだ!
アグネスは珍しく迷って居た。 この魔法は至って軍事的過ぎたのだ、そしてここに居るのは最高権力者である国王である。
迷った挙句、アグネスは話す事にした。 何故なら既に手遅れ感が有った為である。
「国王陛下に申し上げます! これから話す事は至って機密性の高い物とお心得下さい。 私以外は誰も気が付かないでしょうが、多くの人々が疑問に感じるほどの物です」
アグネスがこの様に前置きをする事は珍しかったのだ、それほどこれから話す魔法が機密性の高い物であるかを国王と周りの護衛達に理解させる必要が有った。
「カールが用いた魔法は多分、ウィスパーです。 この魔法は風魔法で自分の言葉を風に乗せて届けたい相手の耳元へ運びます。」
国王と護衛達はアグネスが話した内容が初めは理解できなかったが、ジワジワと頭の中に、心の中に沁み込んでいった。
大規模な戦争に成ると何万、何十万人もの兵士が動く、それを指揮する下士官にしても何千人にもなるのだ。
そんな兵士に細かな命令など伝えようがない。 もし兵士を直接動かす下士官に細かな命令を伝えられたらどうなるか 考えただけで身体が震えてくる。
それを可能としてしまう魔法がウィスパーだ
「アグネスよ! その魔法は誰でも使える物か?」国王はいつしか口の中が乾いている事も気が付かずにアグネスへ訊ねた。
アグネスは小さく魔法を唱え、国王の耳元へウィスパーの魔法で「可能です!」と伝えた。
これは昔、カールから教わった魔法だったのだ。
国王はアグネスから伝えられた回答が自分だけに伝えられたとは気が付いて居なかったので、周りが国王の問いかけに答えない、アグネスへ無言のプレッシャーを与えていた。
痺れを切らした、王国宰相のミューゼル侯爵がアグネスへ再度の問い掛けを行った。
「アグネス・フォン・アーレンハイトよ! 国王陛下のご質問の答えはどうなのだ?」
国王は先程、アグネスが可能であると答えたのに、宰相は何を云って居るのだと不審の目を向けた。
「あ 失礼を致しました。 先ほどの国王陛下からのご質問ですが、既にお答えを致しました。 答えは 出来ます。」
「。。。。。 何? 国王陛下に既に答えた? 儂は聞いておらんぞ!」
宰相のミューゼル侯爵は声を荒げたが、肝心の国王陛下が何も言わない
ミューゼル侯爵はそっと国王陛下の顔を見ると国王は小さく頷き、アグネスの言葉を肯定した。
その結果、アグネスがウィスパーの魔法を使い、国王陛下だけに質問の答えをした事が全員に分かった瞬間だった。
試合会場で繰り広げられていた大きな喧騒と国王夫妻を迎えた王室専用の観客席で起きている小さな溜息交じりの喧騒 どちらもこのハイランド王国にとっては過去に起こったどの騒動より衝撃的だったのだった。
でも、この衝撃的な騒動はこれから起こる騒動の序章に過ぎなかったのだ!
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