第56話

◇◇フラッグ2

3女帝が王家の特別観覧席に移って行った後、残された貴族たちが色々な憶測に基づく話をしていた。



観客席での話はともかく、試合会場は進んでいく、カールはフラッグの横に腰かけ自陣の様子と敵陣の様子を比べた、敵陣には3名の選手が待ち構えていた。 相手の2名は魔法師で1名が剣士である またこちらに向かってきているのは1名の魔法師に1名の武道家と云う陣営の様だ



流石、魔法と体力に自信の有る魔人族のディノス帝国である。


2名の魔法師による防御を構築中であるのだが、4名で一度に襲い掛かられるとは思っても見なかった事だろう。



それに相手が何処に居るのかを探る事もしていないのである。


カールは4人に対しウィスパーの魔法を発動した。



「先輩! 相手方の情報をお知らせいたします!」突然、耳元で聞こえてきたカールの声に4人はビクンと反応をしながら、カールからの情報に耳を傾けた。



学内での練習時に、このウィスパーの魔法で初めて囁かれた時は移動中にも関わらず、歩みを止めてしまったのだが 何回、囁かれても慣れる事は出来なかった。



「相手は3名の守備に2名の攻撃態勢を取って居ます。 2名の攻撃は無視して下さい。 私が対応します。」小さく頷き 少し遠回りになる事も気にせず、相手がまだ、構築中の城壁に向かった。



「次に守備側ですが2名の魔法師と1名の剣士の様です。 現在、構築中の城壁ですが、堀が築かれている最中です 剣士は中央で防御の体制をしています」



本来、フラッグ中に相手の陣営を把握する事は難しいのだが、こちらにはカールが居る。


圧倒的なアドバンテージとも云える



この為に、本来は攻撃側は散開して相手に迫るか、密集して迫るかを決めなければ成らないのだが、ハイランド王国は密集陣形を取って居た。



陣形には一長一短がある、散開していれば一度に全滅をする事が無く、相手に作戦を把握されずらいが、各個撃破される危険性がある



また、密集陣形であれば各個撃破の危険性は無いが機動性を欠き、相手に陣営と作戦を把握されやすいのだ。



今回の様にカールから相手陣営の情報が与えられる場合は密集している方が対応がしやすいし、相手側の攻撃は全てカールが対応するなら尚更である。



そして、今回のようなパターンは事前に研究済であった。



一気に相手陣営に迫り剣士の二人が、中央で構えているディノス帝国の剣士に襲い掛かかるのと同時に武術家の二人は魔法師に襲い掛かった。



元々、魔法師は剣士や武道家に守られた形で静かに精神を集中して正確な魔法を構築していくのである、その魔法師が魔法の詠唱中に武道家に襲われたのである、真面な魔法など構築できない。



直ぐに構築途中の魔法は霧散していくのだった。


剣士の方も、元々が1対1で対等な存在が2対1では敵う筈もなく敗れ去っていった。



その頃、最短距離を移動してきたディノス帝国の剣士は水を湛えた堀を前にして自分一人ではどうする事も出来ない事に戸惑いを覚えて居た。



やっと魔法師が来たので状況打開のための打合せを始めた。 「どうする? 多分、ハイランド王国チームは守備に魔法師を4名残した 超守備的チームよ あそこのフラッグ横に座って居るのは新入生だと思うから見張りね」



「そうか、じゃ~ 攻撃に向かって居るのは1名だからこっちはゆっくり攻略しても大丈夫だな!」



2人がそんな相談をしながら水を湛えた堀を埋めるか橋を架けるかを話し合っている内に勝敗は決した。



勝敗は第一試合会場のチームの場合は火球が1つ音と共に上がる、第二試合会場の場合は火球が2つと云う具合に火球が試合会場チームの数に合わせて上がる事に成って居た。



そうして、あっさりとフラッグを手中に収める事に成功したハイランド王国チームは火球の上がる音を聞きながら満面の笑みを浮かべていた。



ディノス帝国の攻撃チームは突然上がった1つ音の火球に戸惑いを隠せなかったのだ。


自分達はまだ、攻撃途中で有る、と云う事はハイランド王国チームが勝ったのだろう? でもハイランド王国チームの攻撃は1人である筈?。



人族より身体能力が高い魔人族のディノス帝国が3対1で負けるとは到底考えられなかったのである。



しかし、終了の合図は合図である、双方のチームは決められた集合地点に集まってきた。



集合地点にはハイランド王国チームの4人が大事そうにディノス帝国のフラッグを持って現れた。



「え~ぇ 4人? そ。。。 そんな馬鹿な! じゃ~ぁ あの城壁は1人で作ったと云うのか?」なまじ魔法に付いて理解が深いディノス帝国の攻撃を担当していた2人には理解できない事だった。



ハイランド王国チームの4人は勝敗が決する火球の確認をしてから、ディノス帝国の選手たちを介抱しながら集合地点に集まってきたのだ。




その頃、カールは1人で後片付けをしていた。 本来なら運営委員会の魔法師が現状の保全の為に元に戻すのだが、カールは学内練習の時に散々、姉のカトリーヌに練習で地形を変えたら元に戻すようにと何回も云われていたので、ここでも条件反射の様に堀から水を抜き、城壁の壁を崩して堀を埋め、フラッグを立てていた尖塔も全て崩して平坦な演習場の状態に戻して居たのだった。



この試合を見ていた各国の軍や上層部の人達は完全に言葉を失って居た。 何故ならフラッグに出場する魔法師はその学部内で最強の者が選ばれる。



その最強の者でもフラッグの1試合で消費する魔力は保有魔力の半分以上を使用してしまうほど激しいのだ。 今回、カールが構築した城壁は他国であったなら高等学部の最高の魔法師が5人で全力を出しても出来るかどうかの物だったのだ!



そんな魔法が幾ら新人戦で活躍したとは云え一人で構築できるものでは無かった。 そしてそんな魔法を行使した後とは思えないぐらい元気に後始末までして居るのである 呆れると共に恐怖さえ覚えて居たが 流石に残りの4試合には出て来ないだろうと思う事で各自は納得していた。



その頃、国王夫妻を迎えた王室専用の観客席ではカールが後始末をしているのを見ながら、アグネスは苦笑いをしていた。



実はアグネス達が現役の頃 アグネスが行使する魔法の威力が凄くて、運営委員会の魔法師が元に戻すのに苦労をしていたと毎年聞いて居たのだ。



「娘のカトリーヌがそういえば云ってたわね カール達がフラッグの練習後にそのままにしているから、何度も注意をしたらしいわ カールは結構 抜けている事が有るから初等学部チームリーダーのサリー・フォン・ブラッドリにも云ってたらしいの。。。」マルガレータの言葉に王族の人々を含め何と答えたら良いのか言葉に詰まった。



練習ではそうだろうが、実際の試合で直さなくても。。。



国王、ハンス・フォン・ハイランドはアグネスへ


「のぉ~ アグネス・フォン・アーレンハイトよ お主の息子のカールはどの様な鍛え方をしたのじゃ? あれはお主より化け物じゃぞ 流石に次の試合には出れぬじゃろうが、あれだけ派手なデビューを飾ったのじゃ 今後はきっとマークされる事に成る まぁ お主たち3人は云われんでも分かって居るだろうがな」



「マルガレータ様 カール様がお持ち頂いた、ケーキにアプルのパイ 大変美味しく頂きましたわ! 中々 お礼を云うタイミングが無くこの様な場に成ってしまいました。 お許しください」




国王との重く真剣な会話から、王妃様から云われたお礼で一気にガールズトークに内容が変わっていった。 国王とて、こうなってしまっては元には戻せない、微妙な顔をしながら次の試合が始まるまで話を聞いて居た。



次の試合はコーラル連邦との試合で有る。 会場は毎回、違う所を使うように調整されており、試合会場は第2試合会場であった。



コーラル連邦の選手はカールの登録に恐怖さえ覚えて居たが 流石に残りの4試合には出て来ないだろうと思う事で各自は納得していた。



初等学部は練習の時にカールの実力を嫌と云うほど見せられていた。 その結果リーダーのサリーはカールを中心にフラッグのメンバーを決める事にしたのだ。



それはカールの異常ともいえる魔法力に依存する事であった。



次の試合の為に申請7名の中から選ばれたのはカールはそのまま残し3名の女子に剣士のランベールであった。 これも事前の作戦として決めてあったのだ。



コーラル連邦は魔法と云うより剣士の国である そうすると魔法によって遠距離攻撃の方が有効的であると云う理由から5名の出場選手申請が行われた。



少し前に終わった、第一試合の結果は既に知れ渡って居る その内容を基にサポートチームが試合を盛り上げるように選手の紹介を始めた!



ここで先程、圧倒的な力量差を見せてフラッグを守った守護者のカールの名が上がると観客は一気に盛り上がった。



しかし、魔法に少しでも造詣が深い人たちは幾ら魔法が得意とは云え新入生がフラッグの守護者として魔法を使う事が出来るのかと心配をしだした。



「なぁ~  アグネスよ お主の息子は大丈夫なのか? 先に、あれ程の魔法を使ったばかりであろぅ!」流石の連投に国王も心配に成り母であるアグネスへ確認をした。



「国王陛下 ご心配には及びません カールは私と遜色が無いほど魔法の才がございます。」アグネスは流石に今時点で自分を遥かに超えた才があるとは云えなかったのだ!



こうして始まった。第2試合は。。。。。

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