第55話
◇◇フラッグ1
新人戦も終わり、クーガの花形 初等学部のフラッグが始まる。
運営委員会に事前に届けられていた7名の登録選手から5名の出場選手申請を行う。
これは、チーム対チームの対戦形式の為に試合会場直前の駆け引きが重要になる。
初等学部の代表であるサリーは既に出場メンバーを決めていた。
フラッグは必ず2名以上の女性をエントリーしなくてはならない、そこで魔法は全てカールに担当させることにし武術2名、剣術2名の5名を申請したのである。
初戦は魔族が多いディノス帝国である、3日間の順位で2位につけている油断のならない相手だけに慎重に出場メンバーを決めた。
本来であれば、初等学部の代表であるサリーが出場するべきであるが サリーは魔法師である 今回は控えに回った。
「カール君 魔法関連は全て君に任せるから宜しくね!」
「それで作戦は練習で行った通りで良いのか?」
普通はフラッグの周りに魔法師、剣士、武術家の3名が守り、2人が攻める 守備重視派と逆にフラッグの周りに2名が守り、攻め3名にする攻撃重視方法がある。
ハイランド王国はカールの完璧な守備を信じて、攻撃4名の超攻撃型の陣形である。
フラッグとは7名の登録選手の中から5名の出場選手を試合の前に選びお互いのフラッグを奪うものである。
特にフラッグを直接守る人を守護者と呼び、各国のエース級が務める事が多いのだ。
この守護者はフラッグ=国王を守る物と云う意味である。最も名誉ある地位と成る
この守護者に対して攻撃者の中でもフラッグを直接狙う者をアタッカーと呼ぶ 大抵の場合、どちらかをチームリーダーが務める事が多かった。
元々は国同士の戦争が発端となって居る。 戦争で国を奪うのではなく試合としてフラッグ=国旗=国王を同じ戦力で知力を絞り奪い合う 完全に国の威信を掛けた試合で有る。
7名の登録選手は試合の前に大々的に紹介されるのだ、盛り上がらない訳が無い!
そして実際の試合前に出場選手を記した申請書を運営委員会に提出する。
今年の初等学部のフラッグが始まる! 各国の出場選手が運営委員に先導されて、競技場に入ってきた。
これから、各学園から選ばれたサポートチームによる実況中継を行っていくのだ!
選手の紹介は開催国からに成る。
「さぁ~~ 入ってまいりました 我がハイランド王国が誇る精鋭たちを拍手で出迎えましょう 今年の初等学部のフラッグ代表は一味違います」
うぉ~~ 野獣のような声援と拍手に出迎えられフラッグ登録選手が入ってきた。
「まず フラッグのリーダーを務めますのは生徒会で会計を務める中等学部 サーシャ・フォン・ブラッドリが妹のサリー・フォン・ブラッドリ選手です。 彼女は魔法の部でも優秀な成績を収めております」
「次はコーデリア流武術を収める リシテア・フォン・コーデリア選手です。 彼女が我が国の初等学部を牽引していると云っても過言でもないでしょう」
「次はクローディア・フォン・オックス選手は皆さまのご記憶にも残って居ると思いますが剣術の部で大金星を得ています。」
「男子登録選手の紹介に移りましょう」
女生徒の中から沢山の声援を受けながら、登録選手たちが入ってきた。
「初めは3日目に物凄い死闘を演じた事もご記憶に新しいと思います。 リンツ・フォン・コンラート選手 フラッグに於いても素晴らしい活躍を期待いたしましょう!」
「次は剣術の部で優勝を捥ぎ取った。 ランベール・フォン・バーバル選手です 近年にない素晴らしい出来事でした。」
「そして次はカルロス・フォン・ファーガス選手です カルロス選手も魔法と云う極めて難しい競技の中で存在感を示し3位を獲得した事はご記憶にも新しい事と思います。」
最後の選手が登場した時、他国の関係者は首を捻り ハイランド王国の関係者は息を呑んだ!
「さっぁ~~ 最後の選手の登場です 彼こそ今年の新人戦でセンセーショナルなデビューを飾り 運営委員会が初めて競技を止めたのちに再競技を行った選手 カール・フォン・アーレンハイト選手です。 皆さまはご存じでしょうか? カール選手のお母さまは 我が国では伝説の3女帝と云われた方々です。」
カールの母、アグネスとマティルダは初等学部からクーガに出場していた。 アグネスが紡ぎだす魔法は絶対防御と云われ誰も破る事が出来なかった。
また マティルダが繰り出す剣は誰も止める事が出来ず、相手の防御を易々と打ち崩しこの2人が居れば、事足りると云われるほどの最強の鉾と盾だったのだ。
もう一人の母、マルガレータは武の祭典クーガではなく、もう一つの知の祭典クーナに於いて賢者の塔から何度も誘いを受けるほどであった。
選手紹介の中で母達が伝説の3女帝と云われていた事をカールは初めて知った。
「母様達にこの前 もう少し自重をしなさいと云われたけど、マルガレータ母様にアグネス母様、マティルダ母様の学生時代はどんな事をしたんだろう? 」
今度、じっくり聞かなくっちゃ!
カールの紹介で語られた3女帝と云う言葉で他国の関係者は過去のトラウマが蘇ったのか蒼白に成った。
各国の選手の紹介が進み、全出場選手が出そろった。
今年も各国とも素晴らしい選手が揃いました、きっと素晴らしい試合を各会場で繰り広げてくれることでしょう。
運営委員長の挨拶に続き、審判団の紹介から誰でも知って居るルールの説明に入った。
「皆さん 今更 ご紹介する事も有りませんが、一応 ルールを話します。 各学園が持つフラッグを相手から守り、相手のフラッグを奪うと云う、極めて簡単な事ですが自陣営に有るフラッグは必ず相手から見える事が必須になります その見えるフラッグを相手から守っている間に相手のフラッグを如何にいかにして奪うか ここに皆さんの創意工夫を期待いたします。」
改めて語られた、至ってシンプルなルールを確認した後に第一試合が開始される。
フラッグは近衛騎士団の野外演習場で行われる。 横幅300m、長さ500mと中途半端な広さでは有るのだが。これ以上 広いと競技が見届けられないのと同時に3試合が同時に行われるからである。
同時に他校も競技をする事で直接、偵察をする事を防ぐ意味合いも有るのだが、フラッグ参加者以外の生徒が見ている為に、余り偵察云々は意味を持たない。
両校の選手が配置に着いたところで出場選手が発表された。
この発表で各国だけでなく自国の貴族や観客全てからどよめきが立ちあがった
それは守護者の位置に新入生のカールの名が有った為である。
「まぁ~ カールが私と同じ守護者の位置なんてね?」アグネスの言葉にマルガレータも「当然だろ! 私でも同じ結論を出すもの!」 マティルダは「私なら4人で守ってカール一人で攻めた方が早いと思うのだが どうだ?」などと観客席に陣取って居る3女帝たちは気ままな発言をしていた。
当然 周りに居るのは貴族や貴族の護衛達である そんな発言に目を丸くしながら聞いて居た。
そこに大人しく見守って居た、少女が。。。 「おかあさま カールあにちゃまがあんなに大きな人に囲まれていて大丈夫でしょうか?」そう、末っ子のマリア・フォン・アーレンハイトである。
「マリア 見て居なさい! カールは確かに小さいけどあの中では一番強いのよ」マティルダは微笑みながらマリアに話しかけた。 マリアの両腕にはカールの召喚獣で有るハイドとヨウコが抱えられていた。 本来はハイドもヨウコも既に2m近い大きさになって居るのだが、マリアの泣いて訴える要望にはあがらえず小さい姿になっているだ。
今年の初等学部、フラッグが始まった。
カールはフラッグの周りに土魔法で要塞と云う名の塔を築いていく 勿論、要塞に使われる土はフラッグの周りにある土が使われるのだ。
要塞はフラッグを高さ10mにまで持ち上げ、まるで城に有る尖塔の様になって居た。 また 塔の周りには高さ7mの壁が5m間隔で5つ出来上がっている。
これらの塔や壁に使用した土は全て要塞の周りの土を使ったものだった。 カールが使う土魔法は他の魔法師が使う土魔法を完全に凌駕していた。 その結果、幅10m、深さは5mにも達し立派な堀を形成していたのだ。
更にカールは、その堀の中に水を満たしていくのだ。 これで見た目の防御は出来上がるのだが、実際は堀と要塞の間には風魔法による防御壁が形成されていた。
この要塞と云うべき防御を瞬く間に作り上げ、カールはフラッグの横に腰かけて決戦場を見渡した。
そこまでの作業を一瞬のうちに作り上げてしまったカールを見た、観客は驚きの声を上げていた、その驚きの声はうねりと成って観客席を席巻した。
中には流石、あの3女帝の息子だとか またあの悪夢の再現だとか それはおのおの立場の違いによる感想なのだが観客席では其々それぞれの感想を云いながらフラッグの行方を見守って居た。
それは3女帝のマルガレータ、アグネス、マティルダの3人も例外では無かった。
「ね~ぇ アグネス! カールの作った城壁だけど、どんな感じ?」マルガレータの質問に
「あの城壁は厄介よ! でも その前に幾つかのトラップがあるわ まずは外側の堀ね あれを越えるのには相当の熟練の魔法師が必要になるわ 次が見た目は分からないと思うけど 堀を渡り切った処に風魔法で作ったウインドウウォールが控えているの あれも厳しいわね、更に土魔法で作った壁でしょ 多分 学生レベルの魔法師じゃ厳しいと思うわ」
「マティルダだったら、どう対処する?」
「う~ぅ あんなの反則だろ!」
マティルダは少し唸った後、笑いながら反則宣言をしてしまった。
「確かにそうだ。。。」いまのアグネスでさえ、あの速度で城壁を築く事は出来なかった。
3女帝の周りに居る貴族たちは、今日も彼女たちの話す内容を聞き耳を立てていたのだが
この話が王族の元に届けられるのに時間はかからなかった。
カールがウィスパーの魔法を使い、相手陣営の情報をメンバーに伝える頃には、王家が使って居る観客席から侍従が使いに来て3女帝達は王家の人々が見て居る所で、説明役になって居た。
王家にしても自分の娘が正式に交際宣言をした相手と云う事も有るし、過去に3女帝と呼ばれるだけの実績も示しているのだし身分としても伯爵家である。
本来は王家の前で解説役として学院の学長であるリクール・フォン・バイエル侯爵が行って居るのだが、3女帝がそこに加わっても誰も何も云えなかった。
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