第52話

◇◇新人戦1

いよいよ、カール達 新入生の戦いが始まる。


初日は女子の武術である、そして午後から男子の剣術と続き初日を終える。


2日目は男子の魔術から始まり午後は女子の剣術になる。


そして最終日が女子の魔術と男子の武術と続き、新入生の戦いが終わるのだが


問題は2日目男子の魔術にカールが出場する事である。


カールが何気なく使う魔術は現時点でもこの国の最高ランクに位置し、魔導師に匹敵する。


到底、新入生が使う魔術どころか学生が使う魔術の域を超えているのである。


学内練習の時からそれとなく話して居るのだが、カールには伝わって居ないようなのだ?


最後には姉であり生徒会長であるカトリーヌに丸投げをしてしまった。




こうして始まった新入生の戦い、いわゆる新人戦である。


生徒会長であるカトリーヌは始まる直前に緊張から蒼白になって居る新入生を集めて少し話をするか迷ったのだが、全てをカールに任せる事にした。


「おはよう 皆! 今日は俺たち新入生の晴れ舞台だけど、緊張をする必要はないよ」


「。。。。。」



「あははは 皆 緊張でガチガチだなぁ~ 他国の新入生も今の皆と同じで蒼白でガチガチになって居ると思う。  でもね そんなの気にしなくって良いんだ」



「。。。。 何で?」



「あのね 新人戦はこれから僕を含めて皆が経験するデビュタントの練習だと思えばどう?」



「デビュタントかぁ~」



「うん デビュタント あれもきっと緊張すると思うんだ! だって初めて正式に社交界にレビューするんだよ! きっと綺麗なお姉様や、カッコいいお兄様が沢山いて その中で自分の事を売り込むんだもの」



「あ 確かにそうね お姉様が初めてデビュタントに行った時は 頭の中が真っ白になって何も話せなかったし、ダンスを申込まれても手足が震えて何度も相手の足を踏んでしまったと涙目でお話をされてたわ」第四王女であるクリスティナが姉達の話して居た内容を皆に話した。



「それにね、実を云うと皆の実力は他国の学生より少しだけ良いと思うんだ。」



「え~ぇ 何で、そんな事が分かるの?」



「それは 僕が先輩達と一緒に練習が出来るようにお願いしたでしょ? 最初の頃の事を覚えて居る?」


「あ。。。。 あれね 先輩達に皆 勝ち越していたわね」



「うん  だって僕たちはまだ本格的に武術も魔法も剣術も習って居ないでしょ!  だから本来は新入生が先輩に勝ち越すって事は有りえないんだ!」



「と云う事は最初から少しだけ先行しているって考えられるよね」



「ルークは小さい時から第一歩兵師団の人から武術を習っていたでしょ! 第一歩兵師団は最強の集団だよ  その騎士団の人から習っていたんだもの 大丈夫だって!」



「キッシュは剣技では最強の近衛騎士団、第一連隊の人に習っているんだよ 自信を持って良いよ 先輩達からも 流石、近衛騎士団から習って居るだけあるって云われたでしょ 絶対に大丈夫だって!」



「クリスティナの剣技は女性として最高峰に達していると思うよ だってキッシュと同じ最強の近衛騎士団の第一連隊から習っているんだもの 男子のキッシュと一緒に訓練していてどう?」



「アメリアの魔法は将来の魔導師そのものだ 魔法の発動スピード、正確さに威力 今すぐ初等学部でも通用するよ 僕が云うのだから大丈夫だって!」



「ジェファーナは流石! 第三歩兵師団長の娘だよね  見ていて綺麗いで見惚れる位、技にキレとスピード、威力がある」



カールは一人一人の目を見ながら、自信を付けるように各自の技を褒めた。



始めは自信の無さに蒼白になって居た顔が、カールに云われた内容を噛みしめる様に反芻する事で自信を漲らせてきた。



生徒会長であるカトリーヌはカールが新人戦を迎える選手一人一人に掛ける言葉を聞きながら目を見張っていた。 その話術の巧みさは全幅の信頼を寄せる母達を想像させるものだった。



新人生は如何に普段の力を発揮するかがカギに成る、大抵の新入生は普段の力の半分も発揮できずに終わってしまうのだ。 これはカールの母達も同じで有ったようだ。



さぁ~ 新人戦の始まりである。 各国の選手は一様に緊張の中、カールだけは平常心で微笑んでいた。



「ジェファーナ! さっきも言ったけど、ジェファーナは強いよ そのリシテア先輩は優勝だったよね  そんなコーデリア流のリシテア先輩とだって堂々と立ち合ってたじゃないか 弱い筈が無いよ 絶対に大丈夫だから 練習の心算で頑張って!!!」



そんな励ましが功を奏したのかジェファーナは初戦のローランド聖王国の選手を圧倒的な力量差で打ち破り、そのまま優勝を勝ち取った。



<新人戦 武術女子>

 ・ハイランド王国     20点


 ・モナード公国       0点


 ・ホールミア獣人帝国   10点


 ・ローランド聖王国     0点


 ・コーラル連邦       5点


 ・ディノス帝国       0点






さぁ~次は男子の剣術だ!


「キッシュもさっき話した通りにすれば優勝も夢では無いからね! 実力はローランド聖王国やコーラル連邦よりも上だと思って居るよ 普段通りに頑張って!」



キッシュの初戦はローランド聖王国だ! 騎士の国と呼ばれて居るほど強いのだけど何とか勝つことが出来た。 この勝利はキッシュを乗せるには十分な相手だった。



その後4勝同士のディノス帝国と死闘を繰り広げたが決着が付かず、同率優勝と成った。



<新人戦 剣術男子>

 ・ハイランド王国     15点


 ・モナード公国       0点


 ・ホールミア獣人帝国   0点


 ・ローランド聖王国     5点


 ・コーラル連邦        0点


 ・ディノス帝国      15点




こうして、新人戦初日は多少の波乱だけで終了をした。



翌日は朝から物凄い、盛り上がりを見せていた。


今年のクーガ予選が自国と云う事で、アーレンハイト家の3人の女帝(学生時代の呼び名)は久しぶりにクーガ予選を安心と不安が入り混じった感情の元に観ていた。



勿論、カールが負ける事は微塵も思って居ないのだが、自重無しにやり過ぎて騒動を起こさないかの不安の方が大きかった。


また、午後からの剣術女子にはこの国の第4王女のクリスティナが登場する、貴賓席には既に国王夫妻が来席していた。



本来なら午後からの御出座なのだが、クリスティナが交際を申込んだカールが午前の部に出場するとあってわざわざ午前からの御出座に成った訳である。



その他にもキース・フォン・ロードメア伯爵夫妻やクリーク・フォン・グリューネ伯爵夫妻なども娘が交際を申込んだ子が気に成ったようだ。



特にキース・フォン・ロードメア伯爵は魔導師の家系である、同じ魔法に係わる者としてどうしてもカールの実力を見たかったのだ。



新入生の他のメンバーの実力には何も疑問を抱いて居なかった。


何時もの様に落ち着いたカールに手を振り送り出した。



それでも、クリスティナとアメリアはカールに近寄り「カール様 頑張ってください!」


「カール様なら優勝ですね!」と声を掛けていた。



「これより、新人戦 男子魔法の部の競技を開始します。 代表選手は所定の位置にお集まり下さい。」



場内に魔法で拡散された声が響き渡った。



カールは周りを見渡しながら、指定された位置に着いた。



やっぱり、モナード公国の選手とディノス帝国の選手は少し緊張しながらも気合たっぷりであった。



「改めて説明をするまでも有りませんが、競技は皆さんが同時に行います。 ここから10m、30m、50m先の的に魔法を当てて下さい ただそれだけです。」


「では 用意して~~   始め!」



カールは始めの合図と供のマルチプルしたファイアアローを放ち、3つの的を同時に当てると共に消滅させた。



この世界ではマルチプルの魔法は最上級の魔法である、同じ的に複数の魔法を当てるなら問題は無いのだが、異なる的に同じ魔法を当てるには、おのおの魔法をコントロールし威力を調整しなければ成らない。



もし、コントロールなしに魔法を放てば、どうなるか それは魔法の暴走を引き起こすのだ!



何故なら50mまで届かせる魔法にはそれなりの魔力を込めなければ成らない、そんな魔法が10m、30mの的に当ったらどうなるか?



当然、過剰な魔力はその位置で止まらず、多少の減衰が有るにしても的に纏わりつき周りにも影響を与えてしまう。



そもそもクーガで使用される的は命中した時の威力を記録する為、破壊される事は無いのだ。



だから、選手は的ごとに魔法を発動する必要が有ったのだ


それがクーガに於ける魔法競技のお約束だったのだが。。。



カールは精密にコントロールされたマルチプルでファイアーアローを3つの的に当てただけではなく、的を破壊してしまったのだ 多分、クーガの魔法競技が始まって以来の事だろう!



周りでの新入生は未だ魔法を放つための詠唱をしている最中だったのだが、的の破壊音に驚き詠唱を止めてしまった者も居た。



クーガ運営の係官が流石に的の破壊が起きては、騒がないはずがない。



「ストップ~~~!  競技者諸君 ストップだ!」



観客席に居たアーレンハイト家の3人の女帝は頭を抱えた!



まさか、ここまで自重が無いとは 教師はカールに少しは自重をするように話さなかったのだろうか?



そして国王のハンス・フォン・ハイランドは「ほぉ~ 娘が好きになった子は魔法の化け物か!」と少しご機嫌な様子で妃のヒルダ・フォン・ハイランドへ囁いて居た。



「うぁ~~ぁ」キース・フォン・ロードメア伯爵は言葉を失っていた、なまじ魔法師の家系であるだけに今 カールが行ったマルチプルのファイアーアローの凄さが分かるために唸るしかなかった。



クリーク・フォン・グリューネ伯爵は財務長官では有るのだが、魔法に付いては無知であったが凄い魔法が行使された事だけは分かった。



「流石 あのアグネス・フォン・アーレンハイトの息子だ 凄い魔法を使うのだな!」等と妻を相手に話して居た。




中断された競技は、運営委員会により仕切り直しを行う事に決定された。


これは、カールが事前に魔法の詠唱を行って居たのではないのかと思われたためだ。



実際は事前に魔法の詠唱を行って居ると、その競技者の周りには魔法陣が発生し分かってしまうのだが、そうでも考えなければカールの魔法スピードは理解できなかったのだ。



運営委員会によりカールの壊した的が全て新品の物に取り換えられ、競技が再開されることに成ったのだが 数名の運営委員はその場に残りカールの不正を暴こうと目を凝らして居た。



「競技を再開する前に、一言 話しておきますが 私が開始の合図をするまで魔法の詠唱は控えて下さいね! 開始前に始めるとフライングに成りますのでご注意下さい。」



全ての観客も前代未聞の出来事だったので、改めてルールの再確認に納得してしまっていた。


でも、アーレンハイト家の3人の女帝には事の次第が分かって居るだけに 溜息しか出なかった。



因みにカールが学院で本格的に魔法を使うのは初めてだったために、教師も生徒たちもカールの異常性に気が付いて居ないのだった。


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