第8話

アグネスはこれまでに多く 子供達のお披露目を目にしてきたが小さな戸惑いと大きな喜びに包まれていた 自分の子供が少し大人びた挨拶を行い、他の大人達に挨拶をしている 普段は自分に甘えるだけの子であったからだ 


今 此処でアーレンハイト家の武の要と知の要を紹介されたカールは目を輝かせていた 完全に獲物を捕らえた野獣の目である 残念ながら武の要素の無いフィリップやアグネスには分からなかった。 辛うじてマティルダは気配や目の動きから紹介した二人を気に入り好意を持ったらしいと事を感じた。


次に来たのは領都ルーンでも豪商のラワン商会だった


「おめでとうございます。 父から受け継いだばかりのラワン商会会頭のミートと申します、宜しくお願いします」


「ありがとうございました。 まだまだ未熟で世間を知りません 色々と教えて頂ければ 幸いです。」


「まぁ~~  カール様は目覚めの儀式を終えたばかりだと云うのに 私の娘と同い年とは到底思いませんね 普通は女の子の方が早熟だと云われますけど  もし、御用の節は何なりとお申し付け下さい。」


「ありがとうございます まだまだ子供で何が出来るか、分かりませんが その節は宜しくお願いします。」


ミートはカールの受け応えや態度をじっと観察していた、実は初めの挨拶は誰かが予め考えていて、それをカールが話して居たのでは無いかと考えていたのだった。 しかし、今の受け応えでこれは将来大物になる予感を得ていた。 失敗した!!  娘のシーズも一緒に挨拶をさせればよかったと思った。


隣ではフィリップやアグネス、マティルダがため息交じりにカールを見ていた。


「将来が有望なのかどうだか 此処にいる間に基礎をみっちり叩き込もう! アグネス良いね」  マティルダの呟きがアグネスの耳に辛うじて届く


アグネスは自分の息子の将来を思い 力なく頷くだけだった。


商人達の長い列が終わり少し歓談の時が続く 後は各種ギルドからの挨拶だ


本来は目覚めの儀式の挨拶と云う態を取っているが、実態は各団体の親睦と顔つなぎがメインになって居た  しかし、カールの挨拶から 招待客は一斉に本来の親睦や顔繫ぎからカールへの親睦と顔つなぎに意識を変えていた 特に商人はその辺の嗅覚は抜群であった。


「父上、母上 少し外しても良いでしょうか?」


「カール どうした? トイレか?」


「はい すみません」


カールが中座すると 商人たちは一斉にフィリップやアグネス、マティルダの処に集まり非公式の会見をに申しこんだ。


完全に青田買いだ!  カールは5男だ!  このアーレンハイト家を継ぐわけでは無いが完全にアーレンハイト家と縁が切れるわけでもない、ある程度 将来に対して自由が有るという事に成るという美味しい立場である。 そしてうまくすれば自分の商会に婿に来てもらえるかもと考えたのは1、2つではなかった。 王国の中ではそのような話が幾つもある そして御用商人になった商会も。。。。


その頃 肝心のカールは周りの騒音には我関知せず このお披露目の着地点を模索していた 事の始まりは 初めの子供バージョンの挨拶だった。 そしてアーレンハイト家の武と知の両壁への挨拶 3歳の子供はあのような挨拶は出来ないと気が付くべきであった 失敗である!!


既に完全な手遅れである。 こうなったらいっその事 神童として開き直った方が良いかもしれない などと色々と考えながらトイレに行き屋敷の庭を見た時 頭の上に付いて居てはいけない物を発見してしまう うぉ~~~ ネコミミである この世界には獣人も居る そしてアーレンハイト家領内にも多くの獣人が居るのだが カールはまだ3歳である 屋敷から出たのは先日の目覚めの儀式の為に教会に行った時だけである その教会に行くにも馬車にとり父や母と話していたため街の様子を見ていない まして帰りは知らないまま自分のベット中である


初めての獣人がネコミミである ワクワクしながら屋敷の庭へ近づいて行った。 そこにはカールと同じ位の年の女の子がお花を眺めていた。


カール思わず声を掛けてしまう。


「こんにちは どうかした?」


獣人の女の子は突然の声にビックリしたように振り向いた


可愛い!


「おトイレからの帰りがけに綺麗な花を見つけて眺めていました。 貴方は?」


「あ 僕も今 トイレからの帰りだよ 庭を見たら可愛い耳が見えたので。。。」


獣人は耳や尻尾を褒められると特に嬉しい 通常は同じ種族の場合、異性の尻尾や耳は大事で家族以外は触らせない程である


「ありがとう 耳を褒められて嬉しい」


「でも、此処でお花を眺めていて大丈夫?」


「あ みんなが居る所に戻らなくっちゃ 大人ばかりで退屈だったんだ」


「そうか ゴメンね じゃ~  一緒に大広間に戻ろうか?」


「私はシーズって云うの 貴方は?」


「僕はカールだよ」


「そうか カール君ね」


「うん 宜しくね」


恋や愛には縁遠い二人の初めての出会いである。


「シーズ ご両親は見つかりそう? 一緒に探そうか?」


「ありがとう でも大丈夫! 私 鼻は良いから 見つけられるよ それよりカール君は大丈夫? 見つけられる?」


「ありがとう 僕も大丈夫 鼻には頼らないけどね」


「じゃ~~ またね バイバイ」


可愛い子だったな~~ など思いながら父や母達の処に戻っていくカールもシーズが後姿をじっと見詰めていた事には気が付いて居なかった。


その後、色々な人に挨拶をされ、カールも挨拶をしたのだが 全ては覚えていない まぁ そんなもんだ


でも 何だか疲れた!!!!!!


目覚めのお披露目会も無事に終わり、全ての来賓もすでに帰った。


家族用のリビングで、のんびりとシンディーに淹れて貰った紅茶を飲んでいたら、父が母達と入ってきた。



「今日はご苦労さん!  お疲れだったな。 何か楽しいことでもあったか? 顔がにやけてるぞ」


 父とマティルダ母さんはカールの対面にアグネス母さんは俺の横のソファーに座った。


「実は今日 中座した時に猫耳を初めてみました 可愛かったです」


「そうか 良かったな でも 耳は触らなかっただろうな?」


「はぃ 触っていませんよ」


「なら良い 無暗に獣人の耳や尻尾に触ってはいけない 失礼になるからな 覚えておきなさい!」


それらはこれからハワードやシンディーに教わる事である。


今日の目覚めのお披露目会を無事に終わり 招待客からの評判予良く 機嫌が良くなっていた。


「まだ 3歳で早いが カール、お前は5男だから、このアーレンハイト家は継げない 将来の事も少しづつで良いから考えろ」


「はぃ わかっています。 僕は将来は冒険者になって世界中を回ろうかと思います」


「そうか 母さん達から色々と学びなさい!」


ようやっと 長い1日が終わろうとしていた。


帰りの馬車の中 シーズは母、ミーナに目覚めのお披露目会が有ったお屋敷の庭で同い年位の可愛い男の子に会った事と耳を褒められた事を 嬉しそうに話して居た そしてその子の名前がカールだと。。。。


母はやっぱり女の子は早熟だと改めて自分の娘を見るのだった。

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