第11話

 ねえ、みんな! ちょっと聞いてくれる?

 え? 「最初からずっと聞いとるわ!」って?

 ありがとな!!!!

 ……この流れもうどこかでやった?

 拙者さ、第4話でもチラッと書いたけど、身体にコンプレックスがあるわけ。

 まあ、金で解決することはできる!

 金がないだけでござる。

 いままで散々「肉体関係を結べないカップルもいる」と言い続けて来たのは、自分がそうだからなんだよね。

 結べないというか、コンプレックスのせいで体を晒せないってだけなんだけどね。

 それを知っているのに理解しようとしない者がいるってビックリだよね。

 みんなは自分がコンプレックスがないからって他人のコンプレックスを否定するような最低な人間にはなるなよ!

 いままでどうしていたのかって?

 めっちゃくちゃ暗くしたり服を脱ぎきらなかったりして誤魔化して来たのさ。

 じゃあこの先も誤魔化したらいいんじゃない? って?

 拙者もそう思うけどさ、正直ちょっとめんどくさいのよ。

 でね? まあご承知の通り喪女なんで、そういう関係になるお方がいなかったわけ。

 そういう関係になるお方がいないならまあもういっか! って感じだったのさ。

 ていうかね? そういう関係になるお方がいたとしても、コンプレックス解消のための資金がないわけさ。

 完全な詰み。

 まあね? 気にしすぎなんじゃないの? って言われることはあったよ。

 全貌を見てから言ってくれよな!!!!

 じゃあ全貌を見て判断するよ! って?

 見せたくねえからコンプレックスなんだよ!!!!

 ん? 友達と一緒に海やプールに行ったことはないの? って?

 はは、ラッシュガードという物があってだな。

 そういう関係になるお方もおらずお金もないいま、積極的にコンプレックスを解消しようとは思えないわけ。

 まあね? 消極的のままじゃそういう関係になるお方は見つからないよって思うかもしれないけどね?

 積極的に探さないもうひとつの理由は第6話前編で先述した通りだね。

 ふたつの理由で積極的にパートナー探しをせず、でも愛されたいと嘆いている……。

 まさしく「なんなんだよ」だね!

 ご承知の通り拙者、言い訳が多いからさ。

 できない理由にフォーカスしてしまうんだよね。

 もうひとつ言い訳をするとさ、疲労と体調不良でポジティブになれないんだ。

 誰だってこんなネガティブなパートナーは欲しくないでしょ? 絶対に疲れるよ。

 パートナーとは支え合わないとね。

 誰か私を強く抱き締めてくれえ――――!!!!

 なんかめちゃくちゃチーズバーガー食べたい。


 ってね!!

 さてさて。本日もドライブデートでござる。

 岬の灯台から夕陽を眺めようかと思っていたけど日が暮れる頃には灯台は閉まっちゃうから普通に岬から夕陽を眺めようってことになったよ!


「……」


佐久間さん

「え、なに。どうした」


「ごきげんよう以外の挨拶が思い付かないまま到着してしまいました」


佐久間さん

「ごきげんようでいいよ。無言で来るなよ」


「マンネリ解消でござる」


佐久間さん

「別にマンネリは感じていないが……。

 あ? 感じているってことか?」


「自分の挨拶に自分がマンネリを感じています」


佐久間さん

「なんでそんな挨拶に拘ってんだよ。まあいい、乗れ」


 佐久間さんってたまに命令口調になるの面白いよね。

 あ、佐久間さんだから許されてるんだよ?


佐久間さん

「今日は初めからマスクしてなかったな」


「もう諦めでござる」


佐久間さん

「なんだよ諦めって」


「そもそも拙者のマスク生活はノーメイクを隠すためのものだったので、メイクをしているいまは不要とも言えますな」


佐久間さん

「え、忍者の存在意義どこいった」


「後付けでござる。あのときの拙者はそう思っていたのだから間違いではござらん」


佐久間さん

「きっと辛いことがあってそう思うようになったんだなと察した俺の感情を返せよ」


「あのときの私はそう思っていたのだから仕方なくないですか?」


佐久間さん

「じゃあ別に忍者じゃなくてもいいじゃねえか」


「忍者じゃなくてもいいけど忍者でもよくないですか?」


佐久間さん

「何がなんなんだよ」


「ははは。わけわかんない」


佐久間さん

「自分で言って自分で笑うな」


「お笑い芸人失格ですね」


佐久間さん

「お前お笑い芸人なのか」


「忍者です」


佐久間さん

「なんなんだよ」


 佐久間さんと一緒にいると自由でいられるよね。

 他の友人たちだとこうはいかないからな。

 とても気楽で安心する。

 あれ? でも、そう思っているの私だけ……?


「……」


佐久間さん

「え、なにその顔」


「佐久間さんは私と一緒にいると疲れますか?」


佐久間さん

「え。いや、まったくだが……。どうした?」


「私は佐久間さんと一緒にいると気楽に過ごせますが、佐久間さんは気が休まらないとかだったらどうしようかと思ったんです」


佐久間さん

「ああ……。

 そんなことはないから安心しろ」


「そうですか。よかった」


佐久間さん

「気が休まらない相手だったらこんな頻繁に誘わないよ」


「こんなに振り回されているのに気が休まらないことがないなんて強靭なメンタルですね」


佐久間さん

「まあ面白がってるところあるからな」


「笑いのツボが浅くていらっしゃるんですね。

 くだらないコントでも笑ってしまうタイプですか?」


佐久間さん

「お笑い的に面白がってるわけじゃねえよ。

 こう言ったらお前がなんて言うか、ってところを楽しみにしているんだよ」


「なんと……拙者を試しておられるのか」


佐久間さん

「どういうこと?」


「この振りにどう答えるかの大喜利ってわけですね」


佐久間さん

「だからお笑いじゃねえっつってんだろ」


「ちなみになんて言うか予想したりしてるんですか?」


佐久間さん

「予想はするが、当たった試しはないな」


「完全勝利」


佐久間さん

「なんでそう予想の斜め上をいくんだ」


「佐久間さんの予想が当たるようになったら倦怠期ですね」


佐久間さん

「うわ……当てたくな……」


「大丈夫ですよ。拙者にかかればいつまでも斬新な気持ちで――」


佐久間さん

「新鮮だろ」


「おお、スピーディかつ的確で理想的なツッコミ!」


佐久間さん

「言わされた感がエグいな……」


「佐久間さんも予定調和には勝てませんでしたな……」


佐久間さん

「予定調和って言うな」


「なんて返すのが正解かってのは、割となんとなくわかりますよね」


佐久間さん

「敢えて不正解を選んでるというわけか?」


「例え世間一般的に見て不正解だとしても、拙者にとっての正解を採用しているだけでござる」


佐久間さん

「お前にとってそれが正解なら、俺にとってもそれが正解だよ」


「戦術的敗北ですわ」


佐久間さん

「どういうことだよ」


「自分の発言がイケ散らかした模範解答を導き出してしまったでござる」


佐久間さん

「それは別にいいだろ」


「佐久間さんと私って下手すれば口喧嘩になりますよね」


佐久間さん

「そうだろうな」


「佐久間さんの心が広すぎますわ」


佐久間さん

「お前とのやり取りを面白く感じられるかどうかじゃないか?」


「面白がってくれる人と出会えたのは拙者にとって幸運なことでしたね」


佐久間さん

「良いこと言うときに拙者って言うのやめろよ」


「はっ、面目ない。根が忍者ですゆえ」


佐久間さん

「お前は俺の心が広いと言うが、お前も俺のツッコミが気に障る忍者だったら言い争いになると思うぞ」


「世間一般的には不正解かもしれないと思っている発言に突っ込まれて怒るなんて自分勝手が過ぎるでござる」


佐久間さん

「まあ、それはそうだな」


 車内が暖かくて「ちょっと眠くなってきたなあ」と思っていると、赤信号で佐久間さんがサイドブレーキを引いた。

 今度は何を仕掛けて来るつもりだと構えようとしたときにはもう「時すでに遅し」で、抵抗する間もなく唇を重ねられていた。


佐久間さん

「相変わらず隙だらけだな」


「……」


佐久間さん

「拳はやめろって言ってんだろ」


 青信号になるので手出しはしないでおこう。


佐久間さん

「お前は隙だらけで助かるよ」


「忍者やめて暗殺者になろうかな……」


佐久間さん

「誰を消すつもりなんだ」


「とりあえず記憶力の良い美女を探しますわ」


佐久間さん

「形から入るタイプなんだな。

 お前はガードが堅いから隙がなくなると困るんだが」


「わざと隙をなくしているとしたらどうします?」


佐久間さん

「え、なんだその質問……含みを感じる……」


「どうします?」


佐久間さん

「やめろ。なんか怖い」


「ふ」


佐久間さん

「ふ、って。仕返しか?」


「なんか悔しかったので」


佐久間さん

「キスされて悔しがるレディなんていままでいなかったぞ」


「いままで周りに忍者がいらっしゃらなかったんですね」


佐久間さん

「いままでもお前しかいないしこれからもお前しかいないだろうな」


「不意を突かれるなんて忍者失格でござる」


佐久間さん

「嫌なのかよ」


「騙し討ちは卑怯でござる」


佐久間さん

「じゃあ許可を取ればいいのか?」


「許可する度胸がないです」


佐久間さん

「度胸ってなんだよ。

 じゃあやっぱり不意打ちしかねえだろ」


「……」


佐久間さん

「なんだよその顔は」


「……」


佐久間さん

「……正直に言え」


「……恥ずかしいんですよ……」


佐久間さん

「え」


「忍者には免疫がないって言ったじゃないですか」


佐久間さん

「……ふうん」


「くっ……やはりどこかで免疫をつけて来るしかないのか……!」


佐久間さん

「なんでどこかでなんだよ。

 俺でつければいいだろ?」


「ウッ……誠に不甲斐なく……」


佐久間さん

「お前の中でなんの葛藤があるのかはわからんが、お前が恥ずかしいと思うところまで含めて俺だけのものであるということに意味があるんだぞ?」


「なるほど……」


佐久間さん

「そうやってお前が思っていることをなんでも教えてくれ。そうでないと、お前が何を考えてどうしてほしいのかわからないだろ?」


「……わかりました」


佐久間さん

「不服そうな顔するな」


「捻くれ者なので素直に頷くことができないでござる」


佐久間さん

「自己分析できてるんだったらそれに対してどうしてほしいのか教えてくれよ」


「自分の心の平穏ために他人の行動を制御するわけにはいかないですよ」


佐久間さん

「え、俺の行動が心をかき乱すってことか?」


「はい、確実に。

 でもそれは忍者でなくても同じなんじゃないですか?」


佐久間さん

「そうだな。

 悪いほうにかき乱さないように気を付けるよ」


「まあ三日月川大橋のてっぺんに行くのを阻止されているという時点で、心の平穏はかき乱されていますね」


佐久間さん

「それは悪いほうなのか?」


「現時点では判然としませんね。

 最終的に三日月川大橋のてっぺんからダイブすると決めていたことで心の平穏を保っていたところがありましたので」


佐久間さん

「そうしないとしんどかったってことか」


「何があってもいずれそうするしと思えば楽でしたから」


佐久間さん

「なるほどな……。

 まあ、この先は俺がいることで安心して生きてもらわないとな」


「……そうですね」


 佐久間さんは私の感情の機微に割と敏いので、私が泣きそうになっていたことにも気付いていたかもしれないな。

 ってなわけで岬!!!!


「さむ……」


佐久間さん

「じゃあ左手貸せよ」


 佐久間さんが右手を差し出すので、素直に左手を重ねる。

 ここで捻くれる必要はないよね。


佐久間さん

「ところで」


「なんでござろうか」


佐久間さん

「給水所に何を設置するか思い付いたか?」


「……」


佐久間さん

「お前は素直じゃないのに正直だな」


「発想力が乏しく誠に不甲斐なく……」


佐久間さん

「俺が喜ぶこと、というより、自分が他人にしてもらって嬉しかったことを目安にすればいんじゃないか?」


「なるほど……その発想はなかった」


佐久間さん

「お前、友達いないの?」


「いないと言っても過言ではないですね!」


佐久間さん

「一応いることにはいるんだな。

 友達にプレゼントしたりされたりしないのか?」


「ないですね。

 差し入れを要らないと返されるくらいですから」


佐久間さん

「差し入れを要らないと返される……。

 まあでも、これまでの人生の中で人にしてもらって嬉しかったことくらいあるだろ?」


「たぶんあると思います」


佐久間さん

「あやふやかよ。

 まあいい。急かすつもりはないんだ。

 ゆっくり考えてくれ」


「はい」


 などと話しつつ歩いていると……前方に猫が!!

 思わず後退りして佐久間さんにぶつかっちゃったよね。


佐久間さん

「猫が苦手なのか?」


「猫好きには猫アレルギーが多いというのが円環の理なんですよ」


佐久間さん

「円環の理は違うだろ」


「まあ近寄らなければ大丈夫なので」


佐久間さん

「思い切り後退してたが……」


「佐久間さんだってポイズンスライムに出会ったら後退するでしょう?」


佐久間さん

「それは誰だってするだろ。

 まあ避けて行こう」


 と、お昼寝中のネチコを避けつつ……。


「うわー可愛いー撫でてえー……」


佐久間さん

「猫好きなのにアレルギーなんて不憫だな」


「導かれてしまったんですよ……」


佐久間さん

「円環の理は忘れろ」


「飼うとしたら犬なんですけどね?」


佐久間さん

「そうなのか。飼うか?」


「嫌です」


佐久間さん

「え、なんで」


「家が汚れる!」


佐久間さん

「お、おう……綺麗好きなんだな」


 と、なんのかんので日が暮れてきましたよっと。


「日が暮れると、また残機が減ったなあって思うんですよね」


佐久間さん

「三日月川大橋のてっぺんに行く日を指折り数えていたわけか」


「奇跡でも起こらない限りダイブするつもりでしたから」


佐久間さん

「奇跡は起こったか?」


「……どうでしょうね」


佐久間さん

「……」


「いてててててなんですかなんですか」


 頭をがっしり掴まれたでござる。


佐久間さん

「やっぱりお前は馬鹿だな」


「なんですって!?」


佐久間さん

「誰だよ。

 自分が奇跡だなんて烏滸がましいことは言えないが、俺はお前を海の底から引き上げられるように尽力している最中だ。

 ということを言い続けてどれくらい経ったと思ってるんだ。

 お前はいつまで殻の中に引きこもっているつもりだ?」


「……」


佐久間さん

「そんなに俺のことが信用できないか?」


「いえ……そういうことでは……」


佐久間さん

「……なあ、コウ。

 お前はいま何を考えているんだ?」


「……言いたくありません」


佐久間さん

「……そうか」


「……すみません」


佐久間さん

「いや。お前が話してもいいと判断したら話してくれ」


 佐久間さんを信用できないんじゃない。

 これまでの経験が自分の中に強く深く刻まれたせいで、いまだに前向きになれないだけ。

 佐久間さんがいれば、きっと明日も生きていけると安心して生きていける。

 だからこそ、怖くなってしまうんだよね。

 佐久間さんが力強く抱き締めてくれるので、いつまでもうじうじしている自分に嫌気が差したりなんかして。


佐久間さん

「お前はなかなか背中に手を回してくれないな」


「腕に伸縮性がないんです」


佐久間さん

「伸縮性は誰にもねえよ」


「そういう能力をお持ちの方もいらっしゃるかもしれませんしね?」


佐久間さん

「いるとしたら隠れるのが上手すぎだろ」


「もしかしたら忍者で隠れ身の術を使っているのかも……」


佐久間さん

「能力者じゃねえのかよ」


「能力者かつ忍者かもしれないですよ?」


佐久間さん

「なんでいるかいないかもわからない人間のことでこんなに議論しないといけないんだ」


「議論できるのは人間の特権ですよ」


佐久間さん

「どうでもいいってことだよ」


「さーせん」


佐久間さん

「なんだそれ」

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