第30話 楽しい冒険が続きますように(第二章最終話)
午後の鉱山ダンジョン探索は、ゆっくりペースで行う事にした。
午前中は、戦闘があまりにもピタッとハマるから、俺も沢本さんも夢中になって戦い続けてしまった。
午後は、戦闘が終ったら五分ほど休憩を入れてから移動し、ゆっくり歩くようにしている。
午前中の探索よりもスローペースにしたが、それでも、二階層右側エリアの探索は終了し、中央エリアの探索に入れた。急がずにゆっくり移動するペースが正解だろう。
「発見! 宝箱!」
沢本さんだ。
俺たちが歩いる鉱山ダンジョンの坑道は行き止まりだった。
壁に松明が灯されていて、松明の下に木製の宝箱を見つけた。
「おお! 御手洗さんの言った通りだ! 宝箱が一つあったよ!」
「やりましたね! 早速、回収しましょう!」
宝箱は木製なので、★4以上のアイテムが出ることはないだろう。
それでも、何か有用なアイテムが入っているかもしれないし、売ればお金になる。
宝箱に擬態した魔物ミミックの可能性に備えて、沢本さんが細身の剣を構える。
「カケル! いつでも良いぜ!」
「よしっ!」
俺は気合いを入れてから、宝箱に手をかけ蓋を開いた。
何も起きない。
良かった!
ミミックではなく、普通の宝箱だった!
宝箱の中には、金属製の小ぶりな丸い盾が入っていた。
手をかけて持ち上げようとしたが、持ち上がらない。
★3以下の装備品だ。
「沢本さん。この装備品が何だかわかる?」
「ん? あっ! これ! 鉄のラウンドシールド★2だ! 欲しかったヤツだ!」
沢本さんは、嬉しそうに『鉄のラウンドシールド★2』を持ち上げた。
鉄のラウンドシールド★2は、沢本さんが左手に持っている木製の盾に形が似ている。
「沢本さんが、今使っている盾の上位装備かな?」
「そう! 防御力が上がるんだ! 固くなる!」
「それなら、沢本さんが装備すれば?」
「い……、いいかな?」
沢本さんが、珍しく遠慮がちに聞いてくる。
宝箱から出た装備品を、二つも自分が使うのを遠慮しているのだろう。
俺と御手洗さんは、一度目を合わせてから同時にうなずいた。
「オッケーだよ! 前衛が固くなるのは大歓迎!」
「沢本さんの防御力が上がれば、私の安全度も上がるので、遠慮しないで下さい」
「そう? そっか? へへ……ありがとう!」
沢本さんは、嬉しそうに鉄のラウンドシールド★2を左手で持った。
鉄のラウンドシールド★2は、パーティーの所有物で沢本さんに貸し出す形だ。
「じゃあ、この『木のラウンドシールド★1』は、シズカが使うか? 巫女の衣装とは、見た目が合わないけど、イザって時に扇子だけじゃ心配だからな」
御手洗さんは、巫女の衣装を身につけている。
確かに、巫女の衣装に木のラウンドシールド★1は、あまり見た目が合っていない。
それでも、沢本さんの言う通りで、何も防具がないよりはマシだろう。
御手洗さんは、木のラウンドシールド★1を受け取り、防御する動作を何回か繰り返した。
「シズカ! どうだ? 使えそうか?」
「はい。使えそうです」
「そっか。じゃあ、シズカが使ってろよ」
「じゃあ、お借りしますね。ありがとうございます」
御手洗さんは、沢本さんの好意を受け入れた。
こうして装備品を使い回すと、冒険者パーティーって感じがする。
この三人組で大分馴染んできたな。
パーティーリーダーとして手応えを感じる。
少し時間は早いが、宝箱を回収したので、俺たちは地上へ戻ることにした。
*
『H市第一ダンジョン(仮称)退場 16時15分』
地上へ戻ると、工事車両の多さが目についた。
祖母の家は、駅から徒歩十分の落ち着いた住宅街の中にある。
家の前の道路は、静かで配達の車が時々通るくらいだった。
だが、今日は、トラックやクレーンなどの工事車両と、職人さんやガードマンで道が溢れているのだ。
「あれ? 工事が増えてるな……」
「だな……。優里亜の送り迎え気をつけないと……」
「今まで工事していなかったお家も工事をしていませんか?」
御手洗さんの指摘通りで、祖母の家の前の通り――つまり鉱山ダンジョン前の道路沿いの家で、あちこち工事が行われている。
「ダンジョン関係のお店や施設を作っているのでしょう。ご近所の庭先をお借りしているのだと思いますよ」
「あー、なるほど!」
どんなお店が出来るのだろう?
ちょっと楽しみだ。
沢本さんが、ウチのポストを指さした。
「カケル! ポストが溢れそうになってるぜ!」
「うわっ!」
ポストには、郵便やら何やらぎっちりと詰め込まれている。
新聞の夕刊が入らなかったようで、ポストの上に夕刊が置いてあった。
「沢本さん、夕刊をばあちゃんに届けてくれる?」
「あいよ! おばあちゃーん! 新聞ー!」
ポストに入っていたのは、郵便、DM、パンフレットだった。
それも一抱えある。
これは大変だ!
俺は御手洗さんと片山さんに泣きついた。
「ごめん! 仕分けを手伝って!」
「良いですよ。手伝いますよ」
「重要な書類を見落とすと大変ですからね。チェックしましょう」
うちの駐車場に三人で座って、仕分けをする。
郵便は祖母への年賀状の返信。
DMやパンフレットはカーディーラーが多い。
ご丁寧に顔写真入りの名刺が挟んである。
「高級車のパンフレットばかりだ。外車のパンフレットも多いなぁ。買わないのに」
俺の価値観では、3ナンバーの車や外車は税金が高いし、維持費がかかる金食い虫だ。
俺のつぶやきに片山さんが手を動かしながら聞いてきた。
「あら! ダンジョンのオーナーさんは、高級車に乗っている方が多いですよ。駆さんは、興味ないですか?」
「車があれば便利ですが、買うとしても中古の軽自動車や5ナンバーで十分ですよ」
「堅実ですね!」
セコイとバカにされるかなと心配したけれど、片山さんは良い受け止め方をしれくれた。
御手洗さんも、手を動かしながら会話に参加してくる。
「私は良いと思いますよ。無駄遣いする男性より、しっかりしている男性の方が、安心感があります」
「そうかな」
良かった!
御手洗さんも、良いコメントをくれた。
後は、ビジネス関係の書類ばかりだ。
コンビニを開きませんか?
自動販売機を設置しませんか?
駐車場のオーナーになりませんか?
「近所で工事が多い原因は、これもありそうだね!」
「この辺りも変わりそうですね」
鉱山ダンジョンが出来たことで、ご近所は否応なしに変化に巻き込まれた。
俺は少し責任を感じ、良い方向に変わって欲しいと祈った。
鉱山ダンジョンが出来て、俺の生活も大きく変わった。
きれいな女性三人に囲まれて、ダンジョンに潜る毎日。
忙しいが、きっと良い変化だろう。
祖母の家から良い匂いがする。
家が賑やかになったと、ばあちゃんは喜んでいた。
「おーい! 晩メシはおでんだってよ! おばあちゃんが、作ってくれたって!」
沢本さんが、戻ってきた。
ニッカリと笑った無邪気な笑顔が素敵だ。
「なあ、カケル。今度は私がマッサージしてやろうか?」
「えっ!? いや、いいよ!」
沢本さんが、俺の背中に寄りかかってきた。
そのまま、両手で俺の体のあちこちをもむ。
俺は慌てて、沢本さんをはねのけようとするが、座っているところに、上からのしかかられて抵抗できない。
「照れるなよ! 今夜もんでやるよ!」
片山さんがニコッと笑い、両手を開いたり握ったりしながら距離を詰めてくる。
「マッサージなら、私がやってあげますよ?」
「ええと……あの……」
「天地さん……、何をやっているんですか……」
「御手洗さん! 誤解だよ!」
俺たちは、駐車場でわちゃわちゃと騒いだ。
冬は日が落ちるのが早い。
徐々に寒くなってきたが、仲間がいるので心は暖かだ。
――このまま、楽しい冒険が続きますように!
―― 第二章完 ――
◆------------作者より------------◆
今話で二章は終了です!
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と思ったら!
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