第三章 嵐の冒険者

第31話 一般開放記念セレモニー

 ――二月一日。


 祖母の家にダンジョンが出来てから、一月が過ぎた。

 俺は、役所の手続きやダンジョン一般開放の準備、そして冒険者としてダンジョン探索を行い、非常に忙しい一月だった。


 忙しかったが、充実していたな。

 こんな気持ちは久しぶりだ。

 新しい仲間も出来たし、祖母も喜んでくれた。


 そして、ついに本日!

 祖母の家のダンジョンが、一般開放することになった!


 日本初の鉱山ダンジョンで、国内外から注目を集めているそうだ。

 今日の一般開放では、政府主催のセレモニーが行われる。


「うぜぇ」


 沢本さんは、容赦ない。


 先ほど、沢本さんは、娘の優里亜ちゃんを保育園に車で送りに行ったが、警備の警察に止められたり、報道陣の車が道に停めてあって邪魔だったりと散々だったそうだ。


 今は、沢本さん、御手洗さん、祖母は、こたつに入ってみかんを食べながら仲良くテレビを見ている。

 テレビでは生中継をしていて、祖母の家がテレビに映り込んでいた。


「じいさんが残した家なのに、本当に大げさだよ! 」


「おかげで私たちもお休みですよ」


 祖母も御手洗さんもご機嫌斜めだ。


 今日は鉱山ダンジョンのオープニングイベントとして、有名な冒険者パーティーが国内外からやって来る。

 最初に有名な冒険者パーティーや海外から招待された冒険者パーティーが鉱山ダンジョンに入場し、続いて一般の冒険者パーティーが入場する。報道陣のカメラも同行するそうだ。


 入場希望者が多いので、混乱を避けるため俺たちはお休みになった。

 これは、ダンジョン省からの依頼である。


「いやあ、本当にスミマセン!」


 ダンジョン省の片山さんが平謝りしている。

 片山さんはセレモニーの準備やら調整やらで、大忙しだった。

 少し痩せたかもしれない。


「駆さん。そろそろ会場へお願いします」


「わかりました。行きましょう」


 さて、俺は祖母の代理としてセレモニーに出席だ。

 特に挨拶などはなく、席に座っていれば良いのでOKした。


 正直、セレモニーに出席とか面倒臭い。

 だが、あの巨乳に頼まれては――ゲフン! ゲフン!

 普段お世話になっている片山さんに頼まれては断れない。

 ばあちゃんに負担をかけるのは、かわいそうだしね。


「カケルちゃん。よろしくね。お行儀良くしてね」


「カケル! テレビで見てるぜ!」


「天地さん。いってらっしゃい」


 俺はスーツ姿で、セレモニー会場のパイプ椅子に座る。

 セレモニー会場は、住宅街の道路に無理矢理舞台を設置した。


『H市鉱山ダンジョン一般開放記念式典会場』


 ――と書かれた看板が立っている。


 うちの鉱山ダンジョンは、『H市鉱山ダンジョン』と正式名称が決まった。

 この名前を決めるのも一悶着だった。


 日本政府からは、『日本鉱山ダンジョン』にしてくれと要請があった。

 東京都からは、『TOKYO鉱山ダンジョン』にしてくれと要請があった。

 地元H市からは、『H市鉱山ダンジョン』にしてくれと要請があった。


 それぞれ『偉い人』を派遣してきたが、知らんがな!


 祖母と相談して、一番無難そうな『H市鉱山ダンジョン』に決めた。

 この名前なら、冒険者さんが間違えて違う所に行くこともないだろう。


 名前が決まった時に、H市の市長はテレビのインタビューで泣いていた。

 私の誠意が通じたとか言っていたけど、市長と会ったことは一度もない。

 正直、きもいコメントだと思った。


 その市長と都知事と岸辺総理の三人がテープカットを行う。

 司会は女子アナさんで、キー局で夜のニュースを担当していた人だ。

 金がかかっている。


「それでは、テープカットをお願いします!」


 地元高校の吹奏楽部の演奏をバックに、市長、都知事、岸辺総理がテープカットを行った。

 地元の高校生が一生懸命演奏している姿に心が洗われる。


 続いて、有名な冒険者パーティーが『H市鉱山ダンジョン』に入場していく。


 最初は、日本の大手芸能事務所が送り出したアイドル冒険者パーティーだ。

 男の子九人組で、『9エレメンツ』というグループだ。

 風、火、水、土など、ファンタジーでおなじみの九つの属性が集まったアイドルグループというコンセプトらしい。

 九つの属性が何なのかは、知らない。


 カメラのフラッシュが一斉にたかれる中、9エレメンツのメンバーが鉱山ダンジョンに入っていった。


 二番手は、トップランカーの一人『羽沢健一』が率いる冒険者パーティー『ウィング・ストリーム』が続く。

 五人組のパーティーで、『男三女二』、『剣士三、魔法一、回復一』の組み合わせだ。


 五人とも、なかなかの面構えで、装備も一級品とぱっと見でわかる。

 恐らく★4以上で固めている。


 三番手はアメリカから来た四人組のパーティー、四番手はイギリス、五番手はフランスと続々と鉱山ダンジョンに入場していく。

 中国、韓国、台湾などアジア勢もいる。


(あれ、絶対情報収集が目的だよな……)


 外国から来た冒険者パーティーは、それぞれの国で活躍しているトップクラスの冒険者パーティーなのだ。

 鉱山ダンジョンが儲かるといっても、わざわざ日本まで飛行機代を払って来ても赤字になるだろう。


 ダンジョン省の片山さんによると、『うちの国も鉱山ダンジョンを探索させろ!』と各国政府にねじ込まれたらしい。

 情報収集を各国政府から依頼された冒険者パーティーだろうとのことだ。


 ねじ込まれたのは、岸辺総理らしいが脇が甘すぎませんかね?

 ウチの庭でスパイ活動は勘弁して欲しい。


 そして、一般の冒険者が鉱山ダンジョンに入場していく。

 順番は、冒険者パーティーメンバーのレベル平均値が高い順だ。

 メンバーのレベル平均が高い冒険者パーティーから入場するので、どんどん下の階層へ進んでくれる。

 なるたけ一階層で渋滞が起きないように、ダンジョン省が配慮したのだ。


『鉱山ダンジョンは収入が良さそうだが、獲得経験値が悪い』


 事前にこんな評価がネットで出回ったので、一般開放したが大混乱にならずに済んだ。

 片山さんの入場予想は、十分にレベルを上げた冒険者が多く来て、レベルを上げたい初心者冒険者は少ないだろうとのことだった。


 集まっている冒険者たちは、身につけた装備品が良く、落ち着いたベテラン冒険者の雰囲気を醸し出している。

 片山さんの予想が当たったな。


 片山さんが、ソロッと近づいてきた。


「駆さん。岸辺総理と都知事と市長に、ご挨拶をお願いします」


「わかりましたぁ~」


 まあ、挨拶も仕事の内だ。

 面倒だけどやりますよ。


 だから、片山さん、ブラウスのボタンを開放しなくても大丈夫ッスよ!

 お色気は嬉しいけど、ちゃんと仕事しますよ!

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