第28話 鉱山ダンジョンの二階層

『H市第一ダンジョン(仮称)入場 10時42分』


 俺たちは、うちの鉱山ダンジョンに入場した。


「今日から二階層だぜ! ついてきな!」


 沢本さんが、俺と御手洗さんを先導する。


 沢本さんは、張り切っているな。

 新しい階層だから、気合いが入っているのだろう。

 御手洗さんは、落ち着いた表情をしている。

 そして、ダンジョン省の片山さんが、スマートフォンで撮影しながらついてくる。


「片山さん、今日も撮影ですか?」


「ええ! 駆さんが天井を走る動画を昨日アップしたら、ダンジョン省内で凄く評判が良くて!」


 ダンジョン省中の人事評価に影響があるのかな?

 片山さんは、やる気がみなぎっている。

 今日は黒のパンツスーツ姿だが、歩幅が心持ち広い。

 お尻のラインを拝みたいので、前を歩いてくれないかなと思ったのは内緒だ。


 俺は朝からジョギングして、ネットでナイフ術の動画を見ておさらいをしておいた。

 やれそうな気がする。


 何が『やれる』かって、もちろん魔物との戦闘だ!


 鉱山ダンジョン入り口から階段を降りて一階層へ。


「あった! 新しくワープポイントが出来てる!」


 階段を降りた所、一階層の壁がワープポイントになっていた。

 壁の一部がうっすらと光り輝いている。


「ちゃんと二階層へ移動って念じろよ!」


「「了解!」」


 移動したい階層をしっかりと思い浮かべてワープポイントに入れば、移動したことのある階層へ転移することが出来る。


 俺たちは、ワープポイントを通って、二階層の入り口へ転移した。


 二階層の造りは、一階層と同じ坑道だ。

 俺たちは、一本道の坑道を進む。


 隊形は、俺と沢本さんが横並びで先頭を歩き、後ろに巫女で回復役の御手洗さんが続く。

 最後尾にスマートフォンで撮影をする片山さんだが、片山さんは撮影の都合で自由に前へ出たり、後ろへ戻ったりする。


 一本道を二十メートルほど進むと、分岐点に着いた。

 一本道から分岐するのは、一階層と同じだが違う点もある。


 分岐が三つなのだ。


 頭の良い御手洗さんも当然気が付く。


「分岐が三つですね。一階層はY字に分岐でしたが、ここは十字の分岐です」


「つまり、一階層より二階層の方が広いってことさ! 他のダンジョンでも、よくあるぜ!」


 経験者の沢本さんが御手洗さんに答えた。

 ダンジョンは下の階層へ行けば行くほど、階層が広くなる。


 つまり、水、食料の準備や引き返す判断が重要になる。

 ペットボトルの水とばあちゃんが持たせてくれたおにぎりとお菓子は、リュックサックに入っている。

 二階層を探索するには十分だ。


 俺は冒険者専用アプリのマッピング機能がオンになっていることを確認して、右へ進むことを選択した。


「右の坑道から探索しよう!」


 右の坑道を進む。

 坑道の壁には松明が灯されていて、視界はクリアだ。

 行動に支障はない。


「オッ! いた!」


「お客さんだぜ!」


 俺と沢本さんが同時に気付いた。

 前方十五メートル先に、コボルトが二匹いる。


 コボルド二匹もこちらに気が付いた!

 一匹は一階層と同じでスコップを持ち、もう一匹はツルハシを持っている。


「カケル! 行けるか?」


「ああ! 俺が天井を走って背後を取る!」


「オーケー! ゴー!」


 沢本さんと手短に打ち合わせて、俺は駆け出した。

 ★4の装備品を手に入れてから、初めての戦闘だ。

 心が高ぶり『やってやる!』という強い気持ちと決意で、俺は走り出した。

 ナイフ★4『縦横無尽』は、右手にしっかりと握られている。


「おおおおおお!」


 俺の雄叫びが坑道に響く。

 俺は右の壁から天井へ全力疾走する。


 視界だけ上下逆さまの世界で、二匹のコボルドがぎこちない動きをした。

 俺の行動が予想外だったのだろう。

 バグってやがる。


 俺はコボルドの頭の上を駆け抜けて、コボルドの背後を取った。

 左足を前に右足を後ろにして構え、ナイフ★4『縦横無尽』を順手で握り、刃の背に親指を添える。


 俺から見て、右にいるコボルドに狙いを定めた。

 右足で地面を強く蹴り、右手を真っ直ぐ突き出す。

 家で練習していたよりも、素早く、力強く体が動いた。


 二匹のコボルドが俺に向かって振り向こうとするが……。


「遅い!」


 俺が突き出したナイフ★4『縦横無尽』は、コボルドの脇腹――リバーに深々と突き刺さった。

 俺に腹を刺されたコボルドは、ビクリと体を痙攣させた後、光の粒子になって消えた。


 もう一匹のコボルド、ツルハシを持ちが、俺に向かってツルハシを振り上げた。

 俺は地面を蹴り、ステップバックして距離を取る。


「いっただきぃー!」


 沢本さんだ!

 ツルハシ持ちの意識が俺に向いた隙に、細身の剣をツルハシ持ちの胴体に突き入れた。


「グッ! ガッ!」


 ツルハシ持ちは、苦悶の声を上げてから光の粒子になって消えた。


「よしっ!」


「よっしゃあっ!」


「凄い! 秒殺でしたよ!」


 沢本さんと御手洗さんが抱きついてきた。

 俺たち三人は、抱きついたままぴょんぴょん跳ねる。


 御手洗さんの言う通り!

 俺と沢本さんは、まったく苦戦せずに、コボルド二匹を秒殺した!


 ふう、柔らかい物が両腕にあたって、最高の気分だ!


 ドロップ品は、ダンジョン金貨の小金貨が二枚!

 ドロップの収入も倍になる!


「よーし! 次に行こう!」


「おう!」


「行きましょう!」


 俺たちは、笑顔で二階層の探索を続けた。

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