第20話 黒い車

 うちの鉱山ダンジョンを探索して、三日目の朝が来た。

 昨日は大パニックだったが、今朝は何も問題ない。


 俺は寝間着のスエットの上に、ダウンジャケットを羽織って外に出た。

 朝の空気が冷たい!


 鉱山ダンジョンの前に、ガードマンさんが立っている。

 冬用のぶ厚い上着を着ているけれど、それでも寒いだろう。


「おはようございます。警備ありがとうございます」


「あっ! おはようございます! あの、今、お話してもいいですか?」


「えっ? 構いませんよ」


 ガードマンさんが、俺に話があるという。

 何だろう?


「夜の十二時ごろですけど、黒い車が何回も来たんですよ」


「黒い車? 心当たりがないですが」


「そうですか。何度もこのダンジョンの前をゆっくり通り過ぎるので、変だなと思って。スマホで撮影しようとしたら逃げられました」


「そうですか。なんか嫌ですね」


「ええ、まったくです」


 詳しく話を聞くと、車は国産のミニバンでちょっとイカツイ感じの車だったらしい。

 この辺りは、田舎色が強いから、地元のヤンキーみたいな車が走っている。

 例えば沢本さんのピンクの軽自動車とか、かなりガラが悪い。

 乗っている人は、かわいいけど。


「ちょっとヤンチャなお兄さんが、話題になったうちの鉱山ダンジョンを見に来たのかもしれないですね」


「そうかもしれないですね。一応、会社には報告を入れておきます」


 ガードマンさんも大変だな。



 *



『H市第一ダンジョン(仮称)入場 9時03分』


 三日目の探索は、ダンジョン省の片山さんも同行することになった。

 沢本さん、俺、御手洗さん、片山さんの隊列で、うちの鉱山ダンジョンを探索する。


 入り口から坑道を進み、分岐点を左に折れる。


 冒険者専用アプリのマッピング機能で描かれた、地図をチェックすると、未探索領域が絞られてきたのがわかる。


「沢本さん。そこの分岐を左へ」


「了解! オッ! 来たぜ! おはようコボルドの時間ですよ!」


 おお!

 今朝も今朝とて、コボルドが『おはよう!』しに来た。


 俺は両手にバールを握って前に出た。

 沢本さんとすれ違いざまにコンタクトを取る。


「出るぞ!」


「よろしく!」


 沢本さんが、ポンと肩を叩く。

 俺は昨日と同じ動きで、コボルドを引きつける。


(足が軽いな!)


 昨日と同じ動きをしたのだが、足が坑道の床を滑るように動く。

 動きに慣れたのか?


 いや、違う!


 コボルドの振り降ろすスコップを受けるまで、一呼吸余裕がある。

 昨日は気が付かなかったけど、俺の動きが早くなっている!


「ナイス!」


 沢本さんの細身の剣が、コボルドを貫き、コボルドは光の粒子になって消えた。


 俺は今の動きを、もう一度試してみる。

 やはり、動きが早い!


「天地さんは、レベルアップして、少しスピードが上がりましたね」


 巫女姿の御手洗さんが、笑顔で押してくれた。


「えっ? 本当ですか?」


「はい。後ろから見ているとわかります。昨日も早くなったと感じたのですが、たまたまかもしれないので言わなかったんです。さっきの戦闘で間違いなく早くなったと思いました」


 ひょっとして、昨日は胸をもんだから教えてもらえなかったのか?

 そうかもしれないが、胸をもんだ件を蒸し返してはいけない。


 俺は澄ました顔で返事をした。


「実は俺も早く動けていると感じています」


 片山さんが、スマートフォンで撮影をしながら声を掛けてきた。


「駆さんは、ジョブが盗賊なので、【素早さ】は、かなり伸びると思いますよ。レベルアップで一番実感しやすいと思います」


「そうなんですね! これで武器があればな……」


 ★4以上の武器が手に入れば、沢本さんと俺でツートップを組める。

 そうすれば、魔物が複数出現するエリアを探索するにも安心だ。


 三日目の探索は順調に進み、俺たちはボス部屋にたどり着いた。

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