第19話 地上の罠
『H市第一ダンジョン(仮称)退場 17時10分』
地上に戻ってきた。
冒険者専用アプリにダンジョンの出場記録を入力して送信する。
(あれ?)
うちの鉱山ダンジョンの入り口に、ガードマンが立っていた。
ガードマンさんは、俺たちの方を見て何か言いたそうにしている。
俺の方から挨拶した。
「お疲れ様です。俺はここのダンジョンオーナーの代行で、天地駆です」
ガードマンさんは、ホッとした顔をして挨拶を返してくれた。
「あっ! どうも! ご苦労様です!」
工事の人が手配したガードマンさんかと思ったが、今日の工事は終ったようで職人さんたちはいない。
俺が不審がる顔をしていると、ダンジョン省の片山さんが走ってきた。
「駆さん! お帰りなさい! それから、総理の会見でご迷惑をおかけして、本当にすいません!」
片山さんは、思い切り頭を下げて俺に謝る。
あっ! 何てことだ!
シャツの隙間から、谷間がのぞいている!
片山さん! あなたって人は! 何て素敵な人なんだ!
だが、俺に油断はない。
後ろには、すぐ冷やかす沢本さんと胸をもんで怒らせてしまった御手洗さんがいる。
迂闊な挙動は命取りだ!
クッ! 重モビルスーツが三体!
黒い三○星に迫られるア○ロさんの気持ちが、よくわかりました。
恐ろしい……恐ろしいことだよ……ブラ○トさん!
俺は怒っているフリをして、片山さんの谷間を堪能させてもらった後に、事情を聞いた。
片山さんの上司が首相官邸に『うちの鉱山ダンジョンの話』を持ち込んで、総理の周辺が飛びついたそうだ。
普通は、ダンジョン省がしっかり段取りを組んでダンジョンの情報を配信するそうだが、今回は首相官邸サイドが主導だったので、片山さんはノータッチ、ノーコントロールだったそうだ。
「わかりました。今後は情報の出し方に気をつけていただければ……」
「はい。上司には、強く申し入れました」
続いて俺は、気になっていたことを片山さんに確認した。
「こちらのガードマンさんは、片山さんの手配ですか?」
「はい! そうです! ダンジョン省の予算で手配をしました。二十四時間三交代で警備してもらいます」
二十四時間警備!?
俺は、少し大げさなんじゃないかと思った
沢本さんと御手洗さんも驚いている。
「ひえ~ニーヨンかよ!」
「凄いですね! でも、その方が安心ですね。夜、コッソリダンジョンに入る人がいるかもしれませんから」
確かに、御手洗さんの言う通りかもしれない。
あれだけ情報が拡散して、鉱山ダンジョンの場所もバレているのだ。
『ダンジョンがオープンしてないなら、夜のうちに入ってしまえ!』
そんなことを考える不届き者がいるかもしれない。
片山さんが、ガードマンさんとダンジョンの入り口に蓋をし始めた。
ポリカーボネート製の透明な板を、針金で固定している。
俺たちも手伝って、簡易にだがダンジョンは封鎖された。
お隣の臨時買い取り所で、ドロップ品の買取をお願いした。
今日は、ダンジョン金貨の小金貨が二十枚だ。
買取額は小金貨一枚一万五千円×二十枚で、合計金額は三十万円になった。
・冒険者取り分:二十二万五千円(七十五%)
⇒一人あたり:七万五千円(三分割)
・オーナー取り分:六万円(二十%)
・ダンジョン税:一万五千円(五%)
昨日は、二十七万円だったので、収入が増えている。
沢本さんの疲労も昨日より軽いようだし、俺が囮になる戦法は正解だった!
俺は自信を深めた。
「あっ!」
買い取り所から出ると、お隣のおばさんがいた。
お隣のおばさんは、ダンジョンが出来た時に挨拶と説明をしたのだが、かなり迷惑がられて、嫌味や文句を散々言われたのだ。
俺はすぐに頭を下げた。
「今朝はご迷惑をおかけしました! すいません!」
俺は怒鳴られるかなと覚悟して、恐る恐る顔を上げた。
すると、お隣のおばさんは、ニコニコ笑っている。
「いいえ! 気にしなくていいわよ! 今、ダンジョンからお帰り? 大変ね! がんばって!」
「えっ!? あっ!? はい! ありがとうございます!」
お隣のおばさんは、笑顔のまま家に入っていった。
俺は肩透かしをくらった気分だ。
俺の様子を見て片山さんが声を掛けてきた。
「駆さん? どうしたんですか?」
「お隣のおばさんは、ダンジョンが出来た時に挨拶をしたのですけど、物凄く嫌そうにしていたけど……。今、ニコニコだったでしょ?」
「ああ! お金が入るからじゃないですか?」
「お金?」
「はい。買い取り所から土地使用料が支払われます。迷惑料込みなので、月二十万円くらいもらえると思いますよ」
「えっ!?」
そんなにもらえるのか!
なるほど!
それならお隣のおばさんが、愛想良くしていたのも納得だ!
「これがダンジョンの経済効果です。ご近所の方には、色々な会社が交渉に来ていると思いますよ。あ! ほら!」
三軒隣の家に、スーツを着て土産物を持った男性が二人訪れていた。
片山さんが続ける。
「あの二人は、『庭先を貸してくれ』と交渉をしているのだと思います」
早くも経済効果が目に見える形で出てきて、俺は驚いた。
「こういうことは増えるのでしょうね」
「ええ。駆さんにも、色々なアプローチが増えると思うので気をつけて下さい。それこそ、儲け話があるとか、鍋を買ってくれとか、神のお告げを信じろとか、ゴブリンと和解しろとか……」
「わかりました!」
俺は、インターフォンの所に『営業お断り』のステッカーを貼ろうと心に決めるのであった。
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