第12話 沢本さんの負担

 俺たちは、初日から一人あたり『六万七千五百円』となかなかの稼ぎを叩きだした。


 ダンジョン省の片山さんは、『早速動画をアップします!』とダッシュで職場へ戻って行った。

 祖母のダンジョンの宣伝を無料でやってくれるのだから、ありがたい。


 巫女の御手洗さんは、ニコニコだ。


「実は会社を辞めて不安だったんです。でも、これだけ稼げるならやっていけそうです!」


 御手洗さんの装備品はレンタルで、月十万円かかる。

 それでも、今日の稼ぎなら二日でレンタル代を稼ぎ出せる計算が立つ。


 俺も金欠だったので、即金で『六万七千五百円』はありがたい。

 ダンジョンのドロップ品を売ったお金は、冒険者専用アプリで管理されている。

 冒険者専用アプリから電子マネーにすることが出来るし、銀行振り込みして現金化することも可能だ。


 俺と御手洗さんは話が弾むが、経験者の沢本さんが無言になっている。

 どうしたのだろう?


「沢本さん?」


「わりぃ……。何か急に疲れが……。ダルくて……」


 無理もない。

 このパーティーでは、攻撃役が沢本さんしかいないのだ。

 ずっと一人で戦っているので、肉体的にも精神的にも疲労するだろう。


「保育園のお迎えは、何時?」


「六時……」


「じゃあ、それまで部屋で横になりなよ。二時間は眠れるから」


「そうだな……。ちょっと休ませてもらう……」


 沢本さんは、娘さんを保育園へ迎えに行かなくてはならないが、まだ、午後三時ちょっと過ぎだ。

 二時間寝ても、お迎えの六時にはゆっくり間に合う。


 俺たちは、すぐに祖母の家に帰った。

 ダンジョンが家の敷地の中にあるので、移動が楽なのは助かる。


「ばあちゃん、ただいま!」


「かけるちゃんかい? 早かったね」


 祖母は居間のこたつに入りながらテレビを見ていた。


「ばあちゃん、今夜の晩ご飯はお寿司にしない? 俺が出すよ!」


「ええ!? 良いのかい!?」


「うん。今日は稼げたから、初日のお祝いをするよ」


「そうかい。じゃあ、おばあちゃんもごちそうになるよ」


 沢本さんと御手洗さんも引っ越して来たし、お祝いということで、今日は美味しいお寿司を食べよう!


「天地さん。それじゃあ、私がお酒を買ってきますよ。ビールで良いですか?」


 御手洗さんが気を利かせてくれた。

 お寿司を食べる、俺が支払うと聞いて、すぐに申し出る。

 出来た人だな。


「一緒に行きましょう!」


 俺と御手洗さんは、普段着に着替えてから買い出しに出た。

 駅前に大きなスーパーがあったので、駅前に向かう。


「天地さん。もう、一人、パーティーメンバーを増やしませんか?」


 歩いていると御手洗さんから提案があった。

 俺は、面接に来た冒険者さんたちを思い出して、渋い返事をした。


「そうですね……。うーん……」


「実際にダンジョンに潜ってみて感じたのですが、沢本さんの負担が大きい気がします」


「それは、俺も感じましたね」


 沢本さんは、ダンジョンの中では気分がハイになっていたが、ダンジョンから出たら途端に疲れて動けなくなっていた。

 御手洗さんの言う通り、沢本さんの負担が大きい。


「私が戦えれば良いのですが、ジョブが巫女なので……」


「あまり戦闘に向かないジョブらしいですから、無理はしなくて良いですよ」


 ネット情報によると、巫女は回復魔法が得意なジョブで、近接戦闘はあまり向かないらしい。

 それに御手洗さんは、扇子を装備していた。

 あの扇子は、MP消費を減少させる効果、MP節約効果がある装備だ。

 便利装備だけれども、近接戦では役に立たない。


「俺が戦えれば、一番良いのですけど……、武器が……」


「★4以上の装備品ですよね? レンタルは?」


「レンタルでもなかったです。★2までしかなくて……。それで今日はバールを持っていったのですが、バールで殴っても全く効きませんでした」


「そうなると戦闘は厳しいですね……」


 御手洗さんは、歩きながら考えている。

 俺は御手洗さんの横顔を見た。

 考え事をしている顔は、キリッとして凜々しい。

 頭の良い系美人って、素敵だなあ!


「そうすると、やっぱり増員した方が……。今日の売り上げから考えると、もう一人増やしても大丈夫だと思います。天地さんは、どうですか?」


「俺も同意見だよ。けど……、実は面接に来た人たちは、あまり良くなかったんだ……」


 俺は面接の時に、どんな人が来たかを御手洗さんに話した。

 チャラ男、ザ体育会系男、暗黒マン……などなどだ。


「うーん、ちょっと、そんな人と一緒に活動するのは、遠慮したいですね!」


「でしょ? 俺も嫌だった。それで、人柄重視で選んで、沢本さんと御手洗さんに決めたんだ」


「なるほど。そんな経緯があったんですね」


 こうして話してゆっくり話してみると、御手洗さんはお仕事の出来る方だと感じた。

 あくまでリーダーの俺を立てながら、パーティーの問題点を指摘して、解決策を模索する。

 まだ、初日だが、『様子を見る』ことをしない。


 これは……。

 俺がしっかりしないと、愛想を尽かされてしまう!


「それじゃあ、パーティーメンバー募集は継続するように、片山さんに頼んでおきましょう」


 俺は、もう一人攻撃職を入れることを決めた。

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