第11話 売却額

 ――午後二時三十分。


 探索を再開して一時間半が経過したが、沢本さんの動きが徐々に悪くなってきた。

 休みを入れようと提案したが、沢本さんは『稼ぎ時だ!』と続行を希望する。


 俺は経験者の沢本さんが言うのだからと、そのまま探索を継続してしまった。


「グッ!」


 沢本さんが、疲れから足をぐらつかせ転倒しそうになった。

 そこへコボルドのスコップが振り降ろされ、沢本さんは背中でスコップの振り降ろしをモロに受けてしまった。


「沢本さん!」


 俺はとっさにバールを持って突撃した。

 上から下に、両手で持ったバールをコボルドの頭に振り降ろす。


「ウウ!」


 コボルドに頭にバールがヒットしたが、コボルドは一瞬ぐらついただけで、すぐ反撃してきた。


『ダンジョンの中では、ダンジョン産の装備品でないと、攻撃の威力が大幅に減少する』


 忘れていたわけではないけれど、全力でバールを振り降ろしたのに、ダメージらしいダメージを与えられないとは!


 コボルドはお返しとばかりにスコップを俺の頭に振り降ろす。


「いてえええ!」


 原付用のヘルメットをかぶっていたが、物凄い痛みだ。

 とても立っていられない。

 俺は沢本さんの横に倒れた。


「巫女の癒やし!」


 御手洗さんの声が聞こえた。

 御手洗さんは、扇子を両手で持って前に突き出し【回復魔法★3】を放った。

 緑色のオーロラが、坑道の床に転がっていた俺と沢本さんを包む。


 痛みがスーッと引いていく。

 凄い! これが回復魔法か!


「天地さん! 来てます!」


 御手洗さんが叫ぶ。

 コボルドがスコップの先端で俺を突こうとしていた。


「うおお!」


 俺は横向きに転がってコボルドから逃れた。

 危ない!

 結構、ギリギリだった。


「くたばれ!」


 俺が逃げている間に、回復した沢本さんが立ち上がり、コボルドの土手っ腹に細い剣を突き立てた。

 コボルドは光の粒子になって消え、ドロップ品の小金貨が残った。


「御手洗さん! 回復ありがとう! 凄いですね!」


「シズカ! サンキュー! 戦闘中に、落ち着いてたな!」


「無我夢中でしたよ……」


 御手洗さんは、扇子を両手で持って構えたまま震えていた。

 沢本さんが近づき御手洗さんの手をそっとつかんだ。

 そのまま御手洗さんの手を下げさせる。

 ようやく御手洗さんが、大きく息をついた。


 御手洗さんは、必死だったんだろうな。

 本当に助かった。


 御手洗さんの精神状態も心配だし、沢本さんも疲れている。

 今日は撤収だ!


「今日は、これで帰りましょう」


「ええ!? まだ二時半じゃねえか! 早すぎるだろう!」


「今日は初日だし、俺も疲れた。だから、帰るよ!」


 まだ、沢本さんは稼ぎたいようだが、俺は危険な状態だと思う。

 沢本さんは興奮して、自分が疲れていることをわかっていないのでは?

 ダンジョンハイになっているのだろう。


 俺は強引に沢本さんの背中を出口の方へ押した。


「ほら! 帰るよ! 帰るよ!」


「わかったよ。まあ、結構稼いだし!」


「そうそう! 精算をお楽しみに!」


 俺たちは地上へ向かった。



 *



 ――三十分後。午後三時。


 俺たちは、無事に地上へ帰還した。

 スマートフォンを取り出して、冒険者専用アプリに『ダンジョンから退場した』と入力する。


 さて、どこで売却するかだ。

 俺はダンジョン省から来ている片山さんに質問した。


「片山さん。ドロップ品は、近くの冒険者ギルドで売れば良いですか?」


「いえ。連絡しておいたので、臨時の買い取り所があるはずです……。ああ、あれですね!」


 片山さんが指さす先は、お隣の家の庭だった。

 隣の庭にプレハブ小屋が建っている。


「朝はなかったのに……」


「ダンジョンに入っている間に、設置したのでしょう。あのプレハブが臨時の買い取り所です」


 俺たちがプレハブ小屋に近づくとプレハブ小屋の窓が開いた。

 同い年くらいの女性店員さんが、窓から顔を出し、俺たちに呼びかけた。


「買い取りですか?」


「そうです! お願いできますか?」


「では、こちらにドロップ品を置いて下さい」


 窓の奥にテーブルを置いて、臨時のカウンターにしている。

 俺はテーブルの上に、ドロップした小金貨を置いた。

 女性店員さんが目を丸くして驚く。


「えっ!? ダンジョン金貨がドロップしたんですか!?」


「はい。宝箱は一個だけでしたけど」


「宝箱からは、何が出ましたか?」


「疾風のナイフです。疾風のナイフは、装備するので売りません」


「あー、それは残念ですね!」


 女性店員さんは、テキパキと作業を始めた。

 ダンジョン金貨の枚数を数え、慣れた手つきでノートパソコンを操作して、画面をこちらへ向けた。


「ダンジョン金貨の小金貨が十八枚です。買取額は小金貨一枚一万五千円です。十八枚あるので、合計金額は二十七万円です」


「「「おお!」」」


 俺、沢本さん、御手洗さんが、合計金額の大きさにうなる。


「合計金額から二十五%が差し引かれます。二十%がオーナー様の取り分、五%がダンジョン税です。冒険者の取り分は七十五%で、二十万二千五百円です」


 オーナーは、売却額から二割をもらえる。

 ここのダンジョンのオーナーは祖母なので、二割は祖母の取り分になる。

 オーナーの取り分は、借金五百万の返済に全額充てるように手続きした。


「入金はどうしますか? 人数で均等割しますか?」


「均等割でお願いします! 三人のパーティーです!」


「三人で均等割すると、一人六万七千五百円です。では、冒険者専用アプリを起動して、こちらへ置いて下さい」


 冒険者専用アプリを起動して、スマートフォンを読み取り機の上におく。


 シャリーン!


 スマートフォンを手に取ってみると、冒険者専用アプリの画面に『売却額六万七千五百円』と表示されていた。

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