第10話 鉱山ダンジョン
「お昼休憩にしよう!」
時間は、ちょうど十二時だ。
宝箱を開けた場所は、行き止まりになっている。
壁を背にして、前だけ警戒すれば良い。
沢本さんは、菓子パン。
御手洗さんは、サンドイッチ。
二人とも近所のコンビニで買ったヤツだな。
俺は、祖母が握ったおにぎりだが、量が多い。
アルミホイルに包まれたおにぎりが五つも入っている。
「よかったら、一個ずつ食べない? ちょっと多くて。ばあちゃんが握ったおにぎりだから、ダメだったら断っても良いよ」
世の中には、他人が握ったおにぎりを食べられない人がいる。
無理強いしては、いけないのだ。
「おっ! 良いのか? ラッキー!」
「いただきます! 美味しそうですね!」
沢本さんと御手洗さんは、遠慮せずおにぎりを一つとった。
「すいません。公務員規定があるので、私は遠慮します。今は勤務中なので……」
「大丈夫ですよ。気にしないで下さい」
片山さんは、遠慮した。
公務員規定か……、色々とあるのだろう。
片山さんは、ちょっと周りを撮影してくると一人で歩いて行った。
俺はおにぎりを食べながら、水筒代わりのペットボトルから、朝入れておいた麦茶を飲む。
お金がないから、節約冒険生活なのだ。
節約志向は、沢本さんも御手洗さんも同じだ。
俺と同じように水筒から水を飲んでいる。
「リュックに予備の麦茶が入っているので、足りなかったら言って下さい」
「おう! サンキュー!」
「助かります!」
俺は戦えないから、せめてこれくらいはパーティーの役に立たないと。
おにぎりを食べ終えると、片山さんが戻ってきた。
離れた所で手招きをするので、沢本さんと御手洗さんに一言断って席を立つ。
「どうしました?」
「ちょっと一人で戦って、ドロップアイテムを確認して来ました。これです」
片山さんは、ベルトに吊るした道具袋から茶色い金属のインゴットを取り出した。
俺も持たせてもらったが、それなりの重さだ。
一キロくらいだろう。
「これは銅ですか?」
「そうです。銅は一キロ千円で売れます」
「この銅のインゴット一つが千円か……」
実入りとして、良いのか、悪いのか、よくわからない。
一階層のドロップとしては、悪くなさそうな気がする。
片山さんは、話を続ける。
「ここの一階層は、駆さんのスキル【ドロップ★5】で小金貨、普通の冒険者なら銅のインゴットがドロップすることがわかりました」
「なるほど……」
俺のスキル【ドロップ★5】が、あるとないとでは大違いだ。
売却額に十倍以上の差がつく。
「ドロップアイテムとダンジョンの様子から見て、ここは鉱山ダンジョンで確定です。おめでとうございます!」
「鉱山ダンジョン……」
「戦闘に関連しますから、沢本さんと御手洗さんにも教えますね」
「ええ、お願いします」
片山さんは、俺に祝いの言葉を述べたが、俺は鉱山ダンジョンが何なのかわからなかった。
リーダー試験の勉強をしたが、鉱山ダンジョンという言葉は見た覚えがない。
沢本さんと御手洗さんが、座って休んでいるところに戻ると経験者の沢本さんが、片山さんと話していた。
「鉱山ダンジョンって、外国の話じゃない?」
「はい。鉱山ダンジョンは、アメリカに一つ、ヨーロッパに一つあります」
「へえ! じゃあ、ここは国内初の鉱山ダンジョン?」
「そうです! ほら、あちこちに坑木があって、洞窟にしては変でしょう? この横穴は、洞窟じゃなくて坑道です。写真で見た鉱山ダンジョンの坑道とそっくりですよ」
確かに片山さんの言う通りだ。
壁は岩がむき出しでゴツゴツしているが、木の柱や梁が渡してある。
あ……、魔物のコボルドは、坑夫っぽかったな。
「そういえば、魔物のコボルドは、スコップを持ってました」
「そうです! 下の階層に行けばツルハシを持ったコボルドやモグラ型の魔物が出てくると思います」
ダンジョンのタイプが分かれば、類似するダンジョンのデータから出現する魔物の予想が出来る。
先々の戦闘を考えると、価値のある情報だ。
「それで、片山さん。さっき俺におめでとうと言った理由は?」
「鉱山ダンジョンは、大人気のダンジョンなんですよ!」
片山さんによれば、鉱山ダンジョンは金属系のドロップをするダンジョンらしい。
金貨のような貨幣がドロップすることもあれば、金属の塊がドロップすることもある。
鉄、銅、銀、金、宝石などのドロップがあるので、鉱山ダンジョンがあるアメリカやヨーロッパでは大人気のダンジョンだという。
ダンジョンへの入場は無料だが、ドロップ品の売却額から一定割合がオーナーに分配される。
だから、祖母のダンジョンに冒険者が入ってドロップ品の売却が増えれば増えるほど、祖母が受け取れるお金が増えるのだ!
祖母のダンジョン入り口に設置する設備の費用五百万円も、この分配金から精算されるので、俺の借金も減る。
大人気ダンジョンになるのは、大歓迎だ!
「日本政府としても鉱山ダンジョンは大歓迎ですよ!」
「「「おお~!」」」
景気の良い話に、俺、沢本さん、御手洗さんが盛り上がる。
特に、俺と沢本さんは金欠だから、お金の話を聞くとテンションが上がるのだ。
「やっぱりコボルドは金貨だぜ! 愛しちゃうよ!」
沢本さんは、目の中が円マーク『¥』になっていた。
きっと俺も『¥』になっているだろう。
さあ、午後も稼ぐぞ!
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