第9話 疾風のナイフ

 ダンジョン探索は順調に進んでいる。

 俺たちは、四つの分岐点を右、右、右、右と進んで来た。


 進む先に松明の灯りが見えた。


「あっ……行き止まりか!」


「そうだな……。けど、ほら! 下の方を見てみろよ!」


 俺はちょっとガッカリした声を上げたが、経験者の沢本さんがニヤリと笑って壁の下の方を指さす。


 行き止まりは、ゴツゴツした岩の壁で、壁には松明がかかっていた。

 松明の下には、ゲームなどでよく見る木製の宝箱が鎮座している。

 巫女の御手洗さんが、両手を口元にあて驚きの声を上げた。


「沢本さん! これが宝箱ですか!?」


「そうだよ。私も数回しか見たことがないけどね。一階層で宝箱が出るとは、未調査のダンジョンはスゲエな!」


 片山さんは、スマートフォンで宝箱とみんなの驚いた表情を撮影している。


 俺は宝箱に近づいて開けようとした。

 すると、沢本さんが俺の横で剣を構えたる。


「えっ!? 何!?」


「その宝箱が、ミミックだったら困るだろう? いつでも戦えるようにスタンバってる!」


 あっ!

 リーダー試験で出たな!


 宝箱を見つけたら、宝箱に偽装した魔物ミミックに警戒しろと。

 スキル【罠探知】があれば、本物の宝箱かミミックか見分けることが出来る。


「沢本さんは、スキル【罠探知】を持ってないですか?」


「ないな。まあ、開ければわかる! 思い切ってイケよ!」


「ええ~!」


 助けを求めて後ろを振り向くと、巫女の御手洗さんが扇子を両手に持って構えていた。


「怪我をしたら、私が回復します!」


「俺が開けないとダメか……」


 ミミックでありませんように!

 俺は心の中で強く願いながら、宝箱を開けた。


「おお! 何も起きない! 良かった!」


 ミミックでは、なかった。

 宝箱の中をのぞき込むと、革のケースに収まった小さなナイフが一振り入っていた。

 無骨な造りだが、グリップの部分に緑色の小さな石がはまっていてキラキラ美しく輝いている。


「ナイフですね! きれいな石がついていて、良い物っぽいです!」


 俺はナイフを手にしようとしたが、ナイフを持ち上げることが出来なかった。

 このナイフは★3以下の装備品だ……。

 ★4か★5の装備品を期待していたのだが……。


 俺がガッカリしていると、沢本さんが横から手を伸ばしナイフを持ち上げた。

 ナイフを持ち上げると、宝箱は光の粒子になって消えた。


 沢本さんと片山さんが、ナイフに顔を近づけて確認をしている。


「ああ、このナイフは、★2の『疾風のナイフ』だな! アタリだ!」


「そうですね! 装備すると素早さが、ちょっぴり強化される特殊効果が付与されています! サブウエポンとして、人気がある装備品です! おめでとうございます!」


 武器はメインウェポンを一つ、サブウエポンを二つ装備出来る。

 三つ以上の武器を持つことは出来るが、三つ以上の武器を持っても特効によるステータス上昇は望めない。


「★2かぁ~!」


 俺が落ち込んでいると、沢本さんが、不思議そうなに顔を近づけてきた。


「カケル~、どうした?」


「いや、俺は★3以下の装備品を装備出来ないから……。その『疾風のナイフ』は、装備出来ないんだ」


「ああ~! そうか~! カケルは本当に装備出来ないんだ~!」


 沢本さんは、心底驚いている。

 パーティーメンバー募集要項に書いておいたが、実感がなかったのだろう。


「この『疾風のナイフ』は沢本さんが使ってよ」


「えっ!?」


「俺は装備出来ないから。御手洗さん、どうですか?」


「私も沢本さんが装備すると良いと思います。沢本さんがずっと前に出て戦っているから、強化した方が良いです」


 御手洗さんも賛成してくれた。

 しかし、沢本さんは、首を振っている。


「いやいや! 不味いだろう!」


 不味い?

 何が不味いのだろうか?


「沢本さんの武器は、その細身の剣だけだよね? サブウエポンは、ないだろう?」


「そうだけど……。この『疾風のナイフ』は、買えば十五万円はするぜ? 俺がもらったら不味いだろう?」


「「十五万円?」」


 俺と御手洗さんは、『疾風のナイフ』を二度見した。

 確かに『疾風のナイフ』は、グリップに緑色の石が入っていてきれいだけれど、高すぎないか?


「高っ! 小さなナイフなのに、そんなに高いの!?」


「いや、だって、この『疾風のナイフ』は、ダンジョン産の装備品だから! そりゃ、高いよ!」


「ええ~!」


 装備品は高額だと聞いていたが、こんな小さなナイフが十五万とは……。

 俺は、撮影をしているダンジョン省の片山さんに確認した。


「はい、沢本さんのおっしゃる通りです。お店で買えば十五万円です。冒険者ギルドに売れば、売却価格は十万円です」


「売れば十万円になるのか……」


 なるほど。

 それで沢本さんは、『疾風のナイフ』をもらうことに抵抗感があるのだろう。


 俺は少し考えてから、沢本さんと御手洗さんに提案した。


「この『疾風のナイフ』は、パーティーの持ち物にしよう。それで、使うのが沢本さん。パーティーを抜ける時は、『疾風のナイフ』を返却する。どうかな?」


 沢本さんが、『疾風のナイフ』を買い取るとなれば、沢本さんの経済的な負担が大きい。

 だが、所有権がパーティーにあることにして、貸与する形にすれば、沢本さんの負担はない。

 不要になったら改めて売却して、売却して得たお金をメンバーで分ければ良い


 俺が丁寧に説明すると、沢本さんも御手洗さんも納得してくれた。


「助かるよ! ありがとう!」


 沢本さんは、嬉しそうに腰に『疾風のナイフ』を装備した。

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