第13話 経験値が少ない?(一章最終話)

 夕食は宅配寿司を頼み、ビールを飲んで賑やかだ。

 沢本さんの娘さんは、優里亜ちゃんという五才の女の子で、子供用のお寿司を美味しそうに食べていた。

 祖母も賑やかな夕食が嬉しいらしく、ちょっとだけビールを飲んで楽しく過ごしていた。


 こたつに入ってTVを見ながら、ノンビリと食事をしたことで、ダンジョンに入っていた緊張が大分とれた気がする。


 食後まったりしていると、沢本さんが今日の探索について話し出した。


「カケルとシズカはレベルアップしたのか?」


 俺と御手洗さんは、顔を見合わせる。


「いや……レベルアップしていない」


「私もです。レベルアップしていません」


「やっぱりレベルアップはなしか……」


 沢本さんは、ジッと何かを考えている。

 俺は沢本さんに話を促した。


「どうした?」


「いや……。レベルアップが遅いと思ってさ」


「そう……なのか?」


「ああ。カケルとシズカは、レベル1だろう? 普通は魔物を五、六匹倒せばレベルアップするんだよ」


 それは知らなかった!

 魔物は沢山倒したが、何匹倒しただろう?


「えっと……。沢本さんは、魔物を何匹倒した?」


「結構、やったよな……。何匹かな……?」


 俺と沢本さんが、指を折りながら思い出していると御手洗さんがパッと答えを出した。


「沢本さんの討伐数は、コボルドを十八匹です。遭遇したコボルドは、全て一匹。ドロップ率は百%です」


「お、おう! サンキューな! シズカ!」


 続けて御手洗さんは、スマートフォンを操作し、俺たちに画面を見せた。

 表示されているのは、ダンジョンの情報が沢山掲載されている『ダンジョWiki』の初心者向けコーナー『レベルアップ』のページだ。


 御手洗さんが、淡々とWikiに書いてある内容を話す。


「レベル1からレベル2へのレベルアップは、コボルドの場合は五匹討伐ですね。ゴブリンも五匹。スライムやホーンラビットなら七匹です」


「そうだな! 普通はそんなもんだろう!」


 あれ?

 辻褄があわないぞ?


「でも、今日は十八匹のコボルドを沢本さんが討伐したよ。それなのに、俺も御手洗さんもレベルアップしていないのは、何でだろう?」


「そこよ! それを言いたかった!」


 変だな……。

 俺たちは首をひねり、考え込んだ。


 俺のスキルが原因か?

 いや、スキルのマイナス要素はステータス表示に『※★3以下の装備品は装備出来ない』と書いてあった。

 レベルアップが遅いとは、書いてない。


 俺のスキル以外が原因だろう。


 御手洗さんが、手を上げた。


「ダンジョンが原因じゃないでしょうか?」


「「ダンジョンが?」」


「はい。得られる経験値が少ないダンジョンだから、私も天地さんもレベルアップしなかった……とか……」


「「ああ~」」


 あり得るな。

 鉱山ダンジョンは、希少なダンジョンだ。

 日本には存在しなかったタイプのダンジョンだから、情報がない。


「片山さんに連絡する」


 俺はスマートフォンのメッセージアプリを開いて、片山さんにメッセージを送った。


『鉱山ダンジョンは、得られる経験値が少ないかもしれません。俺も御手洗さんも、レベルアップしませんでした』


 しばらく待っていると、片山さんから返事が来た。


『本当ですか!?』


『はい。コボルドを十八匹倒しましたが、レベルアップしていません。海外の鉱山ダンジョンの情報は、手に入りませんか?』


『調べてみます。情報提供ありがとうございました!』


 最後に親指を立てるスタンプが送られてきた。


「片山さんが、海外の鉱山ダンジョンについて調べてくれる」


「海外の事例が分かれば、ハッキリしそうですね」


 御手洗さんは、お仕事モードの口調で答えた。

 海外の鉱山ダンジョンでも得られる経験値が少ないと分かれば、うちの鉱山ダンジョンも同じと考えて良いだろう。


 しかし、レベルアップが遅いのは痛いな。


「なあ、他のダンジョンに潜る手もあるよ? 他のダンジョンに潜ってレベルアップしてから、ここの鉱山ダンジョンに潜るのもアリだぜ?」


 沢本さんが、他のダンジョンに入ることを提案してきた。

 それもありだな!


 いや、しかし……。


「もう、ちょっと様子を見よう。うちの鉱山ダンジョンの情報をもっと集めたい」


「そうか? それなら、それで構わないぜ」


「稼ぎは良いダンジョンですから、活動資金をある程度稼ぐまでは、ここの鉱山ダンジョンで良いと思います」


 沢本さん、御手洗さんともに賛成してくれた。

 うちの鉱山ダンジョンは、稼ぎが良い――それも、理由の一つだが、二人ともうちに引っ越して来たばかりだ。生活に慣れるまでは、家から近いダンジョンに入場すれば良いと思う。


 それに、沢本さんの保育園送迎がある。

 家から離れたダンジョンへ行けば、送迎の時間を気にして潜ることになるだろう。

 そうなると、ダンジョン内で事故る確率が上がる。


 一月くらいは、うちのダンジョンで稼いで、それから他所の活動を検討しても良い。


 祖母が急に大きな声を出した。


「あれ? カケルちゃん! TVにうちが映っているわ!」


「えっ?」


 TVはニュース番組が始まったところで、画面にはうちの鉱山ダンジョン入り口が映っていた。

 テロップには『日本初! 鉱山ダンジョン発見と政府発表』と出ている。


 俺は慌ててリモコンでボリュームを上げた。

 女性アナウンサーが、笑顔で話し始めた。


『先ほど政府より発表がありました。日本で鉱山ダンジョンが発見されました!』


 続いて、俺たちの姿が映し出された。

 ダンジョンに入り、コボルドと戦い、ダンジョン金貨がドロップし大喜びする俺たちの姿が、全国ネットのニュース番組で流されていた。


「ママだー!」


 沢本さんの娘優里亜ちゃんが、両手を上げて大喜びしている。


「片山さんの撮影した映像ですね。画面の隅に『ダンジョン省提供映像』って出ていますよ」


 御手洗さんが、冷静に指摘した。

 片山さんは、ネットに動画をアップすると言っていたからTVに流用しても構わない。

 でも、ビックリした!


 続いて、画面は首相官邸に切り替わった。

 岸辺総理が、会見を開いている。


「我が国で鉱山ダンジョンが発見されました。鉱山ダンジョンはアメリカとヨーロッパに存在しますが、金属や貴金属を排出するダンジョンです。我が国の資源政策の一助になると確信しております」


 御手洗さんが、鋭い声を上げる。


「これは支持率稼ぎですね」


「支持率?」


「岸辺内閣の支持率は二十五%で不人気なんです」


「ああ! 人気取り、点数稼ぎで、うちの鉱山ダンジョンをネタにしたのか……」


「はい。面倒なことにならないと良いのですけど……」


「大丈夫じゃないかな?」


 まあ、政府の宣伝に使われたのは、ちょっと思うところがあるけれど、うちの鉱山ダンジョンの宣伝にもなった。

 それほど悪くはない。


 TVで会見をする総理に、メモが渡された。

 岸辺総理が淡々と告げる。


「最新の情報ですと、鉱山ダンジョンは、得られる経験値が少ないかもしれないとのことです。本件は引き続き注視して参ります」


 片山さんに送った情報が、もう、総理大臣にまで伝わったのか!

 凄いな!


 ピロン!


 スマートフォンが鳴った。

 片山さんからのメッセージだった。


『ごめんなさい! 上の方から総理大臣に伝わって、大事になっちゃいました!』


 俺は『気にしないで下さい』と返事を送った。


 祖母の家にダンジョンが出来た時は、大慌てだったけれど、『何とかなったな』と俺は感慨深かった。


 片山さんは、ダンジョン関連でお世話になった。

 沢本さん、御手洗さんのおかげで、冒険者パーティーを組んで、ダンジョン探索が出来た。


 借金をしたけれど、今日の調子なら返済は問題なさそうだ。


 みんなでこたつを囲んで賑やかなことに、俺は満足を覚えながら、缶ビールを飲み干した。


 ――みんなありがとう!



 ―― 第一章完 ――



◆------------作者より------------◆


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