第6話 また、ワケあり風の面接者

 片山さんに褒められて、俺は機嫌良く面接を続けた。

 だが、良いと思える人は、なかなか現れなかった。


「片山さん。なかなか良い人がいなくて……。俺がわがままなのでしょうか?」


「いえ、そんなことはありません。冒険者パーティーは、長い時間を一緒に過ごしますから、相性の良い人と組んだ方が良いです」


「そうか……、そうですよね!」


「むしろ相性の悪い人を面接で弾いていると考えてください」


 そういう考え方もあるのか!

 俺は気を取り直して、次の冒険者さんの書類に目を通す。


(おやっ?)


 次の人は、住所が埼玉県だ。

 ここH市から電車で二時間かかる場所に住んでいる。


 これまで申し込んできた人は、同じH市の人や同じ沿線の人が多かった。

 俺は不思議に思い片山さんに聞いてみることにした。


「片山さん。次の人は、埼玉から来たみたいですよ。遠いですね」


「そうですね。彼女は住み込み希望ですよ。独身女性で住み込み希望は、珍しいですね」


「えっ!? 本当だ!」


 片山さんに指摘されて気が付いたが、住み込み希望と書いてある。


 年齢は二十三才。

 履歴書では一流大学を卒業して、一流企業に就職している。


 一流企業をやめて、冒険者に……。

 謎だな……。


「バトルジャンキーみたいな人でしょうか? 戦闘が好きで会社を辞めて冒険者になったとか?」


「どうでしょう……。会社を辞めた理由が聞きたいですね……」


「そうですね……。冒険者登録は……うわ! 一月一日だ!」


「初心者さんですね。けど、スキルは魅力的ですよ」


 ジョブは、『巫女』。

 スキルは、『回復魔法★3』だ。


 片山さんの言う通りスキル『回復魔法★3』は魅力的だ。


「回復魔法★3は、回復量が多く、MPの消費が抑えられています。長時間ダンジョンで活動出来ます」


「採用したい人材ですね……」


 次の面接者、今話していた女性が入室してきた。


「御手洗静香です。よろしくお願いします」


 御手洗さんは、きちんとビジネススーツを着てきた。

 面接に普段着で来る人が多かったのもあって、御手洗さんが物凄くちゃんとした人に見える。


 会話してみたが、話しぶりも落ち着いていて、特に問題はなさそうだ。


 俺は気になっていた点を質問してみた。


「差し障りなければ、会社を辞めた理由と冒険者になった理由を教えていただけますか?」


「はい。私は――」


 そこからは、スラスラと答えが返ってきた。


 ・デスクワークが合わなかった。

 ・学生時代スポーツをやっていたので、体を動かす方が好き。

 ・冒険者は体を動かす仕事なので、自分に向いていそう。

 ・住み込みをして将来の為に、お金を貯めたい。


 ごく自然なしゃべり方で、聞いていて『なるほど』と思える話だった。

 ただ、俺は違和感を覚えた。


(ああ、これは事前に用意していた答えだな……)


 あまりにも自然にスラスラと退職理由を話していたのが、逆に不自然なのだ。

 多分、本当の理由は他にあるのだろう。


 御手洗さんが退室すると、俺は軽くため息をついた。


「本当のことは、話してくれませんでしたね」


 片山さんも、書類をトントンと揃えながらうなずく。


「そうですね。退職理由は、話しづらいでしょうから仕方ないですね」


 御手洗さんの受け答えは、そつなく、話しぶりは落ち着いていた。

 俺なんかより、よほど仕事が出来るのだろう。


(冒険者より、元の会社の方が向いていると思うけど……)


 俺は御手洗さんの書類に『検討』と鉛筆で記入した。


 その日、夕方までかけて面接をしたが、クセのある人が多く、なかなか良い人に当たらなかった。


 俺は、少し引っかかりを覚えながらも、御手洗さんに合格通知を送った。

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