第5話 ワケありの加入希望者

 今日はパーティーメンバーの面接だ。

 俺はスーツ姿で緊張している。


 面接場所は、H市市役所の会議室をお借りした。

 俺は、祖母の家で面接と思っていたのだけれど、H市から『ぜひ協力させて欲しい』と連絡があった。

 祖母の家があるH市としては、H市に初めて出来たダンジョンなので、支援に力を入れたいそうだ。


 面接するのは、もちろん俺だ。

 ダンジョン省の片山さん、H市市役所のやる気のなさそうな中年男性も同席する。


 片山さんは、俺のアドバイザー。

 H市職員の男性は、市として必要な手続きが発生した場合に備えた人員だ。


 俺は採用する側で面接なんてしたことがない。

 経験がないので、片山さんと市の職員さんが一緒にいてくれるのは大変ありがたい。

 俺は二人の同席を承認した。


 最初の冒険者さんは、同い年の剣士だった。

 同い年で話しやすい人だと良いと期待していたのだが……。


 チャラい! とにかくチャラい!

 面接の間、ずっと美人の片山さんを見て、ずっと美人の片山さんに話していた。


「僕は冒険者として、ロマンを追い求めているのですよ!」


(何アピールだよ!?)


 俺はリストに×印をつけた。


 二人目は、三十才の男性冒険者だった。

 学生時代格闘技をやっていたそうで、ジョブも格闘家!

 年上で頼れそうだと期待していたのだが……。


「まあ、任せておけ! 俺の指示通り動けば問題ない! 大切なのは気合いと根性だ!」


(昭和かよ!)


 俺は笑顔をキープしながら、心の中で突っ込んだ。

 装備品が装備出来なくて、気合いと根性では、どうにもならない状況だから、パーティーメンバーを募集しているのに……。


 俺は、またもリストに×印をつけた。


 三人目は、回復魔法が使える白魔法使い、四十代、男性。

 戦闘で怪我をしても回復魔法があれば安心だ!

 と、期待していたのだが……。


 暗い! とにかく暗い!


 人生に絶望した顔で椅子に座り、質問をしてもボソボソとよく聞こえない声で返事をする。

 この人と長時間行動を共に出来るだろうか?


(いや……無理だろう!)


 俺は、三度リストに×印をつけた。


 面接者が退室すると、俺はノビをした。


「いやあ~、アプリの情報だけでは、わからないものですね!」


 事前に冒険者専用アプリで応募者の情報をチェックして、良さそうな人だけ面接に来てもらった。

 だが、実際に会ってみれば、期待外れ感がハンパない!


「相性もありますからね。会ってみないとわかりません」


 片山さんもノビをしている。

 ずっと黙って座っていたので、肩が凝っただろう。


 H市の職員さんは、ずっと寝ている。

 やる気ないな。


「次は女性ですね」


 俺は次に面接をする冒険者さんの書類に目を通した。

 名前は、沢本さん。

 女性で、俺と同い年の二十六才。

 レベル10の軽剣士で、住み込み希望。


「駆さん。次の沢本さんは冒険者パーティーを転々としている人です。トラブルメーカーの可能性があります。住み込みですと、駆さんやおばあちゃんと一緒に生活をすることになります。慎重に判断して下さい」


 片山さんに言われて経歴欄に目をやると片山さんの言う通りだった。

 確かに、二か月、三か月で冒険者パーティーを辞めて、次のパーティーに加入している。


「わかりました。気をつけます」


 問題の女性冒険者沢本さんが入室してきた。

 髪の毛は明るい茶色で、メイクが少し派手だ。

 雰囲気的に元ギャル? 元ヤンかな?


「初めまして! 沢本里奈です! よろしくお願いします!」


「天地駆です。本日は、来ていただいてありがとうございます」


 沢本さんは、元気よく笑顔で挨拶してくれた。


「沢本さんのジョブは軽剣士ですね?」


「そうだ! スピードタイプの剣士だな。パワーはないけど、スピードはあるぜ!」


「ほうほう。武器や防具は?」


「武器は、サーベルみたいな細い剣だ。防具は革鎧と小ぶりな丸い盾。スピード重視だから、軽めの装備で揃えているぜ」


 沢本さんは、話しやすい人だ。

 話し方が少し荒っぽいが、まあ、戦闘をする冒険者なのだから許容範囲だろう。


 俺は沢本さんに好感を抱いた。

 Lv10の経験者だから、色々アドバイスをもらえるかもしれない。


 ちらりと片山さんを見ると、好意的な視線で沢本さんを見ていた。

 片山さんから見ても、沢本さんは良い印象なのだろう。


 俺は気になっていることを質問した。


「冒険者パーティーの脱退が多いですね。理由を教えていただけますか?」


「あー……。やっぱ……、気になるよね?」


 沢本さんは、話しづらそうだ。

 あまり触れて欲しくない話題なのだろう。

 だが、命を預けあう仲間になる以上、マイナス要素を知っておきたい。


「差し障りなければ、教えて下さい」


「娘がいるんだ……」


 俺は、再び沢本さんが提出した書類に視線を落とす。

 家族欄に五才の娘が一人と書いてある。

 旦那さんは……、気の毒に……、お亡くなりになっている……。


「昼間は保育園に預けるんだが……。送りや迎えがあるだろう? だから、ずっとダンジョンには、潜っていられないんだ……。あと……子供だから、熱を出すこともある……。そうすると休まなきゃならないし……」


「なるほど……。それで、パーティーを転々と?」


「ああ……」


 そうか、沢本さんは、シングルマザーの冒険者だから、一人で子育てをしなくちゃならない。

 娘さんが熱を出したら、沢本さんが病院へ連れて行って看病しなくちゃならない。

 保育園の送り迎えも、沢本さんが毎日一人でやらなくちゃならない。

 それでダンジョン探索に参加出来ないことがあり、パーティーを辞めざるをえなかった。


 前の会社でもいたな……。

 子供さんの都合で会社を休んだら、上司に怒鳴り散らされて、同僚にネチネチ嫌味を言われて……。

 かわいそうだった。


 あの時、俺は何も出来なかった。

 平社員だから、何の権限の力もなくて、仕方なかったのだが……。


 だが、今回は『仕方ない』では、済ませたくない。

 今の俺にはパーティーリーダーとしての権限もあるし、ダンジョンオーナーとして市や国への発言力もある。

 自分の持っている権限や力を人の為に使える立場だ。

 

 俺は自分を変えたい!

 髪の色だけでなく、心も変えてしまいたい。


 俺は沢本さんに同情した。

 それ以上に、自分の行いや自分の心根を変えたかった。


 偽善と言われても良い。

 自分が良いと思ったことをしよう!


 沢本さんは、もう、あきらめモードの顔をしている。

 けど、俺はあきらめないですよ!


「沢本さん。ウチの裏に保育園がありますよ」


「え……?」


 祖母の家から坂を下ったところに保育園がある。

 歩いて五分もかからない。


 俺はスマホを操作して、地図を見せる。


「ここが住み込みする俺の祖母の家です。ここを左に曲がって、坂を下ったところに保育園があります。近いから送り迎えが楽ですよ」


「えっ!? えっ!?」


 沢本さんは、俺が断ると思っていたのだろう。

 保育園の案内をされて、驚いている。


「それから、冒険者が一人親の場合は、補助金が市と国から出ます。あまり多くないですけど、子供さんってお金がかかるでしょう? 申請しちゃいましょうよ!」


「補助金なんてあるのか!?」


「はい、あります。冒険者って、色々優遇されているんですよ」


 俺は隣で寝ているH市の職員さんを叩き起こした。


「起きて下さい! 仕事ですよ! 一人親冒険者支援制度の説明をお願いします! あと保育園の手続きも!」


「うぇ! ああ、はい!」


 俺はスマートフォンを手に取ると冒険者専用アプリを操作した。


 沢本里奈――合格!


「沢本さん、今、合格通知を送りました。俺は沢本さんに加入をお願いしたいです。保育園や補助金の説明は、こちらのH市の職員さんから受けて下さい」


「あ……ありがとう! ありがとう!」


 沢本さんとH市の職員さんが部屋を出て行くと、片山さんが厳しい目で俺を見た。


「駆さん。沢本さんを合格にしたのは、同情ですか?」


 俺は沢本さんの目を見返す。


「同情もあります。けれど、俺が沢本さんを何とかしてあげたいと思ったんです。そして、何とか出来る立場だったから、合格にしました。戦力としては問題ないですよね?」


 しばらくにらみ合ったが、片山さんがフッと息を吐き表情を和らげた。


「そうですね。戦力として、アテに出来る人だと思います。悪くない選択だと思いますよ。しかし、よく覚えていましたね! 一人親冒険者支援制度のこと」


「リーダー試験に出たんですよ」


「真面目に勉強されたのですね」


 緊張していた空気が弛み、二人で笑顔になった。


「駆さん!」


「はい、何ですか?」


「さっきは、ちょっとカッコよかったですよ」

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