第4話 『公式』メンバー募集
片山さんにひっぱたかれて、頬がジンジンする。
だが、悪くない痛みだ。
新しい世界が開いてしまいそう。
「きゃあ! ごめんなさい!」
「いえ! 俺こそ配慮が足りませんでした!」
二人してモジモジと無言だ。
時間だけが過ぎていく。
このままでは話が進まないので、俺の方から話を始めた。
「それで……俺の場合は、★4以上の装備品じゃないと装備が出来ない。そして、★4以上の装備品は高くて買えない。何か良い方法はありませんか?」
仕事の話に戻ったので、片山さんも姿勢を正していつもの出来る女の顔に戻った。
「二つあります。一つは、ダンジョン産以外の装備品を身につけることです」
「ダンジョン産以外の装備品?」
「はい。例えば警察が使っているような防刃チョッキやバイク用のヘルメット、アウトドアで使う大きめのナイフなどです」
なるほど。
お店で売っている物で間に合わせろということか。
俺はチラリと片山さんが持ってきた装備品を見た。
木製の盾、革製の鎧、鉄の剣――これなら代用出来そうな物がありそうだ。
俺の視線に気が付いた片山さんが真剣に忠告をする。
「ですが、ダンジョンの中では、ダンジョン産の装備品以外の性能が大きく下がります」
「えっ!? じゃあ、その木製の盾と似た物を自作して持ち込んでも、あまり防御力がないと?」
「はい、そうです。逆にダンジョン産の装備品は、地上で使っても本来の性能を発揮しません」
片山さんは鉄の剣を拾い上げて、俺の腹を刺した。
そんな! 死んでしまう!
「ちょっ!? えっ!? あれ……?」
剣で押された感触がしただけで、俺の腹は何ともなかった。
着ているスーツにほつれ一つない。
「ご覧の通りです。この剣は★3ですから、ダンジョン内では強力な武器です。しかし、ダンジョン産の剣は、地上ではタダの棒になってしまうのです。そして、逆もまた同じです」
「じゃあ、アウトドアショップでナイフを買ってダンジョンに持ち込んでも、魔物に刺さらない?」
「実験結果によれば、スライム相手なら、十回刺せば、一回は刺さります」
「……」
ナイフが十分の一の性能になってしまうのか……。
何もないよりは、マシ程度だな。
俺のスキルについていたマイナス効果は、冒険者活動をかなり難しくしてしまうようだ。
「もう一つは、何でしょう?」
「仲間の力を頼るのです」
「冒険者パーティーを組むのか……」
「そうです。ドロップ系のスキルは、ドロップアイテムの量が増えたり、質が良くなったりします。冒険者パーティーに、ドロップ系スキル所持者が入ると冒険者パーティーの収入がアップするので、歓迎されるスキルです」
なるほど……しかし!
俺の場合は、★3以下の装備品が装備出来ない。
そして、日本で売っているナイフや防具を持ち込んでも、性能は十分の一……。
攻撃力や防御力が、どう考えても足りない。
「片山さん。俺の場合は、マイナス要因がありますよね? パーティーメンバーにおんぶに抱っこになりませんか? そうなると、俺とパーティーを組んでくれる人はいなさそうですが……」
「いえ! そんなことはありませんよ! 冒険者をやっている人は沢山います。募集すれば集まりますよ」
そうなのか!?
片山さんが自信を持って言い切るので、大丈夫そうな気がしてきた。
「わかりました。では、パーティーメンバーを募集しましょう!」
*
――一月十日。
パーティーメンバーの募集は、冒険者専用アプリで行う。
募集内容は、こんな感じだ。
■――メンバー募集――■
・募集者:カケル
・募集者の性別:男性
・募集者の年齢:二十六才
・募集者のジョブ:盗賊
・リーダー資格:あり
・活動場所:東京都H市の新ダンジョン
・募集メンバー:前衛、後衛問わず
・アピールポイント:リーダー宅に住み込み可
・その他:★3以下の装備品を装備出来ない為、攻撃力、防御力が劣ります。当方LV1の為、サポートをして下さる冒険者さんを募集します。よろしくお願いします!
----------
片山さんにアドバイスをしてもらいながら、募集内容を決めた。
少しでもアピールポイントが欲しかったので、祖母にお願いして、空き部屋を貸してもらうことにした。
こんな素っ気ない文章で、応募が来るのかと思ったが、翌日から応募がドンドン来たのだ!
片山さんによれば、俺の募集は冒険者専用アプリで行っているので、『公式』になるそうだ。
冒険者専用アプリの中で、パーティーメンバーを募集するには、ダンジョン省の許可が必要になる。
だから、『公式』の募集は、相当信用度が高い。
しっかりした人物からの募集と冒険者たちから判断される。
一方で、冒険者専用アプリ以外の募集、SNSやウェブサイトでの募集は、信用度が落ちる。
だから、こんな素っ気ない募集内容でも、応募が多い。
今日まで、俺は大忙しだった。
ダンジョン省認定の冒険者リーダー試験を受けて『リーダー資格』を取り、祖母の家を掃除し、祖母の家のダンジョン入り口を工事する業者と打ち合わせをし、応募者の選考を片山さんと行った。
そして、いよいよ面接だ!
良い人が来ると、嬉しいな!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます