第3話 パンイチ冒険者スタイルで、ダンジョンを行く!?
「ええと……あの……片山さん……。俺のステータスは、変ですか?」
俺が質問すると片山さんは、ハッとしてからいつもの冷静さを取り戻した。
片山さんが仕事用の顔に戻った。
ちょっと残念だ。
素で驚いた顔はかわいかった。
「詳しい話は、上に戻ってからします。人に聞かれては不味いです」
「わかりました」
俺たちは、階段を上り、ダンジョンの入り口に設置された改札を通って、冒険者ギルド渋谷支店に戻ってきた。
俺と片山さんは、六人用の会議室に入った。
片山さんがホワイトボードに俺のステータスを書きながら話を始めた。
■―― ステータス ――■
【名前】 天地駆
【ジョブ】盗賊
【LV】 1
【HP】 F
【MP】 F
【パワー】F
【持久力】F
【素早さ】F
【器用さ】F
【知力】 F
【運】 F
■―― スキル ――■
【ドロップ★5】※★3以下の装備品は装備出来ない。
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「まず、名前……、ジョブ……。ジョブ盗賊は、いたって普通です。戦闘力は、それなりですが、ダンジョン探索に役立つスキルを得られることが多いです」
「なるほど、ゲームキャラの盗賊と似ていますね」
「そうですね。同じだと思って大丈夫です。スタート時点では、皆さんレベル1です。レベルは普通です」
俺はスマホを操作して、『ジョブ 盗賊』と検索する。
いくつかのウェブサイトを見てみた。
ステータスは控え目だが、ソロでも活動出来る良いジョブという評価が多い。
続いて片山さんは、俺のパラメーター、HPやMPについて解説し始めた。
「全部Fなのは、珍しいですね」
「普通は、どんな感じですか?」
「普通はFとEが混在しています。HPはEで、MPはF、素早さはEだけど知力はFみたいな感じでばらけるのです」
「なるほど……俺の場合は全体的に数値が低いのですね? 戦闘力が弱いと?」
「そうなりますね」
ニート? ニートだからか?
部屋でゴロゴロしていることが、多かったから体力や筋力が落ちて、各種パラメーターが低いのか?
片山さんは、俺の動揺に気づいていないのか、話をドンドン進める。
「驚いたのはスキルですね! ★5のスキルは初めて見ました!」
片山さんの説明によれば、ダンジョンに初めて入った者にはステータスが付与される。
その時に、スキルを一つランダムにもらえるそうだ。
スキルには★1~★5の格付けがあり、★5は非常に珍しいと片山さんは興奮して言う。
「珍しいというと、千人に一人とか?」
「いえいえ! ★5スキルを所持する冒険者は、日本で十人しかいません! 駆さんが日本で十一人目の★5スキル所持者ですよ!」
「ええ!? そんなにレアなスキルなんですか!?」
そんなにレアなスキルだとは思わなかった!
日本で十一人目の★5スキル所持者か!
なんか凄いぞ!
「問題は、この注意書きですね……」
片山さんがホワイトボードをコンコンと叩いた。
そこには『※★3以下の装備品は装備出来ない。』と書いてある。
「この注意書きは、どういう意味でしょうか?」
「実際に試した方が早いですね。少々お待ち下さい」
片山さんは、会議室から出て行った。
五分ほどして、片山さんは戻ってきたが、両手に荷物を抱えている。
盾、剣道の胴のような物、西洋風の剣だ。
「これが装備品です。ダンジョンでは、こういった装備品が手に入ります。装備品にも★1~★5まで格付けがされています。駆さん、この盾を持ってみて下さい」
片山さんは手に持っていた装備品三つを、会議室の床に置いた。
盾は木製で、U字型をした西洋風の盾だ。
俺は盾を手に持った。
「あれ……?」
重い!
木製の盾だが、ズシリと重くて持ち上がらない。
俺はしゃがんで、重量挙げの要領で盾を両手で持ち上げようとした。
「ふん! うおおおおお!」
全力で木製の盾を持ち上げようとするが、びくともしない。
床に固定されているのではないかと思うほどだ。
「次は、革製の鎧を」
片山さんの指示で、次のアイテムに挑む。
剣道の胴に似た革製の鎧だ。
だが、盾の時と同じで、持ち上げようとしてもまったく動かない。
「最後に剣をお願いします」
最後は西洋風の剣だ。
おそらく鉄製なのだろう、剣は鈍く黒光りしている。
俺は握りの部分を両手でつかんで、剣を持ち上げようとした。
だが、まったく動かない。
重い軽い以前に、動く気配がないのだ。
「はあ……はあ……はあ……」
俺はすっかり息を切らしてしまった。
片山さんが軽くため息をつきながら盾に歩み寄る。
「やっぱりダメですか……。この盾は、★1の盾です。見ていて下さい」
片山さんは、ひょいと木製の盾を片手で持ち上げて構えて見せた。
「ええ!」
「この革鎧は★2です」
片山さんは、革鎧をひょいと持ち上げる。
続いて剣を片手で握った。
「この剣は★3です」
片山さんは剣を片手で持ち上げると、手元でクルリと回して見せた。
俺は納得出来なかった。
「どうしてですか! 俺はあんなに力を入れたのに持ち上がらなくて、片山さんは片手で軽く持ち上げて……。ええっ!? 何で!?」
「まれに、マイナス効果のあるスキルがあるのです。駆さんのスキル【ドロップ★5】は、マイナス効果付きのスキルだったのです」
「あっ……それで!」
スラリとした女性の片山さんが軽々と持ち上げている装備品なのに、俺が触るとびくともしない。
おかしいと思ったら、スキルのマイナス効果が原因だったのか!
「じゃあ、★4以上の装備品ならOKですよね? ★4の装備品を買うか、ダンジョンで手に入れば――」
「★4の装備品は一千万円を超えます。ダンジョンで手に入ることは、滅多にありません」
片山さんがとんでもないことを言い出した。
一千万円!?
高級外車の値段じゃないか!?
一般人には手が出せない価格だ。
それに、俺は五百万円の借金を背負っているのだ。
これ以上借金をするのも嫌だ。
俺は、とんでもないことに気が付いた。
★3以下の装備品は、装備出来ない。
★4以上の装備品は手に入らない。
これが俺のおかれている状況だ。
つまり――。
「えっ……それじゃ……、俺は……盾も、鎧も、剣も……装備出来ないのと同じじゃないですか!」
「そうですね……」
俺は激しく動揺し、大きな声を出してしまった。
片山さんは、俺に同情の視線を送っている。
動揺している俺は、思ったことをそのまま口にしてしまった。
「じゃあ、パンツ一丁でダンジョンに入るんですか? パンイチですか?」
片山さんが、顔を真っ赤にした。
(あ、照れた片山さんカワイイ!)
そう思った次の瞬間、俺は片山さんにビンタされた。
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