第2話 渋谷で冒険者登録

 一月二日、一月三日は、忙しく過ごした。


 俺は祖母の家に住むことになり、実家の車を借りて引っ越しをした。

 俺が冒険者になることに、両親は反対せず、『冒険者でも何でもやってみろ!』とむしろ応援された。


 一月四日になると正月休みが終って、官公庁の仕事始めだ。

 片山さんのダンジョン省も本格的に動き出すそうだ。


 四日も忙しい。

 午前中、俺は市役所に住民票を提出し、渋谷に向かった。

 渋谷には有名な『渋谷ダンジョン』があり、冒険者の聖地となっている。

 渋谷ダンジョン前で13時に、ダンジョン省の片山さんと待ち合わせだ。


 待ち合わせ十分前に渋谷ダンジョンに到着すると、片山さんは、もう来ていた。


「お待たせして申し訳ありません」


「いえいえ、まだ十分前ですよ。駆さん、髪を切ってさっぱりしましたね。スーツもお似合いですよ!」


「ありがとうございます!」


 昨日、俺は正月でも空いている美容室を見つけて、ボサボサだった髪をスッキリと短めにカットしてもらった。

 ヘアカラーも入れて、髪の色は明るい茶色に。

 そして、今日はサラリーマン時代に来ていたスーツを着てきた。


 思い切ってイメチェンしたのだ!


 美人の片山さんと会うというのもあるし、これまで実家でゴロゴロするだけだったニート生活から脱出するのだ


 毎日、鏡を見る度に、『俺は変わった!』と実感をしたかった。

 その為のヘアカットとヘアカラーでもある。

 自分自身のためにイメチェンしたのだ。


 片山さんの笑顔に鼻の下をのばしながら、片山さんと『冒険者ギルド渋谷支店』へ向かった。

 冒険者ギルド渋谷支店は、かつてデパートだったビルに入っていた。


「このビルの地下が渋谷ダンジョンですか?」


「そうです。日本で最初のダンジョンです」


 片山さんに案内されて、冒険者ギルドに入る。

 冒険者ギルドといっても、銀行のような雰囲気だ。

 制服姿のスタッフが淡々と仕事をしていた。


 すぐに冒険者登録、スマホへ冒険者専用アプリを登録、そして祖母の家に発生したダンジョン入り口の工事費用五百万円を借りる契約だ。『オーナー冒険者向け貸付制度』に署名捺印した。


 これで俺は五百万円の借金を背負った。

 工事費用は国から工事業者に直接振り込まれるそうで、俺は五百万円を触ることも見ることもない。


 片山さんが書類を片付けながら淡々と告げた。


「ありがとうございます。工事はすぐに実施されます。続いてステータスの確認をお願いします」


「おお! ゲームみたいで興奮しますね!」


 ステータスの確認はダンジョンで行うらしい。

 俺は片山さんについて行く。


 ビル一階の中央に駅の改札に似た入り口があった。

 剣や革鎧で武装した人が、次々に入り口をくぐって、ダンジョンへ潜っていく。


(あれが冒険者か!)


 スーツ姿の俺と片山さんは、明らかに場違いだ。

 俺はちょっと躊躇したが、片山さんは気にする様子もなく進む。


 片山さんはポケットからスマホを取り出し、改札に似た機械にかざした。

 ピッと音が鳴り、改札の小さな扉が開く。


 俺も片山さんの真似をして改札を通った。


 スマホの画面を見ると、冒険者専用アプリが起動している。


『渋谷ダンジョン入場 13時40分』


 と表示されていた。


(ほうほう、会社の入退室管理と同じだな)


 ダンジョンなんてファンタジーな場所に、現代的な技術が導入されている。

 俺は、ダンジョン入場用の改札機とスマートフォンアプリに感心した。


 片山さんと一緒に、階段で地下に降りていく。

 階段は石造りで、すぐに地下についた。


「ここがダンジョンですか……初めて入りました!」


 渋谷ダンジョンは石造りのダンジョンで、縦横三メートルの通路が続いていた。

 照明はないのに、ダンジョンの中はうっすらと明るい。

 ネットの動画サイトで見たことがあったが、こうして実物を見ると迫力がある。


「ダンジョンに入場すると、ステータスが付与されます。ステータスオープンと言って下さい」


「ステータスオープン! うおっ!」


 俺の前に半透明のボードが現れた。

 近くにいた冒険者が、俺の様子を見てひやかす。


「おっ! 新人君か!」

「この先注意! こわ~いドラゴンがいるぞ!」

「ハッハッハッ! がんばれよ! 死ぬな~!」


「どうも! ありがとうございます!」


 俺はペコペコ頭を下げた。

 なんだか、『バイト初日』みたいな感じだ。


 半透明のボードには、俺の名前が書いてあり、俺のステータスが記載されている。


「これは片山さんには見えますか?」


「いいえ。ステータスボードは本人しか見えません。実在する物体ではありません」


 ネットの情報通りの不思議さだ。

 どういう仕組みだかわからないが、もう、こういう物だと受け入れるしかない。


「駆さんのステータスを、アプリに入力して下さい」


「わかりました」


 俺はステータスボードの内容を、冒険者専用アプリに入力した。

 だが……入力しながら不安になってきた。

 俺のステータスは、果たして良いのか、悪いのか……。


「それでは、ステータスを見せて下さい」


「はい……どうぞ……」


 俺は冒険者専用アプリの画面を片山さんに見せた。



 ■―― ステータス ――■


【名前】 天地駆

【ジョブ】盗賊

【LV】 1


【HP】 F

【MP】 F

【パワー】F

【持久力】F

【素早さ】F

【器用さ】F

【知力】 F

【運】  F


 ■―― スキル ――■

【ドロップ★5】※★3以下の装備品は装備出来ない。



 ----------



「えっ!? 何これ!?」


 俺のステータスを見た、片山さんは素で驚いていた。

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