第7話 初ダンジョン探索

 ――一月八日。


 軽剣士の沢本さんと巫女の御手洗さんの引っ越しや行政手続きが終わり、俺たちはダンジョンを探索することにした。


 俺はダンジョンの入り口で、ガッツポーズを取らされ、顔を真っ赤にして声を上げさせられている。


「よ、よ、よーし! が、がんばるぞぉおおおおお!」


「カット! もう一回! 駆さん! セリフを噛まないで!」


 ダンジョン省の片山さんが、スマートフォンで撮影し、俺にダメ出しを飛ばす。

 撮影の目的は、祖母のダンジョンのPRだ。


 何でも動画サイトにダンジョン探索動画をアップすれば、全国の冒険者たちに祖母のダンジョンをアピール出来るらしい。


 それは、大変ありがたいのだが、クサイ芝居をするのは、勘弁して欲しい。

 もう、五回も撮り直している。


 見かねた沢本さんが、止めに入った。


「もう、やめようぜ! 片山さんはダンジョンの中も同行するんだろ? だったら適当に撮って、編集すりゃイイだろう?」


 沢本さんは、面倒臭そうだ。

 早くダンジョンに潜りたい雰囲気で『人の仕事を邪魔するな!』のオーラをバンバン出している。


 片山さんは、アゴに手をあてて考え出した。


「なるほど! ドキュメンタリータッチですね! それもありかしら?」


 もう、どっちでも良い……。

 片山さんは、ほっとこう。


 沢本さんが、ダンジョンへ向かいながら、俺と御手洗さんを呼んだ。


「カケル! シズカ! 行こうぜ!」


「わかった! 行こう!」


「行きましょう!」


 ダンジョンの入り口は、まだ工事中だ。

 一般の入場は出来ないが、俺はオーナー冒険者なので問題ない。


 冒険者専用アプリを起ち上げ、ダンジョンに入場すると入力する。

 スマートフォンの画面に入場時刻が表示された。


『H市第一ダンジョン(仮称)入場 9時15分』


 俺たちは、階段を降りてダンジョンの一階層に入った。

 ダンジョンの一階層は、洞窟の中だった。

 ゴツゴツとした岩がむき出しの壁と天井が続いている。


 誰が設置したのか、松明が壁にかけられている。

 松明のおかげで、周囲が見えるのは助かる。

 薄暗いが、活動するには十分だ。


「洞窟型のダンジョンかな?」


 俺はリーダー研修を思い出していた。

 ダンジョンは、遺跡型、平原型など色々な形態がある。

 洞窟型もあった。


 経験者の沢本さんが、俺のつぶやきに返事をした。


「どうかな……。あまり決めつけないで、進もうぜ……」


 ダンジョンの形態がわかれば、出現する魔物もある程度わかる。

 沢本さんは、『決めつけずにどんな魔物が出現しても対応する心構えでいろ』と言いたいのだろう。


 俺はリーダーとして指示を出した。


「ゆっくり警戒しながら進みましょう! 先頭は沢本さん、続いて俺、後衛は御手洗さんでお願いします!」


「「了解!」」


 洞窟は一本道だ。

 三人で隊列を組んで進む。


 片山さんは、俺たちの前へ出たり、横へ回ったり、自由に動いて撮影している。

 片山さんはいない者と思って、カメラを気にしないで行動しよう。


「しかし、カケルの装備は、もう、ちょっと、どうにかならなかったのか?」


「いやあ、時間もないし、お金もないし、ツテもないし……」


 沢本さんが俺の装備について、突っ込んできた。


 俺の装備は日用品の流用なのだ。


 ・原付のヘルメット(半キャップ)

 ・剣道の胴

 ・厚手の手袋

 ・バール

 ・金槌

 ・大型のリュックサック


 服は汚れても大丈夫で、生地が厚いズボンやシャツをチョイスした。

 正直、ダンジョンの魔物相手では、ほとんど通用しないと思うが、ないよりはマシ、パンイチよりはマシ、と割り切っている。


「俺は★3以下の装備品を装備出来ないからな。金もないし」


「まあ、しょうがねえよな」


「その分、荷物持ちが出来るように、デカイリュックサックを持ってきたから」


「おう! 戦闘は私がガンバルから、そっちの方は頼む! 」


 沢本さんは気軽なノリの方が良いそうなので、俺も気軽に話すようにしている。

 会社を辞めてからずっと部屋にいて、親以外とロクに話していなかったから、正直、話しやすくて助かっている。


 沢本さんは、経験者らしく装備はちゃんとしていた。


 ・細身の剣

 ・革鎧

 ・小さめの木製ラウンドシールド

 ・ズボン、シャツ(ダンジョンのドロップ品)

 ・ブーツ(日本製)


 俺は歩きながら、最後尾の御手洗さんにも話しかけた。

 御手洗さんは、祖母の家に引っ越して来たのだが、まだまだ他人行儀だ。

 少しずつ距離を詰めたい。


「御手洗さんは、良さそうな装備ですね? 自前ですか?」


 御手洗さんは、巫女服を着て、手には美しい扇子を畳んで持っている。


「この装備はレンタルです」


「レンタルってあるんだ!」


「はい。ただ、レンタル料が高いです。月十万円もするんですよ!」


「ええ! そんなに!」


 レンタルは、巫女服上下、履物、扇子の三点セットで十万円だそうだ。

 足袋や下着は自前らしい。


「実は寒いので、足袋の下にモコモコの靴下をはいています」


「それアリですよね」


 御手洗さんが、軽く笑ってくれた。

 ちょっと距離が近くなって嬉しい。

 初心者同士、がんばろう!


 俺は片山さんにチラリと目をやった。

 片山さんはいつものスーツ姿だが、しっかりしたブーツを履き、腰には頑丈そうなベルト、ベルトには道具袋やナイフがぶら下げられている。

 最低限、自衛が出来る備えはしてあるようだ。


 洞窟は、すぐに分かれ道になっていた。

 Y字型の分岐点、右か、左か。


 俺はスマートフォンを操作して冒険者専用アプリが動いているか確認した。

 冒険者専用アプリは動いていて、オートマッピング機能が働いている。


 タップすると、入り口からここまでの道筋が直線で描かれていた。

 俺はY字の分岐点を示すアイコンをタップする。


 沢本さんも、俺と同じことをしている。


「迷子になったら最悪だからな。パーティーからはぐれる可能性もあるし、マッピングはしとかねえと。油断大敵!」


 沢本さんの言葉を聞いて、御手洗さんが、慌ててスマートフォンを操作しだした。


 よしよし!

 沢本さんを入れて正解だった!

 経験者だから、話す内容に説得力がある。


 全員のアプリ操作が終ったところで、俺は分岐点をどちらに進むか指示を出した。


「右へ進みましょう」


「「了解!」」


 探索が再開された。

 沢本さんを先頭に、一列で進む。


「ん?」


 前方に影が見えた。

 沢本さんが、足を止めて剣を構える。


 壁にかけられた松明に照らされ、魔物が姿を現した。

 二本足で歩く犬、それとも狼だろうか。

 魔物は、ヒタヒタとこちらに歩いてくる。


「来たぜ……コボルドだ!」


 コボルドが、俺たちに気づいた!

 両手で先の尖ったスコップを持ち、犬歯をむき出しにしてうなり声を上げる。


 俺は、コボルドの迫力に足がすくんだ。

 振り向いて後ろの御手洗さんを見ると、表情が固まっている。

 怖いのだろう。


 だが、沢本さんは、まったくひるんでいない。

 むしろ楽しそうに、口元に笑みを浮かべている。


「じゃあ、このダンジョンの初物をいただきますかね……。シッ!」


 沢本さんは、左前方に大きく動いた!

 コボルドとの距離が一気に詰まる。

 コボルドはスコップを振り降ろし、沢本さんを叩こうとしたが、既に沢本さんは逆の右方向にスライドしていた。


 左前に動いたのは、距離を詰めるのとフェイントの役目か!


 スコップを空振りしたコボルドの体勢は崩れ、右に移動した沢本さんは絶好の攻撃ポジションをとっている。


 沢本さんが細い剣をコボルドに向かって真っ直ぐ突き出すと、がら空きの胴体に剣が吸い込まれた。


「キャン!」


 犬のような鳴き声を上げて、コボルドが倒れた。

 倒れたコボルドは、光の粒子になって消え、一部の光の粒子は、俺、沢本さん、御手洗さんに飛び込んできた。


 飛び込んできた光の粒子は、経験値だ!


 俺、沢本さん、御手洗さんは、パーティーを組んでいる。

 魔物を倒すとパーティーメンバー全員に経験値が入るとリーダー研修で聞いていたが、実体験してみると驚く。


 チャリン!


 そして、コボルドがいた場所にドロップアイテムが落ちた。

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