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 ガラスの氷壁に巨大な穴が開いていた。


 穴ではなく、この水晶のようなトンネルは、隣国へ続くルートだとスピカは言った。


 進むたび、空の青や緑、太陽の光が揺れて弾ける。


 トンネルの中の薄いガラスのまくの前でスピカは立ち止まり、手をかざした。


 光のキーに番号を打ち込むと、ピンと張ったまくが、水面のように柔らかくたわむ。


「これで通れるわ」


「うん」


 二人は国境を超えた。


 国境越しに見るこれまで暮らしていた世界は、穏やかな優しさに包まれている。


「あ、ジャック、あれは何かしら、不思議な色」


 トンネルの出口の向こう、美しい赤が、新しい空の中を舞っていた。


 それは炎が美しく燃えているような、太陽のような、赤と橙の間のような赤。


「……鳥だ。綺麗だね」


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