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 旅立ちの時は、もうすぐにも思えたし、遠い未来のようにも感じる。



 約束の時間まで、まだ大分ある。



 スピカは城の門の隙間をすり抜けて、深呼吸していた。


 これはスピカにとって初めての旅になる。絶対に失敗できない。



 朝食が終わる頃には、シリウスも青空が見える。普段なら。


 けれど、とうに動き出した世界はまだ暗く、けれども空気は温かくしんと澄んでいて、跳ね橋の向こうの世界に、マーマレードのような灯りがところどころ灯っていた。


「こんな状況でも、みんな、元気に過ごしているんだわ」



 スピカは跳ね橋の向こうにジャックのランタンが現れるのを待った。



 道標みちしるべになるように、ランタンを灯す。


 空のカプセルに包まれるみたいに、スピカの姿が跳ね橋の上に浮かんだ。

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