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「ここは、私の遊び場だったの。ほら、あそこの土管に座りましょう」


 スピカを追いかけて、ジャックは静かに腰を掛けた。

 

「ふぅ、落ち着いたわ」


 土管に登ると、生垣の向こうに城の中庭が見えた。


 ゆっくりと帰路に着く人々もいれば、まだ中庭の景色を見ている人も。


 ランタンの輝きが、波のようだった。


「とっても綺麗だね」


「ありがとう、自慢の景色よ」


 スピカは笑った。


「スピカ、お姫様だったんだね」


「そうよ、私のお父さんが王様をしてるってだけ」


「へぇ、すごい人気だったよ。歌もすごかった」


「ありがとう。この国の歌よ」


「国の歌か……いいね、少し覚えちゃったよ」


 ジャックは歌を口ずさんだ。


「素敵!」


 スピカは笑った。


 二人は歌った。


 いつまでも揺れる、光の中で。

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