10

 焚き火が消えかかっていた。

 どれくらい経っただろう。


 静かな風と水面の揺れる音。


 スピカは時々ハミングした。

 揺れる木々に合わせて。


「ねぇスピカ、まだ帰らなくて平気?」


 辺りの闇が深くなり、しんとしていた。

 ジャックは眠気を感じていた。


 炭の匂いが辺りに立ち込めている。

 心地いい香りだ。


「まだ四時よ」


「えっ」


 ジャックは、懐中時計を取り出した。


「本当だ、まだ四時なんだね」


 太陽はすっかり消え失せ、しんとした闇。


「なんだか夜が早すぎるね」


「そうなのよ……」


 スピカはため息をついた。


「だんだんと夜が長くなっているの」


「夜が?」


「そう。ここは闇の世界。真っ暗闇の国」


「真っ暗闇の国?」


 スピカの瞳が静かに、青く揺れた。

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