第7話 ????
私には愛している人がいる。
レンくん。
二つ年上の男の子であり、そして義理のお兄ちゃん。
少し猫背で少しだけ鍛えている身体。
少し無愛想なのにそれでいて面倒見が良いところ。
私のわがままにだって、初めは呆れて文句を言うけれど結局最後は許してくれる。
でもほんとに怒っている時は、ちゃんとダメだって言って、私を叱ってくれる。
そんなところが全て愛おしい。
ああレンくんはやっぱり私のことをちゃんと見てくれる人なんだなって思った。
私の見た目だけで勝手に私という人間を判断しない人なんだなってわかった。
だからこそ、私にとって必要な人なんだと思った。
そう思えたからレンくんの前では本当の自分でいることができる。
だから、気が付いた時にはすでに好きになってしまった。
レンくんと出会ったのは小学生の頃だった。
お母さんが再婚した時にはすでにレンくんと一緒にいることが多かった。
レンくんの方は、私のお母さんとレンくんのお父さんが再婚する前から私たちが一緒に遊んでいたことを覚えていないみたいだけれど……それは別にいいの。
だって一緒に暮らし始めてからの方がずっと楽しい思い出ばかりだから。
特に小学生の頃は、レンくんはずっと私のことを気にかけてくれていた。
『シズクがさみしくないようにいっしょにいる。お父さんにもたのまれたし!』
レンくんはそう言って放課後も一緒に学童保育で遊んでくれた。
ある日のことだった。
『レンくん!あそぼ』
『お兄ちゃんだろ?』
『でも……レンくんはレンくんだから——』
『オレは、シズクのお兄ちゃんとして——』
いつだったか、レンくんは自分のことをお兄ちゃんと呼んでほしいと言った。
当時、どうしてそこまでレンくんがお兄ちゃんと呼ばれることにこだわっていたのかわからなかった。
でも、好きな男の子——レンくんがそう望んでいる。
ただ、それだけで十分だった。
それ以来、私はお兄ちゃんのことをレンくんとは呼ばなくなった。
でもそんなハートフルで可愛い思い出ばかりではなくなった。
時は流れて、レンくんが中学3年生になった頃。
私とレンくんとの関係が変わってしまった。
明らかにレンくんは私のことを避けるようになった。
初めはきっと高校受験というイベントのせいだろうと思っていた。
部活も引退して、学校の終わる時間も違うし、すれ違うことが多くなってしまうのは仕方のないことだと誤魔化していた。
でも、家でも一緒にいることが少なくなった。
すれ違うことさえも少なくなった。
私のことなんてもうどうだって良いって……そんなふうに思えた。
私の世界は光を失ったように思えた。
それはまるで深層水の底に落ちてしまってもう二度と浮かび上がってくることができないクラゲのように……暗闇の世界になってしまった。
そんなある日のことだった。
レンくんの部屋にはお友だちという男の子たちが数人ほど来ていた。
そのお友だちの一人が、私の部屋をノックした。
カケルくんと呼ばれていたかっこいい男の子だった。
『シズクちゃんいる?』
『……なんですか?』
『オレとつきあってよ』
『そういうのよくわからないから……ごめんなさい』
『……なんで?オレ勉強も運動もできるし、金も持っているんだけど?』
『わたし……好きな人がいますから』
『誰?』
『……教えたくありません』
『あーその反応……レンのこと?兄妹でしょ?なんか……幻滅したわ。気持ち悪い』
その言葉を聞いた後のことを、私はよく覚えていない。
ただ、この人のことは絶対に好きになれないと思ったことだけは覚えている。
……あ、そうだった。
確か……レンくんに相談したんだった。
『お兄ちゃんは……わたしが誰かと付き合うのってどう思う?』
『どうって言われても……それはシズクが決めることでしょ』
『……わたし、今日、お兄ちゃんのお友だちに告白されたよ?カケルくんに』
『……付き合うのか?』
『お兄ちゃんは、どうして欲しいの?』
『……カケルと付き合うのはやめた方がいいと思う。女関係はいい噂を聞かない。まあ一緒にいる分には面白いやつなんだけど』
レンくんの無愛想な顔は、いつもにも増して真剣な表情だった。
でもどこか嫉妬にも似た視線——雰囲気を感じた。
ふふ、あの時のレンくんの表情は忘れることができない。
あのどこか不安げな表情で、それでいて必死に言葉を捻り出そうとするところ。
私のことを女の子として意識していることがわかったから。
だから、私はレンくんと二人きりの時間をできるだけ作ることにした。
ずっとずっと一緒にいられるように、私を感じてもらえるように。
もっとレンくんに触れたいと思った。
思ってしまった。
気がついたら私はレンくんを誘惑していた。
でも変なところで頭のお堅いレンくんは一向に私に触れようとしなかった。
でもレンくんから私に触れて欲しかった。
抱きしめて欲しかった。
でもやっぱり一筋縄ではいかなかった……。
あ、そうか。
水槽にいられて飼われている水族館のクラゲのように、レンくんのことを囲ってしまえばいいんだ。
だからレンくんと親しいカケルくんに協力してもらうことにした。
全ては、私にとってレンくんがなくてはならない存在であるように……レンくんにとっても私という存在がなくてはならない存在だってことを自覚させるために——
きっとそんな私の心理さえ、レンくんは気が付いてくれないのだろうけど……
レンくんに触れて欲しくて、私はただレンくんのことを求めた。
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