第2話 お邪魔虫

 

 朝の穏やかな時間が、突如として邪魔される。ああ、本当にタイミングが悪い。


「もっと空気を読んでよ」


 邪魔者は一体誰だろう?


 つい、愚痴が漏れてしまう。もう二度寝なんかしないというのに……。犯人は突然に鳴り響くスマホの耳障りなベル。しかも、朝っぱらからの電話だ。


 シャワーヘッドの停止ボタンを押し、濡れた髪にタオルを巻いたまま、部屋に戻らざるを得ない。運悪く泡が目に入ってしまう。見つけたら、ただでは済まさないからね……。やり場のない怒りが込み上げ、眉間に皺を寄せていた。


「侑奈、元気。わ・た・し」


 きっと、舌足らずの甘い声は茉白ましろだろう。中学の時から男の子の前ではあざといぶりっ子で有名な悪友である。


 一緒に上京した旧知の間柄にも関わらず、勝ち組の丸の内レディーとなっている。本人いわく、顔採用の面接で大手商社に採用されたという。本当かどうかは分からないが、お洒落なバーやイタリアンレストランでイケメンと一緒にアフターファイブを楽しみ、仕事休みにはホットヨガで体を鍛えてるという。


 メールが入っていたが返信をしていなかった。このところ自慢話ばかり聞かされ、さすがに辟易し遠ざかっていた。


「なんだぁ、……。ごめん、忙しくて」


 感情を抑えて、気が進まぬままそっけなく返事をしていた。まだ十時なのに、隣には誰かいるらしい。彼氏かも知れない。聞けば聞くほど、自分とは別世界の夢みたいな話である。茉白の声が続いてくる。


「話があるんだけど、大丈夫?」


「仕事休みだから構わんけど、何?」


「実は会って欲しい人がいるの」


 今春に結婚するらしい。婚約者を紹介すると言うのだ。


「おめでとう、良かったね。日曜日なら」


 一瞬、言葉に詰まっていた。正直言って羨ましい。痩せ我慢の境地に陥り、「ひとりだけ置いていかないで」のつぶやきさえ心をかき乱してゆく。

 口には出したくない、女同士のジェラシーかも知れない。女ごころは繊細で複雑怪奇だと思ってしまう。


 時々こんなことなら、男に生まれてくれば良かったと思ってしまう。最近、旧友たちから結婚の便りがなかったが、彼女が最終ランナーとなるのだろうか……。


 きっと、いつもの如く丸の内界隈を甘い香水振りまき黒髪ロングをなびかせて、タイトスカートから長い足を覗かせる茉白の姿が思い浮かんでくる。スタイルも良くうらやましくなる色白美肌で、一緒に歩くと道行く人が振り返ってしまうほどの美人である。けれど、彼氏も一緒に来ると思うにつれ、気が重くなっていた。


 それでも、彼女の幸せを心から祝福する。だって、私たちは友達だから。そして、私自身も幸せを掴むために努力を続ける。それが恋愛であれ、仕事であれ、自分自身の成長であれ。


 だからこそ、「ひとりだけ置いていかないで」という呟きは、自分自身への励ましでもある。私は強く、そして美しく生きていく。それが私の人生だから。


 そして、私は信じている。私の幸せはきっとすぐそこにある。それを見つけ出すためには、ただ一歩踏み出す勇気が必要だけど……。


 そんな思いを胸に秘めて、私は新たな一日を迎える。そして、これからも自分らしく生きていく。それが私の人生だから。


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