ふんわりどんぶり「秋田食堂」
神崎 小太郎
第1話 うたた寝
朝の光がブラインドを透過し、部屋全体を柔らかな輝きで包み込む。目覚めの一杯のミルクコーヒーが、心地よい温もりを与えてくれる。そよ風が運ぶ沈丁花の香りが空間を満たし、春の日常の一部となる。それは特別な意識を必要としない。
しかし、この瞬間をもう少し、もう少しだけでも楽しみたくなる。寝ぼけた目で心地よい気だるさを感じながら、暖かさの中に留まりたい。甘えん坊の我が儘とは分かっていても……。
ヘリオスの神さまが四頭立ての馬車で天空を駆け抜け、目の前に香水香る砂時計を置いたとしても、真綿に包まれる癒しの世界からは出たくない。寒い朝ならなおさらだ。果てしなき葛藤は、まどろみの中で時間の経つのを忘れさせてくれる。
朝が明けて久しい今でも、三大欲求のひとつである睡眠に身を委ねてしまう。それは、長年にわたる本能だから、仕方がないと諦めてきた。
けれど、元カレと別れた朝、理由も分からずに、眠気を吹き飛ばすスキルを見つけ出した。それは、起き抜けの朝シャンだ。男の存在は遠い記憶の中に小さくなり、一年前の出来事であるにも関わらず、遥か昔のように思えていた。
今では熱めのお湯が辛い過去を洗い流し、フローラルなシャンプーの香りが心を癒す。そっとやさしく朝のとばりを開けてくれる。
自分の名前は
見た目でも特別な美人ではなく、仕事も輸入食品雑貨店で働く普通の女性。生まれ故郷も東北の雪深い田舎町でオシャレな都会ではなかった。
しかし、私は投げやりになっていない。自慢にもならないが、私はネガティブにもならず、自虐キャラでもなく、根っから明るい性格だ。人懐っこく愛嬌だけには自信がある。性格を一言で表現すると、「明日は明日の風が吹く」のケセラセラだ。
だからこそ、一晩でも心地よい夢を見られれば、そのぬくもりがイヤなことをすぐに消し去ってくれる。それこそが私たち人間が持つ素晴らしい力だと思う。
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