(7)

「ま、まさか、それだけのために十二年も――」

「あー! すっきりした!!」


 子供、いや、あのときの子供の幽霊は、進の言葉をさえぎると、両手を天に突き上げ、伸びをした。

 その手の先は、雲がわずかに割れ、光が差し込み始めていた。


「じゃあね。お兄さん」

「ちょ、ちょっと待って。もう会えないのかな?」

「うん。会えませんよ。さようなら」


 あっさりとした別れの言葉と同時に、子供の体全体が淡い光に包まれる。


「えっ、あっ。ちょっと! ありがとう!」


 進の言葉は間に合った。お辞儀をするのもなんとか間に合った。

 頭を上げると、笑顔の子供の姿は加速度的に透明度を増していき、あっという間に消えていった。


 進はそのまま、立ち尽くしていた。







「お兄さんや。雨の音に交じって大きな声が聞こえたけど、どうした? 噂の幽霊でも出たのかいな?」


 しばらくすると、後ろから神社総代の声が聞こえた。

 進は振り返った。


「出ましたよ」


 十二年も待ってくれていた、執念深くて暇な幽霊が――。

 心の中で、そう付け加えた。





(完)

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お兄さん。オレのあいさつ……無視したよね? どっぐす @dogskiller

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