(3)

 あれから、十二年が経つ。


 今回、進がここに来ることになった理由。

 七月という中途半端な時期に、わざわざ帰省してここに来ることになった理由。


 それは、今年実家が自治会の班の班長になっており、今日の『集会』および、神社の草取りや掃除をおこなう『宮薙みやなぎ』という行事に参加しなければならないためだった。


 もともとそのような行事には、父親が参加していた。

 だが先週タイミング悪く庭作業でギックリ腰になってしまい、代わりに出るよう頼まれたのである。


 なんとか回避できないかと思ったが、母親も午前中は病院に行かなければならないため出席は不可能。

 逃げられなくなったのだ。







「おじさん、という歳ではないですか。お兄さん?」

「うわっ」


 気づいたら、褐色の男の子はすぐ目の前にいた。


「ずいぶんびっくりしてますね」


 接近されて気づいた。その子の後ろ髪は長く、背中まで届いているようだった。

 真っ白な歯を見せて笑っている。


 普通の人間であれば、思わずつられて口元をゆるませるような、そんな笑顔なのかもしれない。

 だが子供が苦手な進にとってはそうではない。


「今日は集会ですか?」

「う、うん。こ、これから、ここの公民館で、集まりに出ないといけないことに、なっている」

「なるほど」


 急に、男の子の目から笑いが消えたように見えた。


「じゃあ、その前に少しいいですか?」


 声も少し低くなったように感じた。


 進の足は勝手に後ずさろうとしていた。

 だめだ、と、なんとかとめる。


「い、いや。もう、時間ぎりぎりなんだ。中に入らないと」

「そうなんですか。なら……」


 一拍、間が空いた。


「仕方、ないですね」

「ひえっ」


 進は上ずった声を出すと、男の子に背を向け、社殿へと走り出した。

 否、逃げ出した。


 男の子の目が赤く光り、その長い後ろ髪が、重力を無視して広がったような気がしたからだった。

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