第19話 ピリオドの向こう側へ
「……理事長………それって………」
真奈は、そこでやっと気付いたのか自分の右手を口元に添えて『ごめんなさい』と謝り、ヒクヒクと泣きそうになるので俺は、左肩を貸してあげる。
もう、彼女の涙はみたくない、だから繋いでいた右手はそのままにし、左手で彼女をそっと包んだ。
「最初から考えていたことだ。何方にせよ、こうするつもりだった。千明の友達も千明も何方かが貧乏籤を引くのはダメだろう」
今回は、NOが多数だったけれどYESが多数だったとしても千明を強行して道玄坂高校に通わせる選択をしただろう。道玄坂高校で道玄坂主催の課題に真っ向から否定する様なもんだからな、当然このストーリーになってしまう。
だが、俺は2人を信じたい。
まだ、最後の最後まで粘ってほしい。
ピリオドが打たれたとしても、そこからまた物語を紡いで欲しい。
「な、なんで………!?最初から言ってよ!狡いよ!カッコつけないでよ!」理事長の近くまで寄って、理事長を睨むも下唇を噛む。
「………父親だからな。千明の大切な場所を壊したくなかったんだ。ダメか?それじゃ?」先ほどまでの発していたトーンをいつの間にか低くして話していた。
最初から、理事長はこうなる事を想定して全てを押し進めていた。そう理解したのは、あの車中での一件を通してだった。
千明のことを案じていたし、その覚悟めいた口調と『勘違い』と言うフレーズ、そして、自分なりの美学と意地っ張り。ここから推理を働かし、理事長の行動を読む。と必然的にこの結論に至ることは想像できたし、1週間前に真奈と一緒に送った転入届の結果も音沙汰無かった。
もちろん、届出だから何も返事がこないとしても決裁や会議があるだろうから、不自然ではない。だが、転入するのが真奈だからな。即刻、不可の連絡を送りつけるはずだろうに今日の今日までこなかったことから確信に至った。
それに、明智家の保護者印無しで事が進むはずがない。それすらもこの理事長は自分を犠牲にしても受け入れたのだ。
「……ふざけんな!.....僕に相談しろっ!」ポンポンと千明は両手を拳にして手の底で胸の辺りを叩く。
「…………不器用な父親で……すまなかった」娘の手を止めることなく受け入れ、言葉を続ける。
「………千明だって、起死回生の策なんて無かっただろ?」おそらく、千明は、YESが多数票になった時に切り札を使ってNOを多数票にするとでも言っていたのだろうな。だが、そんなものは持ち合わせていなかったのだろう。
「うっ、うっさい!!........お父さんは!……お父さんは……」叩く両手がどんどんと弱くなり、叩く回数も少なくなっていく。そして、両手の底を理事長……千明の父親の胸につけて、唸りながら俯く。
「私は、理事長の職を今日で辞めようと思っている。辞任届も既にこのスーツのインサイドポケットに締まっている」今ちょうど千明が叩いているら辺だろうな。今日で辞めるか…………。
千明、まだピリオドを打つにはまだ早い、気づいてくれ。
ここで俺が言ったところでそれは2人の決別に水を刺すことになりかねない。
だから、俺は自分の目の前にいる真奈の背中をギュッとする。
真奈は、『どうしたら、良かったのですか?』と潤んだ瞳で問いかけてくるが、俺はぎこちない微笑みしか返してやれなかった。
ごめんな、真奈。
こうするしか無かったんだ。
俺の視界の縁で微かに望と目が合ったが、すぐに視線をズラし親子の方に向き直していた。
「ここを去っても収入源が無くなる訳でないから安心していいぞ」この人は冗談を言わない人……だと思っていたが、こんな場面で言うのはどう言う意味があるのだろうな。
「………そ………そうじゃないでしょ」同じ姿勢のままそう声を振り絞って、口に出す。
「ここを去ってもまた会える。だから、それでいいだろ?」何かが重なって見えた。
同じ運命を辿ったかもしれない2人のペアが重なって見えた。
「お父さんは…………理事長でいて欲しいよ……。もう私から誰も去らないでよ……。お父さんは……………近くで見守っててよ………………………。」
それは、意識として紡いだ言葉ではない。その心の一番温かい底から飛び出した言葉はゆっくり、ゆっくり、すーーと落ちていった。口を開ける気力が無いかのように彼女の口はぴたりと閉じた。
ピリオドが打たれたのだ。
そこには、静寂しかなかった。誰かが何かを話し出す間さえ存在する事を許されなかったように感じる。2人の親子がこうなる運命だったと言わんばかりに優しい心地の良い時が過ぎていった。
これから先、理事長……育ての親がいない道玄坂高校に君は通うことになる。
理事長から辞任をしたため、今後一生会えなくなるかもな。
父親が近くにいない日常の中で、時折寂しさを抱えながら君は送ることになる。
君の近くにいた大切な1人が欠けた状態で明日を紡ぐんだ。
何か一つ胸にポッカリと空いた白のピースは、一生揃わない。
だが、そのパズルを君は大事そうに持って、未完のまま、それを今後手放すことができないんだ。
そんな君は俺たちとこれからを過ごすんだ。
君が今そこにいる場所に君の大好きなお父さんはいない。
そんな明日を君は望むのかい?
……。『いやに決まってんだろっ!』と力強く発し、彼女はそのピリオドを打ち破った。
「こんなのは、自分から出すなぁつ!!バカぁつ!!」
理事長のインサイドポケットから辞任届を引っ張って豪快に、チリチリに、その場で破り捨て、『はぁはぁ』と息を切らしながら肩を上下に竦めている。
理事長は、その眼前に広がる奇怪な光景に唖然と口を少し開けていたが次第に口元が緩んだ。その温かな父親の表情にフッと千明の口元も緩む。
「まだ、辞めることに決まった訳ではない!潔く自分からカッコつけて結論付けなくてもいい!だから…………僕の我儘に付き合ってよっ!!僕から勝手にどっか行くな!!!!」
千明は、父親の目をしっかりと見つめて、確かな言葉にする。
今まで我儘を言わずにここまでやって来たのだろう。
だから、初めて、子供みたく我儘を言った。
大切な人が近くにいて欲しいという願いを。
「………今年の誕生日プレゼントは無しだな」そんな軽口をニッと微笑みながら口にした父親。
「………でも、勿論、クリスマスプレゼントはあるよね?」軽口で返す娘。
「どうだろうな。サンタが近くにいたら貰えるかもな」
そんな2人の軽口は理事長室を包み込む優しさがあった。
だから、全員が。
これがエンディングかと言わんばかりに笑い出す。
2人の親子を置いて俺たちはその親子の時間から離れる事にした。
理事長室から出て教室の方へと向かう道中、窓の外を見ると狐の嫁入りとなっており、7色の綺麗な虹が快晴の空に浮かび上がっていた。
虹の順番は、赤が一番外側で。紫が一番内側だったなと思い出す。
「綺麗な虹だね」俺の左横にいた胡桃が虹の縁から縁をなぞるように見てボソッと呟く。
「あぁ、そうだな。……綺麗な橋を一番下で支えている紫はきっと一番近くで橋を支えているんだろうな」
その言葉に芹香が『そうね』とだけ温かいトーンで返し、俺たちは教室へ向かい、千明を待った。
そうして、20分ほどしてようやく頬が少しだけ赤みがかっていた千明が登場してくるので俺たちもよっこらせと椅子から立ち上がる。
「ごめん、お待たせ」
「デートに遅れた時に言ってもらいたいものだ」その軽口は千明をフッと笑わせ、お腹をワザとっぽく抑える。
「千明……」真奈が千明の顔をどんな表情で話せば良いの分からない様な顔で千明に近づく。真奈は俺の左の席に先ほどまで座っていた。
「どうしたんだい?真奈君」
「た、たぶんだけど、千明が私に……YESに票を入れてくれなかったら私をこの高校に入れさせないつもりだったと思う。だから、ありがとう」丁寧にお辞儀をする。
「まだ、メイドが抜けてないね。少し無理して喋ってるだろ?ふふっ」
「………ばっ、バレちゃってますか……まだ難しくて疲れちゃいます」顔を上げて、頭を自分で恥ずかしそうに撫でる。
「だと思った。ふふっ。少しずつでいいから疲れない様に一緒に慣れていこ」優しい一言に真奈の表情も和らいでいった。
「真奈さんが言う様に千明さんがYESに投票しなければって言う仮説は、的外れだと思うわ。でも………千明さんのお父さんは嬉しかったと思うわよ」その言葉を聞き、胡桃も近づき『だね』と同意を示し、真奈を勇気づける。
「腹減ったー」望から
「じゃあ、祝賀会でもするか?」
「でも」真奈がそう呟くので俺は、そうじゃないと諭す為、口にする。
「今日1日は、大丈夫だ。真奈もシェアハウスに来れば良いさ。元々、出て行く事に決まった所でそう簡単に支度なんて出来ないからな。当然、そのことも織り込み済みだろう」
「………確かにそうですね。では、帰りましょうか、シェアハウスに。私たちの家に」
そう真奈が言うと皆は荷物を持っていつも通り昇降口へ行き、自宅へと6人は笑いながら帰っていった。
ちょっぴりその笑い声は大きかった為、他の生徒に気付かれないか1人ヒヤヒヤしていた。
だけど、そのヒヤヒヤは、自分の笑いすぎて赤くなっていたほっぺをちょっぴり冷ました。
6人は『ただいま』と誰もいない家に入りながら呟き、リビングへと進む。時刻は思っていたよりも過ぎており、時計の長針は11時を超えそうだった。
「じゃあ、今から祝賀会を開くことを宣言する。皆各自、好きな食べ物を出前するんだ!」俺が右手を伸ばし掌を見せて、そう言葉にすると皆が『えっ?』と言った顔をこちらに向ける。
「どうした?そんな驚いた顔をして……あっ、もしかして天才軍師諸葛孔明のような妙案を出す天才がついに現れた!とでも思ったのか?」その言葉を聞いて笑い始めたので『よし!』と思ったが、どうやらそうではないらしい。
「だってあなた、いつも食費に関してうるさいから。甘い物制限してくるから。顔がタイプじゃないから。不思議に思ったのよ」
「あのー、最後の関係ない気がする………」少ししょんぼりした俺などはお構いなく既にみんながパソコンを開いて5人で出前を選んでいる。だから、俺も近づこうとすると。
「あなたが見ると茶々を入れてくるから、座ってて良いわよ。安心してていいわよ、あなたの大好きなカップラーメンを箱買いしておくから」どうやら、俺がカップラーメンを深夜コッソリと食べていたのがバレていたようだ。
まぁ、しゃあないかと思いテーブルでキャッキャとどうしようか悩んでいる可愛い女子達をソファーに座りながら眺めていたら、笑いすぎて疲れたからか瞼が次第に重くなっていく。
俺は、それに逆らえずうたた寝してしまった。
俺の顔の近くが無意識的だが五月蝿くなったと感じたので目がLEDで眩しくて『んんー』と唸りながら開けるとテーブルの上は見えず、マジックを持った5人に囲まれていた。
「……なぁ、聞ひて良ひか?」俺の声はまだまだ本調子ではなく、呂律が少し回っていない。
「ど、どうしたの?」1人だけマジックを隠すのが遅れた真奈が咄嗟に隠しながら聞き返す。
「俺の顔から素敵な匂いがするのを、どうしてか分かる奴いるか?」
5人の顔を見るなりぷぷっと吹き出すので俺は、何も言わず立ち上がり、洗面台まで向かう。
顔には、寄せ書きが書いてあった。
普通寄せ書きというのは、色紙に書くもんだ、まぁ、知らなかったのだから仕方ない。
なはずあるか!!!
『ばか』
『寝るな』
『早くご飯!』
『ありがと』
『ありがとう』と俺の顔に5人分のメッセージが丁寧に反対文字になって書かれている。
俺は、咄嗟に蛇口を捻り、顔をすすごうかと思ったが……蛇口を閉めて、記念に自撮りを撮っておく。
やっぱ、俺は写真家には向いていないなと思うほど、モデルの顔が不恰好な笑顔だった。うむ、これはピアニストから遠ざかる訳だ。
俺は、ゆっくりと水性のマジックを温かい水で消していった。
意外に時間かかるなこれっ。
リビングへ戻るとテーブル一杯に注文したであろうオードブルや単品料理がずらっと並ぶ。時刻を見ると12時なので1時間ほど寝ていたようだ。
そして、やはり芹香の周りにはデザートがずらっと並ぶ。俺はいつもの席に腰掛けると大きめのオムライスがボンと置いてある。
ケチャップは何も付けていない。
どうやら、俺のメッセージを聞きたがっているようだ。
だから、俺は。
『ハッピーエンド』とキザな言葉を丁寧書いた。
それを見守った彼女達は『いただきます』と言い、この祝賀会を楽しむように味わいながら箸が進んでいった。
もう既に俺たちの溝なんて無くなっていた。
だから、笑い合える。
心配できる。
励まし合える。
一緒に時を過ごせる。
そんな今までで味わったことのなかった愉快なご飯は既に食べ終わっているのに、19時まで続いた。
皆は、疲れ切ったのか俺が綺麗にしたテーブルの上でぐっすりと眠りに耽っていたのでそっとしてあげた。
皆.......ではないか。そう思い、俺は眠らなかった少女の元へ向かう為リビングと玄関を抜け、庭に踏み入れる。
その少女は、やはり俺を脅かす為『わぁっ!』と馬鹿っぽい声をあげる。
「驚かないって学習しろ」
「驚くってことも学習しろ」なんと良い返しをされてしまった。
だから、次に驚かされた時はアカデミー賞を狙ってみようかと心に決めた。まぁ、それだったら、顔の良し悪しは関係ないだろう。驚いている顔なんてカッコイイやついないと思うから………だよね?
俺は望がベンチに座った横へ腰を下ろすとまだ夜じゃないかのようにベンチは温かくて危うくアカデミー賞を取りそうになる。
「楽しかったか?」
「あの場所が楽しく無かったって言わせる気か?そんなサイコパスキャラにすんな!」俺をジトっと見て、すぐにいつもの騒がしい口調で話す。
「キャラ作りに困ってたようだからな。そのチャンスを与える親切心から聞いたんだ」俺は望に軽口を叩くも彼女はクスリとも笑わずに空を見上げる。空にはチラホラと星達が輝いていた。
「あの選択でよかったと思う?慶喜は」あの日初めて聞いた口調になったので俺は声が滑らかに鳴る方へ向き直す。
「…………どういう意味だ?」
「明日から明智真奈は一人暮らしを始めて、私たちの高校に入って、徳橋千明もここに残って、理事長も多分そのままで。………そんな答えでよかった?ってこと」何を言いたいのか検討もつかない。最善の答えだと俺は思っている。
真奈は、明日から既に契約していたマンションで一人暮らしをする為荷物を俺たちが登校した後に移動させている。物件も防犯設備がしっかりしていて、5階なため、お金も張るが3年分ぐらいは余裕でペイできるほどの貯金があるから問題ない。
もちろん、明智家の援助も無くなるため、学費も払わなきゃいけないが、それも問題なし。俺が何度もシミュレーションをしても問題がなかったからな。正直、10年は軽く持つだろう。真奈は、倹約をするだろうから15年は大丈夫なため、ヒモ生活を密かに企てているなんて事は内緒にしとこう。
彼女にとって俺が……俺たちが出した答えをどう見ていたのかが気になった。
「………望は何を思ってたんだ?」一考してから答えを紡ぐと思っていたがすぐに出て来た。
「これが課題だってこと」
「…………」だめだ、何を言いたいのか読めない。俺が黙っているのを見て『ふぅ』とため息をつき話し始める。
「最初からこの投票は、課題って名目で話が進んでいた。それは理事長や伊能先生が言っていたので共通認識だと推定できる。課題っていうのは、幾つかの帰結ってのが用意されている。要するにゴールや答えってのが課題を発案した者の手にある訳。それを私達が見つけて答えを出す。でも、それってあの人が既に作っていた答えをなぞるのと同義。私たちは、あの人の手の上で転がされていたように思う」
自分がこの課題を受けている間、誰にも言わず考え込んでいた言葉を澱みなく吐き出す。
まるで俺の頭上をピョーンと飛ぶバッタかのようにあっさりと俺の思考の上を行く。
「…………俺たちが紡いだこの結末すらか?」
「大枠はそうだと思う。あの人からしたらアイスブレイクのようなものだったのでしょうよ」
あの人とは、勿論、俺たちを拾ってくれた
だが、俺は、この課題はアイスブレイクとして受け取っていなかった。ただ、俺たちがどう行動するのかをモニターしているのだと思った。だからこそ、千明があの発言で、ピリオドを越えた時に理事長として留まることが決まったと俺は思ったんだ。
それを望は………。
「……い、いや。………それは考え過ぎだろっ」俺はゾワッとした体を否定するかのように口遊んでしまう。
「そうかもね。……………自分本位で明智真奈をここから遠ざけたのは、危険になるかもしれないからでしょ?」全てお見通しかのようにこちらを見て話題を変えてくる。
「なんのことだ?」俺が真奈に敢えて言わなかった事を望が気づいたのか気になってしまい、つい疑問形で投げ返してしまう。
「ここに入れば道玄坂家と関わりが有るとして誘拐や強盗なんかが起きる可能性もあり得る事を想定してNOを多数票に仕立て上げたんでしょ?一人暮らしをすればここから遠ざけれるから。本来ならYESでも事の顛末は変わらないけれど、NOにしたのはその為」
だが、望が言っていることは、少し違う。
YESでは、真奈がメイドとして人生を送ることとなってしまう。
だから、俺はそれを否定した。
望は、そこについてあまり理解していなかったのだとその言葉を聞いて思う。
………違うか。
もしかすると、メイドの枠組みなんかを俺たちだけで取っ払ってしまい、普通の高校生6人組として暮らす事を考えていたのかもしれない。
なぜ、俺がそこまでして周りからメイドとして真奈が見なされるのが嫌だと思っているのは、俺の単なるエゴなのかもしれない。
それを見据えての別解を俺に叩きつけたのだ。
あんたは、自分本意だって。
もしかしたら、真奈はここで一緒に暮らしたかったんじゃないかって。
メイドとしてでもいいから一緒に暮らしいって。
だけど、その選択は俺には選べなかった。
違うな。
選ばなかった。
やっぱり、俺は真奈の事をメイドとしてではなく、1人の女の子として大切にしたかったからだ。
誰かにメイドとして見なされる真奈ではなく自由になった真奈と明日を紡いでいきたかったんだ。
だからこそ、その選択だけはできなかったんだと自分の中で結論づける。
「……まるで種明かしをマジックの途中で言われた様な恥ずかしさだな。なぜ、そこまで解っていたのに言わなかった?」
俺が先ほどまで深く思考していたのをワザとやらせたかのようにふふっと笑いながら望は言葉を紡ぐ。
「慶喜の役割……契約を思い出したからかもね」望は全てを見切っていたようにそう口遊んで満月をぼんやりと眺めていた。
「………」
「ねぇ、鍵ある?」ひょいっと手を差し出してくる。
「あのー、学習能力あります?」
「言われる前に鍵を出す、学習能力あります?」その無茶苦茶な軽口で俺たちはカラカラと笑う。
だから、俺はポケットに入っていた鍵を渡すとそそくさとここから立ち去って行こうとしたが、立ち止まってこちらを見ずに話しかけた。
「でも、私は慶喜の紡いだこの答えは好きかな。皆が諦めず、ピリオドの向こう側を見つけたこの答えは」
右手をひらひらとさせて置き土産を置いていき彼女は家に帰っていく。
俺は、まん丸に煌めき輝いて癒してくれる月をボケっと眺める。
今後、このような……課題が出てきた時に彼女達は躓くかもしれない。
諦めようとするかもしれない。
だから、俺が、その先を肩組んで歩いても良いかなって思える存在になりたいと思った。
ピリオドが打たれてしまってもその先を望んで、越えて、明日を紡ぐ。
それがきっと捨て子の俺たちの未来となるから。
俺は、夏を知らせる夜風に触れつつも明日来る、笑顔に向けて歩みを進めた。
ピリオド。を越えていく彼女達と あけち @aketi4869
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