第11話 最弱の男

 20分ほど話し込んでレストランへ向かうと既に料理が届いていてみんなは食べていた。俺と真奈は、スマホを見ると通知がいっぱい来てて俺たちは顔を見合わせフッっと笑う。


「仲直りしたそうね」芹香が甘そうなアイスのデザートをスプーンで真ん中を切り裂く。それを見て俺たちの壁がアイスみたく解けたのかな?って思った。


「そうだね。2人の顔色も良くなったし」

「お前らっ、寿司食ってただろっ!!私も連れて行けよっ」今にでも寿司に行きたそうな体勢になるので『行ってない』と言い、落ち着かせる。


「元気になったのが伝わってくるね」千明は、オムライスを食べていた。俺も注文したオムライスのケチャップには、『遅せぇよ』とメッセージが添えられていた。なんとも涙ぐましい。


「早く食べなさい。冷めているわよ」

「………そだな」ツッコむべきだろうが、みんなを待たせたからな。俺と真奈は急がずゆっくりとも食べずいつも通り食事をした。ちなみに真奈は海鮮丼を美味しそうに食べていたので刺身を一つこっそりと取った。このお礼は100倍にして返すからなと心の中の取りやすいポケットのところに入れておこう。



「じゃあ、こっからは遊びますか!」芹香でも、千明でも無く、真奈がそれをみんなに言った。

「おっ、やる気満々だね」

「自信あるの?メイドさん」

「ボーリングとダーツですよね?」俺は『うん』と答えるとに和かに

「ありません!!」と堂々と答える。皆は、それを聞き笑う。だが、やったことがないのは皆も同じこと。だから、センスがある人間が勝つだろう。

 当然、センスのある俺は、全部完勝を収めた。特にボーリングは酷かった。


「ちょっと、私のボール右に曲がるのだけど?」真っ直ぐ投げているはずなのになぜか右へ急に曲がる芹香。

「おいっ、このボール軽すぎるんだけど?」レーンの1/5ほどまで転がすのでは無く、落とす形で投げる望。ホントレーンが大丈夫か?って思ってしまう。

「私のボール遅すぎない?」あくびが出てしまうほど弱々しいボールを投げる胡桃。

「よし、曲がったけど。まだカーブが弱いな」初心者のくせにカーブを極めようとしている千明。

「なんでまたガターなの?」終始狙いを定めているがブレブレでガターを4連続取っている真奈。

「こんなこともできないのか!?」ストライクの画面が並ぶのバックにしてドヤ顔を決める俺。


「あなたムカつくわね」腕を組ながらそう芹香が不満そうに発してくる。

「いや、真っ直ぐ投げるだけだろ?なんなら俺がコーチングしてやろうか?」

「いやよ。……ま、真奈さん、この人昔からこんな感じなの?」座りながら横にいた真奈にぎこちなく問いかける。


「………いえ。昔は、何をするにしても私が教えてました」ちょっと急に何を言い始めるの?真奈さん。


「そうなの。へぇ〜〜?ボーリングホントにしたことないの?」ニマニマと芹香が近づいてきて気恥ずかしいので『降参』と言って両手をヒョイっと上げる。


「ほらぁ、慶喜様はそこで多分すごい練習したんですよ。センスがないのが慶喜様ですから」


「あっ、そう言えば、服のセンスないって認めてた。真奈ちゃん」俺では無く、真奈に近寄っている。


「そうなんですよ、センスがこれっぽちもないんですよ」あれ?元気を取り戻したというより、俺を貶し始めてないか?


 皆が服装を下から上へと見るので『やだっ』と言い、体を隠す。


 そしたら、望以外の全員笑うので。泣きたくなる、助けてぇ〜〜望ぃ。『ふん』と望が笑う。


「ストライク全部取らなきゃ、お前が一週間朝・夕ご飯は当番な。隠してた罰に」


「それ良いね、望君。真奈君は?」千明が目の前にいた真奈に呼びかける。

「良いですね!今日も卵焼きできませんでしたから。努力が好きな慶喜様には勝っても負けてもどっちに転んでも良いですからね」真奈が俺を見てなかったからだろ!?と言いたかったが流石の俺も言えず、すぐにこう切り出した。


「やってやるよっ!ただし、お前らの指導もしっかりするからな?他所でボーリングして笑われるのは俺が許さん!」そんな俺の声に皆が歓声を上げて、4人のボーリングは真っ直ぐに転がすことができるようになった。


 ただ、千明のボールはまだカーブを描いていた。


 もちろん、ダーツもやった事がありました。だから、そこでも問詰められて女子の皆さんに調理されましたとさ。


 めでたしめでたし。




 時刻は17:00を超えていて流石に皆が疲れていた。不安に思っていたこのデパートは自分なりの良い終着点に向かった気がした。バスで帰っている中、俺の横にぐっすりと眠る真奈の頭がススっと降りて俺の肩に到着する。


 やはりその寝顔は、可愛い。まつ毛が長くて、唇もピンク色でぷるんとしている。その寝顔から目線を逸らし、皆のところを見ると千明以外が寝ていた。


 千明はただ窓の外の夕日を眺めていた。

 俺は、そんな彼女に『楽しかったか?』とメッセージを送る。

 彼女は、『まぁね』とだけ返すとまたすぐに夕日を見つめ直した。


 何を考えているのかは、わからない。

 みんなが話し合ってこの肩に無防備にも置いてくる彼女をあの家にメイドとしていてもらうかを決めるべきだろうか?それとも個人で考えて決めるべきだろうか?


 俺には確固とした答えはない。


 だけど、夕日を眺める君にはその確固とした答えを既に出している気がした。



 1ゲームを全てストライクというプロでもなかなか難しいことなど出来るはずもなく、俺は1週間止むを得ず、料理をすることとなった。

 その1週間で料理の基本をある程度マスターし、真奈が持っている料理本通りにすればそれなりの品が提供できると自信をもつほどとなっていた。


 だが、その料理をマスターするために作りすぎ、食材がもう人参一つしかない。まぁ、横でボケっ外を見ている望だったら人参一つで7日間ぐらい持ちそうだが、俺たちはそうはいかない。


 だから、外に買い物へ出かけたいのだが、あいにくの雨風。それも少し強めの……。学校から帰って1時間後に今の状態へとなっていた。雨風の音はしっかりと防音しているのか中には響かない。


 だが、どうしようか。みんなは、俺に料理を信用しきっていた?のか誰も冷蔵庫の心配をしていない。


 前々から『食材を買いにいかないとな』と自分に言い聞かせていたのだが、忘れていた。それほどまでに、この1週間が楽しかったから。


 みんなが真奈に話しかけてくれる様になったし、夕食や朝食もテーブルで皆楽しく話している。そのテーブルの方を見ると1人の少女が黙々とテキストを広げ、勉強に励んでいる。


 正直、1人で行くという考えも浮かんだ。だけど、6人分の食糧となると流石に傘を持ちながらでは厳しい。だから、最低でももう1人の人員を確保したいところだ。


 俺は、恐る恐るそのボクっ子のところへ近寄る。


「勉強は順調か?」千明の前の席へと座り聞いてみる。立ちながら喋りかけると礼儀がなっていないし、上から目線と思われそうだからな。


「………僕たちがするのは殆ど復習なのだから順調も何も無いよね?」とっくに高校1年の範囲を終わらせているので俺たちが帰ってやることは、趣味で勉強範囲を広げるか復習の2択しかない。


「………そうだった。………なぁ、千明」

「何?」英文が載ってあるテキストを読みながら手をズラーっと真っ直ぐに動かし、訳しているのだろう。後ろから前へ訳してたら遅くなるからな。流石に、それをしながら話すなんて芸当は俺にはできないな。


「買い物付き合ってくれないか?」

「無理」ありがたいことに、すぐに返答してくれた。


 前のバスの中の電車といいレスポンスが早いのが彼女の特性だろう。だが、今回のは、もうちょっと一考してくれても良いけど?


「………やっぱ、『英文を訳しながら話すのなんて』ってことだろ?」

「違うよ。もう、この長文は頭に入っているんだ。君に無理って言ったんだよ」まだスラスラと2ページ丸ごと英文のテキストに指をなぞって動かしている。よくも器用に英語と日本語切り替えれるもんだ。もしかすると俺の日本語すら英語訳している恐れがあるな。


「ヘルプっ、チアキぃ〜」俺がそう言っておでこをテーブルにドンと当てる。


「どうしたの?」

「冷蔵庫の中の食材が無くて、買い物に行かなきゃいけないんだ。付き合ってくれ!」おでこを当てている為か頭に血が昇っていてこの状態が少し苦しい為、いつも通り早くレスポンスをしてもらいたいところだけど……。


 彼女お得意の高速レスポンスは、5秒ほど静寂の後に返された。


「…………ごめん、今日は無理なんだ」そう発したのでゆっくりと千明の顔を見ると遠い目をしながら窓の外を見ていた。そうだよな、女の子がこんな雨の中、出たくないよな。


「そだな、悪かった。勉強の邪魔して悪い」俺は、スッと椅子から立ち上がり、雨が好きそうな望の元へと向かう。


「…………っ…………あっ………」何か後ろから聞こえたので振り返ると千明は先ほどと同じ様に勉強していたので気のせいかと思い、望に近づいて提案を持ちかけた。




「雨ってお得だよな」何を言っているか分からない。

 傘をしっかりと持って彼女の前を歩いていく。流石にこの雨だからいつも通りスーパーに行くのは厳しいということで、徒歩10分のコンビニへ向かうこととした。


 前、学校帰りに立ち寄ったことがあるがラインナップも充実しており、チラホラと食材もあったからな。最悪な場合、インスタント食材なるものがあるらしいからそれを試しに買ってみよう。


「なんだよ、お得って」

「雨を溜めて飲めば生きていけるだろっ?そんなことも分からないのか?」そういうことか。………ん?

「流石に、煮沸しなきゃダメだろっ」ビューっと風が吹くのでその方向に傘を傾けて、一旦立ち止まる。

「そんなの誰だってわかる。馬鹿にすんな」おそらく、あの時の望も3.4歳ながら知っていて煮沸していたのか?それとも近くに誰かがいて教えてもらっていた?


「おいっ、肩が少し濡れてるぞ?あんまはしゃぐな」傘をぐるぐると回して俺に少しかけてくる。水溜りにわざと長靴で入っていくのでそれがかかりそうになるので避ける。

 どうやら、人員確保にミスったらしい。望が暇そうにしてたし、雨に濡れても平気そうだったから連れてきたのだけど。俺にも被害が及ぶことまでは想定外だった。


「肩っ?」自分が濡れていることに気づいていなかったのか肩を見る。シャツ姿のままで玄関にフラっと来た。だから、俺の緑のジップパーカーを貸してあげたのだが……よかったな。シャツだったら………。


「望も女子高生だからな。変な男が寄ってくるかもしれないし。気を遣った方がいいぞ?」俺たちは養子……と言っても名家の子だからいつ何時なんどき怪しい輩に誘拐されるなんてことが起きるかもしれないからな。できるだけ一緒に登校・下校はするつもりだ。だけど、それは必ずしも毎回できる訳では無い。

 望が1人で登校や下校をしている中で気楽な装いをしていると変質者がチャンスと思う可能性も十分にあり得る。


「女子高生ってそんなに面倒なんだな」傘を回すのをやめて横を歩く。

「なんたって若い女性を好むのが男だからな」ここでは、俺が先ほど考えていたあって欲しく無い想定を出さないでおいた。


「あんたも私を女って見てるの?」興味ありげに聞いてくる。

「…………ずっとでは無いな。ふと、女の子を意識するってぐらいかな。他の女子もそうだ。だから、気持ち悪がるなよ」


「………疲れるな、女子高生って」日頃から抱いている事を望が口に出した。本当にそうだと思う。俺がみんなと一緒に登下校していると車や自転車の運転手、歩行者が彼女達の顔や体をチラチラと見ている。だからこそ、彼女達はいつも身なりや装いに気を張っている。


「お勤めご苦労様です!」

「私を囚人みたくしやがって。………で、いつまであんたと契約関係にいなきゃいけないんだよ」彼女と俺との間で小学生の頃、強引に結ばされた契りだ。


「………さぁな。ほれ、コンビニにつきそうだぞ。脱獄囚。最初の飯は何にする?」

「あんたの焦げた卵焼き以外ならなんでも良いわよ」その脱獄犯を俺は店員に突き出すことを心に決めた。




 ある程度の食材が置いてあったので買い物カゴに入れる。そして、店内をふらふらと回ると以前目にしたカップラーメンの容器を一つ取り出す。


 そのパッケージの後ろを見るとお湯を淹れるだけで料理ができるという魔法みたいなことが記載されていた。何やら3分間待たなければいけないらしいが、『嘘つけ、そんな早くに料理が出来るものか』と1人テンプレのようなフラグを立てる。


 そんな俺は、好奇心に勝てずこっそり1人で食べようと思いカップラーメンのシーフード味を一つカゴへと入れる。


 望が店内のどこにいるかを探すがコンビニの屋根の下でボケーっと雨を見ていた。暇なのだろうな。退屈なのだろうな。屋敷にいた時は休む暇もなく勉強やお芸事だっただろうから時間が遅く感じているのだろう。


 俺はレジで買い物を済ませ、エコバックを両手に握って外へ出る。


「お待たせ、ほい」彼女は無機質にエコバックを握り傘を差し、歩いていくので、俺も傘を差し、ついていくと一台の黒塗りの乗用車がコンビニを出た路上でハザードを焚いてクラクションを2回鳴らしている。


 俺は、咄嗟に望の前へ出て警護につく。


「ちょっと下がってろ」中にいる運転手の顔を見るとどこか見覚えがある。


 だけれどここで事件に巻き込まれるのだけは避けたい。


 両手が塞がっているからな。


 その黒塗りの日本車は助手席のドアを開けるが何もしない。


 俺の携帯に電話がぷるぷると鳴る。

 両手が塞がっているため、少しきついが、傘を持っている左手に荷物を持ち、右手で非通知の電話に出る。


「はい、もしもし」

『久しぶりだ、慶喜君』その声は、スマホと黒塗りの車の方からも聞こえてくる。俺の名前を知っているか………。

 聞いたことがある口調だが、思い出せない。


「左手が悲鳴を上げてるんです。手短に頼みます」あえて冗談っぽい口調をし、相手の出方を伺った。

『家まで送ってあげよう』スムーズに躊躇もなく発された言葉は如何にも嘘ではないように感じ取れる。


「そんなフレーズでナンパできたら今頃、世の中子どもで溢れかえってますね。まぁ、子どもを捨てる親ではない事を祈りますが」自虐ネタも披露して見せるが、動揺もない。ますます面倒そうだな。


『信じてくれない様だから述べるが、道玄坂高校の理事長を務めている。これで信用は勝ち取れたか?』理事長……、前に千明が理事長と話していたとか言っていたっけ。


「では、理事長ならわかりますよね?僕たちのクラスにいる徳橋」

『千明。これで良いかい?』まるでその言葉を待っていたかの様にすぐに返してきやがる。千明の高速レスポンスは、理事長から会得したらしい。


「分かりました。ですが、一度でも道から外れたら自分の指をスライドさせて警察に通報しますからね」


 こんな事に付き合う謂れはない。だが、道玄坂高校の理事長がもし本当なのであれば折角のお言葉を無下にすることとなる。それだけは避けたい。俺は、電話を切り望の顔を見ると『はいはーい』と言って黒塗りの車に乗りこむ。


 嫌々ながら俺もそれに乗り込む前に助手席の窓から理事長を覗き込む。


 ダークスーツにパープルのシャツを着込み、ネクタイも黒っぽいが輝いている。見たところかなりの高級品だとぱっと見でも分かる。年齢は、40代を少し超えたあたりで黒髪が一切ない白髪が如何にも偉そうさを際立たせている。


「安全運転で頼みます。ナンパしたいので」と軽口を叩くもこちらを一才見ずに無視されたので俺も乗り込む。俺たちがシートベルトをするとハザードボタンを押し、ドライブに切り替え、指示器を出して走り始めた。速度は、時速20キロ。周りの車は当然イラついたのか追い抜いていくが、高級車だからだろう。誰もぷっぷーとクラクションを鳴らさない________いや、違うな。


「君が道玄坂か?」ルームミラーで望の方を見ながら話しかける。

「それがどうした」腕を組みながらルームミラーに映る理事長を睨む。


「……相変わらず、道玄坂家はなってないな」望が口を大きく開けたので『あの』と言って望の体の前に右手を出す。望は、仕方ねぇなって顔をしながら『フン』って鼻を鳴らして誰も通らない対向車線を見ている。


「何を話したいんですか?」車の速度、分速333m。徒歩が1分間で80mだとすると10分間で800m。約3分弱ほどだな。ここまでの道のりは真っ直ぐだから予想を大きく外れないだろう。信号機は横断歩道しかない。


「…今行われている課題について感想を聞きたくてな。だからこうして、時間を作った」恐らく、理事長は俺たちがこうして買い物に出掛けたことを知っていたのだろう。それもそのはず、リビング・玄関・庭には監視カメラが付いている。他の人がそのことを把握しているのかは分からないが、ある程度俺たちの行動パターンを掴んでいるだろうから、『ここに偶々来た』なんて冗談をかますのは不要と判断したのだろう。


『では、学校でもよかったのでは?』と聞き返そうと思ったが、あえてそれを噤んだ。


「千明とメイドの真奈は、仲良くしていますよ?」問答をし合うのは時間がかかると考え、頭の中で会話を作り、1.2分ほど話した後で出るであろう結論を答えてみせる。

「そうか……………君たちは、YESに投票するだろうな」聞きたいことはそれだけの様でアクセルを踏み、雨風に吹かれる幹線道路を滑走と走り抜け、無事にシェアハウスへと辿り着く。


「おっさん、ありがと」そう言って傘と荷物を持ってシェアハウスへ入っていく。


 俺は、傘をパッと開けずに、理事長に向かってパッと口を開いた。


「流石の要人ですね。警護がバッチリでした。これじゃあ、ナンパなんてあの頃と同じくできません。こんなカッコイイ車に乗っているのに残念な限りです」


 俺たちを抜き去ったクルマは、こちらを睨む事なく、前を同じ速度で誘導していた。理事長が速度を上げる時にエンジン音が鳴ったのでそこで速度を上げて俺たちの家でハザードを炊き、ここだと知らせ、どこかへ向かった。最初から2台とも止まっていると警察が通ると麻薬の密売などと面倒なことになりかねないとでも思ったのだろう。もちろん、俺たちを乗せた後ろの車や対向車線はなぜか通らなかったのも彼らが何かを企てた結果であるのは考えるまでもないな。


「…………。……あの子達の警護を君に託しているのだろうな。いや、君が命令、指示されているのは道玄坂だけか」


「………警護?そんな事を引き受けた覚えはないですよ」


 俺の言葉を聞き、ようやく後ろを向いてくれる。やっとナンパ師の力量が発揮されたな。外にナンパできる子がいなければ、中でナンパするのはナンパ師の基本中の基本だからな。


「………」見つめてくるおじ様の顔を見て『嘘っ、やだっ!意外にハンサムじゃないっ!』と俺が喜んだら、胡桃が喜んで家から飛び出してくるだろうか?


 この反応を確かめられただけでも儲け物だが………ここはもう一つ話しておこうか。


 そのナンパ師の優しい語り口と雨音のリズミカルな音色が車内を満たすも、3分ほどで無事あっさりと振られた。そして、その一度も落としたことの無い最弱のナンパ師は、女の子達が住む家へと帰っていった。

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