第一話
第一話
──遡ること一ヶ月前、破軍学園校庭にて。
一人の少年が大勢の不良に絡まれていた。
二月の中頃、前日に天気予報を無視して降り注いだ雪が残った校庭の中央。
二十人は軽くいるであろう男達に囲まれた黒髪赤眼の少年──
「···はぁ。何かようすか?藤原先輩」
「とぼけんじゃねえ!!てめえがウチの連中ボコったってのは知ってんだよ!!」
藤原はエラが張った顔を真っ赤に染めながら大声で怒鳴り立てる。
その剣幕に吊られて見れば、不良連中の数人は怪我人で、顔や頭に包帯や湿布などを貼り付けていた。
龍斗は溜め息を吐くと、鬱陶しさを隠そうともせずに気だるげに答える。
「あー···あれはあんたらが悪いだろ。俺は中学生相手にカツアゲしてる悪い奴等にお仕置きしただけだぜ?」
「ふざけんじゃねえッ!!偉そうにしやがってよぉ···!前々から気に入らなかったんだ、一年坊のくせして、俺様に楯突きやがってよぉ···!」
龍斗の言い分にますます腹を立てたのか、藤原は更に声を大きくすると手に持った木刀を振り上げ、周囲の男達に指示を下す。
「このガキィッやっちまえッッ!!」
「「「オオオオッ!!」」」
藤原の怒声に応え、男達は咆哮し各々持った武器を構えて龍斗へと殴りかかる。
「ったく···──手加減しねえぞ?」
龍斗はそう吐き捨てると、緩く拳を握って男達を迎え撃つ。
真っ直ぐ突っ込んでくるモヒカン頭が木製バットを大振りに振るうのを避け、拳を一閃。
まさに閃光の如き速度で放たれた鉄拳はモヒカン男の顔面にめりこみヒット。そのまま拳を振り抜き、男を殴り飛ばす。
後方から迫ってきていた男数人を薙ぎ倒しながら三メートル近く吹っ飛んだのを横目で捉えながら、龍斗は横で呆気に取られていたリーゼントヘアの側頭部を蹴り抜き、地に沈める。
僅か数秒の瞬殺劇に硬直する不良達を無感情の瞳で眺めながら、龍斗は前髪を掻き上げて挑発の言葉を放った。
「──次」
◇◇
「···で、どうします?みんな逃げちゃいましたけど」
──二十人はいた不良達は、まさしく秒殺。
誰もが龍斗に一撃すら与えられず、逆に一撃で伸されていき、あまりの無双ぶりに残っていた連中も慌てて逃げ去っていった。
「ぐっ···使えねぇ連中どもめ···っ」
一人残った藤原は冷や汗を流しながらも、戦意は衰えず木刀を構える。
龍斗は不敵な笑みを浮かべながら拳を構えて、藤原を睨み付けた。
「へえ?逃げねぇんだ?」
「あったり前だ!!俺ァ、破軍学園三年の藤原だッ!!俺の辞書に『逃げる』って文字はねぇんだよッッ!!」
藤原はそう叫びながら木刀を上段に振り上げて、地面を蹴る。
「嫌いじゃないぜ、そういうの」
龍斗は不敵な笑みを崩さないまま、振り下ろされた木刀を片手で弾き、もう片方の拳を鳩尾に叩き込んだ。
「ごふォッ···!」
くぐもった息が漏れ、藤原は腹を押さえて踞る。
龍斗は背筋を伸ばしながら倒れ伏す不良達の横を通りすぎ、校舎へと歩を進める。
「ふぅ···良い運動になったぜ」
「そうか。それは良かったな」
「おう···」
玄関に入り、下駄箱で靴を変えようとしている最中、頭上から声が掛かった。
恐る恐る靴を履き替えながら頭を上げると──其処には、ジトリとした視線を向けた龍斗の担任、
「あ、あはははは···おはようございます葛樹先生」
「ああ、おはよう。早速だが、生活指導室に来て貰おうか」
「いや、あれはあいつらが悪いって!!」
「はいはい。後は指導室でゆっくり聞くから」
必死の弁明も届かず、葛樹は龍斗の手を引いて生活指導室へと向かっていく。
先ほどの乱闘を見物していたであろう生徒達に見送られながら、龍斗は連行されるのであった。
◇◇
「しかしまあ、お前は優等生なのか不良なのか分からんな」
「はは···それはどうも」
「いや別に誉めてはない···まったく、昨日は徘徊老人の保護で感謝されたと思えば、今日は乱闘か」
「まあ、乱闘というか一方的なもんでしたけどね」
龍斗の捕捉に葛樹は大きな溜め息を吐くと、立ち上がり、ドアを開けた。
「はぁ···ほら、行って良いぞ。今回の喧嘩の理由も、向こうがカツアゲしたのが原因だと分かったからな」
「ありがとうございます。あの人たちにもちゃんと注意してやって下さいよ?」
「お前が言うなお前が」
一礼してから指導室を出て、教室へと向かう。
階段を上り、直ぐ。1の三というプレートが掲げられた教室の前に立ち、気付かれないように教室内を覗く。
「げっ···ホームルーム中かよ」
何時もならもう終わってるはずだが、今日は長引いているらしい。
副担任である茶髪の女教師、
(この時期にか···珍しいな)
もう後少しで一年生も終わりだ。そんな時期に転校してくるなど、滅多にないはずだ。
そんな思考を一度止め、入るかどうかを悩む。
覗いた限りのクラスメートの反応からして、転校生は恐らく女子生徒だろう。
その証拠に男子連中の反応が明らかに良い。
これは一目見るべきか、と龍斗はドアを開けて入室し、挨拶しようとして──硬直した。
窓から差し込む光を受けて輝く白銀の髪。透き通る海のように綺麗な青い眼に幼さが残る可憐な顔立ち。
途方もない美少女だ。男連中が色めき立つのも無理は無いだろう。
だが、龍斗の思考を釘付けにしたのは
少女は驚愕に眼を見開きながら龍斗を見つめて立ち尽くす。
そして、その感情を表現するかのようにピンと逆立った
その生物的な動作からして作り物ではない。
普通ならば、絶対に好奇の視線を向けられるであろうそれらに、教師を含めて龍斗以外の全員が気に止めていない。
その異質さ、そしてなにより──この少女を、龍斗は知っている。
「あや、の···?」
「りゅう···くん···」
少女は目の端に涙を溜めながら、すがるかのように名前を呼ぶ。
それに答えるように静かに、ゆっくりと頷くと。
「龍くん···龍くん···ッ」
少女──
◇◇
白雪綾乃は一人、私立破軍学園校門前にて顔をしかめながら立ち尽くしていた。
率直な感想を述べるなら、「マジか」である。
「何て濃い呪詛···どうしたらこんなんなるの?」
夥しい呪詛がこびりついた校舎を見上げながら、綾乃は生唾を飲み込む。
霊感が強い者が立ち入れば、十中八九怯えるであろうおぞましさだ。
綾乃は肩から下げるスクールバッグの紐を強く握り、意を決したように校門を潜り抜ける。
刹那、背筋を貫くような悪寒が走り抜ける。
(マジですか。こりゃー苦労するなぁ···)
苦笑しながら歩を進め、玄関まで辿り着くと校庭の騒がしさに意識が引っ張られる。
ふと視線を向けてみれば、一人の男子生徒が大勢の男子生徒と乱闘を繰り広げていた。
「ほえー···強いな、あの人」
感心したように呟く。
校庭で乱闘を繰り広げる男達の中心に立つ黒髪の少年は、殴り掛かってくる男達を最低限の動作で避け、強烈な一撃を叩き込み、たった一発で戦闘不能に追いやっていく。
並大抵の実力ではこうもいかないだろう。
綾乃が感心しながら眺めている最中にも、少年は背後からのバッドのフルスイングをまるで背中に目でも着いてるんじゃないだろうかという風に軽々と避け、回し蹴りを腹に打ち、大きく蹴り飛ばしていく。
おおっと思わず感嘆の息が漏れる。
流れるような身のこなしから少年がただの不良ではなく、何らかの武術を修めているのだと理解する。
それも一流クラスの腕前だ。現に少年は息一つ乱さずに笑みを浮かべながら不良達を捩じ伏せていく。
その様子を苦笑しながら見つめていると、ふと懐かしい横顔が脳裏に過った。
(そういえば、
子供の頃。良く遊んでいた幼馴染みの少年を思い出して、口許が緩む。
此処──"
···まあ、離れてる可能性もあるが。
「っといけないいけない」
思考を中断し、校舎に入る。
生徒達の視線を無視して客用のスリッパに履き替え、そのまま職員室へ。
二回ノックして入室すると、奥のデスクに座っていた茶髪の女教師が笑顔で駆け寄ってくる。
「おはよう。貴方が今日から来る子ね」
「おはようございます。白雪綾乃です。今日から宜しくお願いします」
「あらあら、丁寧にありがとう。私は唐沢瑞穂。気軽に瑞穂ちゃんって呼んでね」
「あはは···ありがとうございます」
「うふふっ···っと、いけない。もうすぐホームルームの時間だわ。ごめんなさいね、本当なら担任の葛樹先生に挨拶した方が良いんだろうけど、今ちょっと外しててね」
「何か用事があったんですか?」
「うん···まあ、この学校の問題児···ではないけど、いろいろと有名な子のお説教でね···まあ、ウチのクラスの子なんだけどさ」
苦笑しながらそう言う瑞穂に綾乃は先ほどの光景を思い出し、躊躇いがちに問いかけた。
「もしかして、あの乱闘してた人ですか?」
「あー···見てたのね。そうなのよ。普段は良い子なんだけどね。たまに授業サボるけど基本は真面目に受けてくれるのよ」
「はえー···でもまた、何で乱闘なんか」
「うーん···此処だけの話。三年の不良連中がね、それはもう荒れてるのよ。前はもう手のつけられないようは暴君だったんどけどね、今年にその子が入学してから、ボッコボコに叩きのめされちゃって···暫くはその件でおとなしくしてたんだけど、こないだ近所の中学生の何人かがそいつらにカツアゲされてね。その現場に出くわしたその子がまた、カツアゲしてた連中を叩きのめしたのよ···今回の乱闘事件はその報復って感じ」
「···良い人なんですね」
「うん。副担任だからって贔屓目を抜いても良い子なのよ」
やっぱり似てるな。と思いながら瑞穂の話に相槌を打ちながら歩いていると、教室に着いたのか脚を止めた。
「じゃあ、葛樹先生の代わりに私が紹介するわね。合図を出したら入ってきて」
「了解です!」
笑顔の瑞穂にビシッと敬礼で返すと、クスクスと微笑んでドアを開けて教壇に立った。
トントン拍子で朝の挨拶と連絡事項は終わっていき、遂に綾乃の紹介が始まった。
「ってことで、転校生の綾乃ちゃーん?」
どこぞのテレビ番組かのように名前を呼ばれた綾乃は、緊張に顔を強張らせながら教室に入り、教壇へ立つ。
チョークを手に取り、黒板へと自身の名前を書く。
出来る限りの笑顔を浮かべながら綾乃は挨拶する。
「し、白雪綾乃です。今日から宜しくお願いします!」
勢い良く言い切り、そのまま頭を下げる。
教室内を静寂が支配する。
不安に駆られて綾乃は頭を上げると、隣に立つ瑞穂が小声で耳打ちする。
「綾乃ちゃんに見惚れてんのよ。見なさい、あの男子の顔」
「···あー···」
からかうように笑う瑞穂を横目に、綾乃は見渡してみると確かに、デレデレとしたように頬を緩める男子生徒がちらほらと目に写る。
「あ、あはは···」
困ったように頬を掻くと、ドアが勢い良く開けられた。
さっき言ってた怒られてる人かな、と考えながらドアへ視線を向け──驚愕に目を見開いた。
艶やかな黒髪に真紅の眼。幼さを残しながらも整った顔立ち。
記憶に残る姿よりも背は伸びていたが、忘れる筈もない。何年もの間焦がれ続けた大切な幼馴染み──十六夜龍斗が其処に立っていた。
龍斗もまた、驚きからか綾乃を視界に納めたまま立ち尽くしている。
「あや、の···?」
「りゅう···くん···」
確かめるように、すがるように彼の名前を呼ぶ。
すると、彼は静かに、噛み締めるかのようにゆっくりと頷いた。
──ああ。彼も覚えていてくれた。
堪らぬ嬉しさを隠さずに、綾乃は涙を浮かべて彼へと駆け寄り、抱き着いた。
「龍くん···龍くん···ッ」
困惑が教室を支配する中、斯くして二人は再会を果たしたのだった。
◇◇
「どういうことだよおい!?」
ホームルームが終わり、休憩に入った瞬間。
そう大声を上げながら龍斗の机を叩いた少年──
「ああ、幼馴染みなんだよ。こいつ」
「宜しくお願いします!」
椅子に座った後も尚抱き着いている綾乃を指差しながら答えると、その答えを肯定するように自信満々といった様子で親指を立てる綾乃を見詰め、蓮は項垂れる。
「ああ···そう···ってか、距離近くねえか?」
「そうか?昔からこんな感じだったけど」
「だよね?」
「ごめん。聞いた俺が馬鹿だった」
何を言ってるんだ?と言わんばかりの二人に、蓮は諦めたように首を振る。
事実、昔から綾乃は龍斗にべったりとくっついており、龍斗もまたそれを当然のように受け入れていた。
それが数年間も離れていたのだ。再会の拍子に抑えていた感情が溢れても仕方ないだろう。
すると、休み時間の終わりを告げる鐘が鳴り、蓮は恨めしそうに龍斗を睨みながら自分の席へと戻っていく。
綾乃もまた名残惜しそうに龍斗から離れ、自分の席──瑞穂が気を効かせたのか、空いていた右斜め後ろの席へと戻る。
その後ろ姿を見送り、一時限目の科目である科学の教科書を取り出して机の上に広げた。
◇◇
藤原康也は苛立ちに任せて屋上の柵を蹴った。
破軍学園の屋上は規則上立ち入り禁止になっているが、藤原に取ってそんなルールはあってないようなものだった。
一時限目をサボり、それを咎める教師を睨み付けて教室を後にすると、暴力で従えた取り巻き数人を引き連れて屋上へ上がる階段を登り、持ち込んだ針金を使って鍵を開け、屋上にて駄弁りながら自身が一方的に勝つルールで賭けトランプに一日中興じるのが、藤原の日課だった。
一年生の時に185cmを超える自慢の体格と暴力で三年の不良達を蹂躙し、二年生をも支配下に置いた彼に逆らう者はいなかった。
性欲が溜まれば手頃な女子生徒を暴力で支配した柔道部の部室に連れ込んで犯し、金に困れば手下を暴力で脅してむしり取る。
まさに"自由"だった。教師すら、彼の凶暴性に怯え、抵抗することすら無くなった中、藤原は三年生へと進級した。
このまま、卒業するまでこの自由が約束されたと感じていた。
──奴が入学するまでは。
絡んだのは単純だった。藤原が二年生になってから始めた新入生の通過儀礼の一環で、あの男──十六夜龍斗に取り巻きと共に因縁を付けたのだ。
普通の生徒や並みの不良は、藤原の威圧に怯えて服従を誓う。だが、龍斗は違った。
彼は真正面から藤原に歯向かった。体格を生かした威圧も、取り巻きの数による脅迫もまるで通じなかった。
初めての怒りに任せ、校舎裏に連れ込み喧嘩に持ち込んだ。
喧嘩には自信があった。幼少期の頃に学んだ空手と体格を生かした剛力で、無敗だったからだ。
しかし、龍斗には何一つ通じなかった。
体格と筋力では上回っている筈なのに、手も足も出ずに返り討ちにあい、手下達も一発も攻撃を与えることが出来ずに蹂躙された。
屈辱だった。我慢ならなかった。
だから、何とかして彼を打倒しようとしてきた。
けれど、その努力が実を結ぶことは無く、むしろ藤原の立場を悪くする一方になり、かつては百人近くいた部下も今では二十人程度まで減少してしまった。
「あの野郎さえ···あの野郎さえいなけりゃ···!!」
歪んだ憎悪を抱きながら柵を蹴り続ける藤原を見ながら、二年生の時に藤原に徹底的に恐怖を刷り込まれた
(···俺は、こんな男に怯えていたのか)
今までの自分に嫌気が差す。
隼人は踵を返し、屋上から立ち去ろうとする。
その様子を見ていた他の取り巻きが、隼人に声を掛けた。
「おい···何処に行くんだ?」
「教室に戻る。もう藤原さん···いや、あのクズに付き従っても意味ないからな。俺はもう現実を見るよ」
「お前···」
「じゃあな、お前らもそろそろ見きりを付けた方が良いぞ」
隼人はその言葉と共に屋上を後にした。
その後ろ姿を見送って、取り巻き達は溜め息を吐いた。
「···それが出来れば苦労しねーよ」
一人が小声で愚痴る。他全員がその台詞に同意するかのように小さく頷き、未だ柵を蹴り続ける藤原に視線を向けた。
「鷹ヶ峯は、元々喧嘩強かったからああやって反抗できるが···俺たちゃそうもいかねえ」
「ああ···それに俺らは、藤原さんの悪事を散々手伝わされたんだ。興味ねえからって手を貸さなかったあの人とは違う···藤原さんがもし捕まったりすれば、俺たちの犯罪も表に出ちまう···」
「そうなりゃ、俺たちのお先は真っ暗だ···」
男達は、ごくりと生唾を飲み込み、自身が置かれた状況に諦念を覚える。
やはり、卒業するまでの間、この男に従うしかないのかと理解した瞬間。
藤原が大声で指示を出した。
「おいッ!!むしゃくしゃするッ!!女ァ抱きてぇから、良い女いねえのかッ!!」
一際良い音を出しながら柵を蹴り飛ばす。
蹴られた柵は凹み、九の字型に変形している。
鉄製の柵を力ずくで折り曲げる馬鹿力に恐怖を覚えながら一人が話出す。
「は、はいッ!確か、一年生の
「雛形?あのオカルト部のか?」
「ああ。確かに、あいつはなかなかイケるぜ。普段は眼鏡とかしてて地味な感じだけどよ、結構美人だった」
「そういや、確か今日、夜の学校に忍び込んで肝試しするとか言ってたな···」
派生するように次々と情報が伝えられた藤原は不気味な笑顔を浮かべ、欲望のままに指令を下した。
「よし···今夜、その女を犯す。てめぇらも手伝え。──今日はてめぇらもヤッて良いからよ」
◇◇
──放課後。下校時刻を知らせる鐘の音が鳴り響く。
教室に残り、駄弁っていた龍斗や綾乃達はこれからの予定を話していた。
「この後どうする?」
「んー···俺は部活あるから」
「へー。何部なの?」
「オカルト研究会!通称オカ研。興味があるなら歓迎するぜ?」
興味津々とばかりに問い掛けた綾乃に、蓮はどや顔をしながら答える。
龍斗は呆れたように笑うと、蓮の肩を小突いた。
「隙あらば勧誘するのやめろよな」
「うるせー!こちとら部長含めてたった二人しかいねーんだぞ!」
「全員一年だから良いじゃねーか。卒業まで安泰だろ」
「仲良いんだね。二人とも」
綾乃は龍斗と蓮のやり取りにふにゃりと笑い、バッグに教科書類を突っ込んで席を立つ。
それに倣うように龍斗と蓮もバッグを手に取り、席を立つ。
「じゃあ、俺は部活だから。また明日な、龍斗に綾乃ちゃん」
「おう。またな、蓮」
「またねー···で、どうするの?龍くん」
「んー···じゃ、家来るか?」
「え。良いの?」
「良いよ···ってか、今さらだろ。昔良く来てたんだから」
「う、うん。行く。絶対行く!」
「必死すぎねえ?俺の家は逃げねえぞ」
呆れたように微笑む龍斗に、綾乃は心底嬉しいのか満面の笑顔を浮かべながら彼にすり寄る。
その様子を見ながら蓮は苦笑して愚痴を溢した。
「おーおー。随分とイチャイチャを見せつけてくれますなぁ」
「バーカ。そんなんじゃねぇよ」
からかうように呆れる蓮に龍斗は反論する。
すると、教室のドアからひょっこりと顔を覗かせた瑞穂が綾乃を呼んだ。
「綾乃ちゃーん?
「あ、はーい」
焦げ茶色の長髪にモデル顔負けのスタイルを持つ美女であり、男子生徒からの人気が非常に高く、女子生徒からの信頼も厚い。
皮肉屋な点を差し引けば非の打ち所の無い教師である。
「ごめんね、龍くん。ちょっと行ってくるね」
「おう。下駄箱で待ってるよ」
綾乃は申し訳なさそうに両手を合わせてから、慌ただしく教室から出ていった。
「俺らも行こうぜ、そろそろ部活始まるからよ」
「ああ、だな」
綾乃が走り去っていくのを見送り、蓮と龍斗は教室から出て下駄箱まで向かう。
その道中、蓮が口惜しそうに呟いた。
「これで今日は、俺と留衣ちゃん二人だけか」
「何時ものことだろうが」
「···実は今日さ、夜の学校に忍び込んで、この学校の七不思議を確かめようぜって話してたんだよ。で、お前も誘おうかと思ってたんだけどよ···」
「あー···なるほどね。悪いな、今日は多分明日の朝までゲーム三昧だわ。留衣によろしく言っといてくれよ」
「だろうな···ったく、羨ましいぜ。あんな可愛い幼馴染みがいるなんてよ」
「ははっ。まあ、お前も夜の学校楽しんでこいよ」
「おう。なんかあったら明日話すわ」
蓮は片手を上げ、校舎の隣にある部室棟へと向かっていった。
その後ろ姿を見送り、龍斗は壁に背を預けて綾乃を待つのだった。
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