ちょっと変わった俺とかなり変わった鶏

 町を歩いているとかなりの人からチラチラと見られる。


 まあ仕方ないだろう、何せ血だらけなのだ。

 見ない訳がない。


「で? 服屋はどこだ?」

とコッコに聞く。

 流石にもう見られたくはないのだ。


『ソロソロ見エテクル頃ダ。ア、ホラ見エタゾ』

 そう言ってコッコは翼で方向を教える。


 指された方向には確かに服のようなマークが描かれた看板があった。


「ようやく見られなくて済む」

 そう言って駆け足でその店に向かう。



 チリンチリンとドアに付いていたベルが鳴る。


 「いらっしゃ……うわぁぁあ!!」

 店員がそう叫び椅子から転げ落ちる。


 そこまで驚くか?

 と思いながら近づく。


「なっ、何で血だらけなんです……?」

 と店員はそう言った。

「ん? これか?」


 そう言って服の血がついた部分を指す。

 店員はコクコクと頷いた。


「そんなビビんなって、ファッションだよファッション」

 そういうと店員はの怯えた顔は消えて少しだけ安堵あんどしたような顔になった。


「あっ、そうでしたか、大変申し訳ございませんでした」

 そう言って立ち上がり倒れた椅子を戻し、そこに座る。


「どのような服をお求めで?」

 店員らしい台詞だ。


 そう思いながらこう言う。

「旅をしたいんだ。だから丈夫で他の人から見ても変じゃない服を頼む」


それを聞いた店員は

「分かりました。少々お待ち下さいませ」


 そう言ってお店の奥へ行ってしまった。

待っている間は暇なので売り物の服を見て暇を潰した。



「すみません、お待たせ致しました」

 店員が服を持ってやって来たようだ。


「このような服でよろしいでしょうか?」

 そう言われて見せられたその服は


 紫色のいかにも異世界っぽい服だった。


異世界系なのはいい、ただ紫色というのは如何なものか。


 だが先程店内を見た感じ、あまり良いのはなさそうだ。


「ああ、これで大丈夫だ」

かしこまりました、お値段が6541グレルトになります」


 6541円か、まあまあだな。

 そう思いながらポケットに手を入れながら気付く。


 ……グレルトってなんだ?


 知らない。そんな通貨聞いた事がない。

 不味い、払えない。


「お客様? どうされましたか?」

 店員が顔を覗こうとする。


「あ、えーと、それ取り置きって出来るか?」

 金が無いのだ、仕方ない。


「あっ、はい出来ますよ」

「なら良かった、頼むよ!!」


 そして店を飛び出してまずは稼ぐことにした。


「コッコ、この世界ではどうやって手っ取り早く稼げるんだ?」

 取り敢えず今は早くあの服が欲しいのでさっさと稼ぎたい。

『ソウダナ……マア普通ニ冒険者ニデモナッテ稼グトイウノガ手ッ取リ早イナ』


 冒険者か異世界らしいやつがついに来た。

「よし、冒険者になる為には冒険者ギルドに行かなきゃダメか?」

『アア、冒険者ギルドニ行ッテ手続キヲスルンダ」

「分かった」

 コッコに案内をしてもらいながら冒険者ギルドへと向かった。



 冒険者ギルドに着くとやはり色々な人から見られる。

(またか……確かにちょっと変わってるかもしれないがそんなに見ないでくれよ)

 と思いつつ冒険者ギルドほ受付嬢に話しかける。


「おっ、お客様、大丈夫ですか?」

 こちらが発言する前にそう言われた。


「ああ、これはファッションだから大丈夫」

 服屋の時と同じことを言う。


「あっ、そうだったのですか、申し訳ございませんでした。御用はなんでしょうか?」

「えっと、冒険者になりたくて来たんだが」

「ではまずテストを受けて貰います」


 テストか。だが稼ぐ為だ、仕方ない。

「分かった。今すぐ受けられるか?」

「はい、今からお渡しする紙に書かれた素材をとって来てください。期限は明日の正午までです。」

 

 そう言われて素材が書かれた紙を渡される。

「では、頑張ってください」


 町を歩きながら悩む。

「……一体なんなんだこれ」

 

 紙に書かれた素材の名前を言おう。


 ・ウォーラフィッシュの鱗


 ・スルガメルサ草


 ・シェールヴァーファの角


 ・クルォッツォルダケ


 の以下四つである。


 だがしかし、これがなんなのかさっぱり分からない。

 

 この世界では生まれて間もない頃に教えられるのかも知れないが俺は昨日の朝にこの世に召喚された存在なのだ。


 なのでこの世界の事は無知と言っても過言では無い。


「お前はこれらが分かるか?」

 そう言ってコッコに見せる。


『アア、分カルゾ。ツイデニソレラガアル場所モナ』

「流石コッコだ、頼りになるぜ」


 と言う事でコッコに言われた場所に向かう。

 向かったは良いのだが……


「なあコッコ」

『ナンダ?』

「釣りってこんな難いっけ?」


 そう、最初の素材のウォーラフィッシュの鱗を取る為にツインデ森林という場所に来た。


 そこで自家製の釣竿を作り、土を掘ってミミズに似ているのだけど何か違うよく分からない生き物を針にブッ刺し、釣りをしている。


 因みにミミズに似た何かを刺した時にミミズが

「うぐあっ、あぁ!! ああぁぁぁ!! ふっ……あぁぁ!!」

 と叫んでいた声(?)が耳から離れない。


 かく釣れない事に変わりはない。

 何故だ? まさかこのミミズのような生き物が魚達のお気に召さなかったのだろうか?


 だが他に餌となるものは無い。

『多分ダガ、サッキ針ニ刺シタヤツ毒デモ持ッテルンジャナイノカ?』


 なるほど、確かに毒を持っているのならば食おうとはしないか。

 そう思い水から引き上げる。


 ミミズのような何かはぐったりとしていた。


 そのミミズのような何かを針から外し、近くの長めの草を三つ編みのように巻き、ルアーにする事にした。


 そしてそのまま待つ事十分。

 クイックイッと竿が引っ張られた。


「よし来た!!」

 竿を思いっきり引っ張る。


 リールなんてものは無いので自ら動いて魚を陸に寄せる。


 そして、釣れた。


 ウォーラフィッシュの見た目はサーモンに近いのだが、鱗が虹色に光っている。


 日光の反射のせいかは分からないが物凄く綺麗だ。


 申し訳ないと思いながら鱗を剥ぎ取り、締めた。

 そしてそこら辺にあった木の枝を川の水で洗い、魚の鰓の部分に差し込み地面に突き刺し、枯れた小枝を集めた。


 さて問題はこっからだ。

 火をどうやって火を付けよう。


 今の所この世には魔法が無いのだ。ファイヤーなどと叫んでも手から火の玉がビュンと出るなんて事はない。


 日光を活用するにしても鏡が無い。

 ……鱗でなんとかならないか?

 少しお遊び感覚でやってみた。


 するとなんと煙が出てくるでは無いか!!

「うおおぉぉ!!」

 正直これにはビックリだ。


 鱗で火を付けられるのは便利だ。

 念の為もう少し持っておこうと思い鱗を二、三枚ウォーラフィッシュから剥ぎ取った。


 そして焼けたウォーラフィッシュを一口食う食う。

 ……物凄く美味い。臭みが殆ど無い。

 最近酷い目にしか会ってない為、普通に感動している。

 コッコにも肉をあげながらウォーラフィッシュをバクバクと食った。


 そして骨だけになったウォーラフィッシュを見ながら腹をさする。


「美味かった……」


 ただそれだけに尽きる。

 「うしコッコ!! 鱗回収できたし次の所行こうぜ!!」

『アア行コウ!!』

 その様な会話をしてコッコの言う所へ向かった。


「なあコッコ」

『ン?ナンダ?」

「本当にここら辺にスルガメルサ草があるのか?」

『確カアルハズダ。マアココヲ通ッタノハ随分と前ダカラナ……記憶違イダッタラ申シ訳ナイ』


 ここに来てから約30分程探し続けているが無い。

 だがここでコッコに怒るなんて事はできない。

 

 何せ彼にはかなりの恩がある。

 恩に仇で返すなんて最低な事はしない。


「別に大丈夫だ、記憶違いだったんなら別の生えたそうな所を探せば良い」

 

 そう言って辺りを見回す。

 ここは先ほどのツインデ森林の奥の方だ。

 コッコ曰くここらへんにあるらしい。


 見た目は四葉のクローバーのでっかい版のような感じらしい。


 今そこら辺に生えているのは、四葉ではなく三つ葉なのである。


 なんだろう、普通に四葉のクローバー探しみたいになっている。


「あったかぁー?」

『イヤ、無イナ』

 この様なやり取りが何回も続いた。

 

 探し始めて約二時間後


「あっ、あった!! これか!?」

 目の前には確かに四葉のクローバーのような草が生えていた。


『アア!! コレダコレ!!』

 コッコもこれだと言ったと言う事は……これがスルガメルサ草か。


 二時間探し続けたからかこの草がとてつもなく珍しい物に思える。

 まあ珍しいっちゃ珍しいんだろうが。


「んじゃあすこし休んで次に行こうぜ」

『ソウシヨウ』

 そう言ってお互い近くの岩に腰をかけるのだった。



 30分程して探索を再開した。


 順番的に次はシェールヴァーファの角だろう。

「コッコ、シェールヴァーファって?」

『牛ミタイナ魔物サ、荒ッポイ性格ダカラ用心スルンダ』


 ここに来て二度目の魔物との戦闘になりそうだ。「ちょっとだけ楽しみかも」

 そう言いながらコッコの案内通りに進んだ。


 獣道を進んだ奥の方に、そいつはいた。

 そう、シェールヴァーファだ。

 

 確かに見た目は牛だが、色が違う。

 明るめのオレンジ色と紺色という何故そうなったのか分からない色だ。


 そしてシェールヴァーファの頭部には……結構デカ目の角があった。


「……あれ取るのか?」

『ソウダナ』


 まあまあ太いので頭から切り離すのには苦労しそうだ。


 そう思いながらこっそりと近づく。

 コッコもこっそりと近づいているようだ。

 

 だがシェールヴァーファは即こちら側に振り返ると猛突進してきた。


 それを寸前の所で避ける。

 どういう事だ!? 何故バレた!? 極力音は出さなかった筈だ。

 それなのにバレてしまった。


 いったい何故だ? シェールヴァーファの突進を避けながら考える。


 耳が大きい訳ではないので後で気付いたわけではなさそうだ。

 臭いか? まあ確かに血の匂いがするから気付かれた可能性も否めない。


 ……もしかして角か? 

  あの角が周囲の状況を把握するための器官だったとしたら……少しやばいな。


 周囲の状況が上がるという事は、360°目が付いているのと同じだ。


 つまりどれだけ静かに言っても戦う羽目になるのだ。


 正直言おう、面倒臭い。


 だがこいつを倒さないと冒険者にはなれないのだ。

 そして俺には金が無い。

 つまりここでこいつを倒さないと異世界でずっと無一文のままだ。


 どうにかして倒す方法を考えなければ。

 とはいえ俺はこいつの事を殆ど知らないのだ。

  皮膚が硬いのか柔らかいのか、その角は本当に周囲の状況が分かる器官なのか、などなどである。


 取り敢えず先ほど魚に刺していた木の棒をシェールヴァーファに刺してみる。


 すると枝がポッキリと折れてしまった。

 まあ察してはいた。

 こういう系の魔物の皮膚は大体硬いと相場が決まっているのだ。


 さてどうやって倒そうか?

 剣なんて物は無い。

 取り敢えず逃げる。


 逃げて罠を設置して誘き寄せればなんとかなるんじゃないかと思ったのだ。

 

 だがそんな事をシェールヴァーファが許してくれる筈もなく……


 まあまあな速度で追っかけて来ていた。


(くそ……二時間半くらい前に四葉のクローバー探しをしたし王宮で命懸けの鬼ごっこまでしたから疲れてるってのに……まだ疲れなきゃいけないのか?)


 と思いながら全力で走る。

 一応スタミナはあるほうなのでまだ走れない事はない。


 だがやはり塵も積もれば山となるということわざがあるように段々と疲労も蓄積されているのだろう。


 王宮よりも疲れを感じるのが早くなっている。

「コッコ!! 足止め頼む!!」

 そう言ってスピードを上げる。


『分カッタ!!』

 その声が聞こえた後、すぐにコッコは羽根を飛ばし始めた。


 するとコッコの羽根がシェールヴァーファに刺さりまくる。


 ……コッコの羽根を使えばよくね?


 そう思った俺はすぐにシェールヴァーファに向かって走り、突進を避ける。


 その避けた時にコッコの羽根の羽軸うじくを摘み、引き抜き、短剣のように構える。


 リーチはとんでもなく短いが、今シェールヴァーファを斬ることのできる唯一の道具でもある。


 シェールヴァーファが突進してくる。

「うおおぉぉぉ!!」

 そう叫びながら俺も突進する。


 そして避けると共に角に羽根を当ててみる。

 すると少しだけ切れ込みが入った。


「うし!!」

 コッコの羽根は相当硬いようだ。

 

 その後はまるで闘牛と闘牛士のバトルだった。


 自分の着ていた制服のジャケットをとり、ヒラヒラとさせ、本当の闘牛のようにする。


 勿論だがそこにシェールヴァーファは突っ込んでくる。


 そして避ける。

 その際にシェールヴァーファに傷を負わせるのも忘れない。


 それをやり続けてやく30分。


 クタクタだ。もうジャケットを持つ力も無くなり今はそこら辺の木の枝に掛けてある。


 シェールヴァーファも傷だらけだ。

 だが突っ込んでくる。


 しかし最初の勢いに比べるとかなり遅い。

 だがそれはこちらも同じ。

 遅いながらも避ける。

 そして切り込みを入れる。

 

 遂にその時が来た。


 シェールヴァーファがその場に倒れたのだ。

「はぁ、っ、はぁ、っ、はぁ、やったぞ……」


 因みに俺がシェールヴァーファと戦ってるその間コッコは少し楽しみながら観戦していた。

 俺がそうしてくれと言ったからそうしたのだ。


 何故そのような事をしたのかというと俺はこいつをコッコの羽根以外の手助け無しで倒さないと異世界で旅なんてできないと思ったのだ。


 だから羽根を飛ばさないでくれと頼んだ。

「やったぞぉ……コッコ……」

 そう言いながら倒れる。

 

 辺りは少し血の匂いがしていて臭かったが、そんなのどうでも良くなるくらいの高揚感があった。


 コッコが近づいて来て、翼で俺の背中をさすりながら

『ガンバッタナ』

 ただ一言そう言った。

 そのまま俺は気絶した。


「はっ!?」

 ガバッと飛び起きる。

 辺りは暗かった。


「コッコ!? コッコ!?」

 そう叫び辺りを見回すが暗くて見えない。


『イルカラ大丈夫ダ』

 と横からコッコの声が聞こえた。


「ふぅ〜、良かった……」

 だがここで気づく。

「なあ、俺らもしかして結構やばい?」

『アア、結構ヤバイ」


 そう、夜の森ほど危険な場所はあまりない。

 元の世界では狼なんかに襲われるというのが多いがこっちは異世界だ。何があるか分かったもんじゃない。

 

 しかもここで下手に動くと余計に迷うので動けない。


 取り敢えず火が欲しいが、マッチやライターは無い。

 鱗も日光がないので使えない。


 つまり、灯り一切無しで夜の森を一晩過ごさなくてはならないのだ。


「コッコ……こっちの世界は夜の森危険じゃないよな?」

 夜の森が危険じゃないのであれば安心できる。


『イヤ、コッチノ世界デモ危険ダヨ』

 終わった、人生詰んだ。

 暗闇から魔物に襲われて死ぬ未来しか見えない。 


 どうにかして夜を越さなければ。

 でもどうすれば……


 この時、思いついた。

「コッコ!!」

『ウォッ!? ナンダ!?』

 

 叫んでしまったので驚かせてしまったようだ。

「あのさ、俺らを中心にして円形に羽根を飛ばせないか?」


 この方法ならばたぶん夜は越せる。

『? 別ニイイガナンデソンナコトヲ?」

「近寄って来れなくするんだ。お前が撃った羽根の羽弁《うべん》を上にすれば……な?」


 この方法ならば行けるのではないか?

「分カッタ、ヤルゾ』


 そう言って羽が地面に突き刺さる音が聞こえた。

 今思えば羽根を飛ばすというのはかなり変わった攻撃方法なのかもしれない。


 なぜそう思ったかと言うと、羽は暖を取るためにも使うものなのに、その暖を取る為の道具を飛ばしているのだ。

 仮に羽根で敵を倒しても、その後寒さで死ぬ可能性もある。


 結構ハイリスクハイリターンな技なのかもしれない。

 そう思っていると


『終ワッタゾ』

 コッコがそう言いながら俺の隣に座る。

「うし、頑張るか」

 そう言って突き刺さってる羽根を感覚で見つけて、ひっくり返すのを繰り返す。


 これをしないと、切れないところが上に出ていることになるのでひっくり返す必要があるのだ。


 そして何度か手を切りそうになりながらやり続けること一時間。


 月明かりがあるにはあるが無いに等しい中やり続けた。

「だぁー、終わったぁー」


 そう言ってコッコの隣に座る。

『オ疲レ様』

「お前もありがとうな、羽根飛ばしてくれて」


 その後、コッコに元いた世界のことを話した。

 コッコはその話に興味津々だった。


『ホウ!! 空ヲ飛ブ物ガアッタナンテ!! 俺モ飛ンデミタイゼ!!』

 どうやらコッコは見た目通り飛べないらしい。


 話をすること数時間、近くで足音が聞こえた。

「……来たか?」

『……来タンジャナイカ?」

 

 お互い周囲を警戒する。

 俺は片手にコッコの羽根を持つ。


 襲われたらこれで相手を斬るのだ。

 だが周りが何も見えないので何が来るのか分からない。

 

 オオカミが来るのかはたまたクマでも来るのか。もしかしたらシェールヴァーファかもしれない。


 恐怖で手が震える。

 その様な状態が続いて数分経った。


「……これ来てるか?」

『……来テナイカモナ』


 勘違いだと嬉しいのだが、やはり周りが見えなくて分からないので警戒し続ける。


 しかしその瞬間、背後から頭部に衝撃を受けた。

「ガッ!?」

 そしてそのまま暗闇の中で気絶してしまった。



「ん、ん〜」

 伸びをする。

 暇だ、猛烈に暇だ。


 俺は絶賛今、超要注意人物用の監獄の中に投獄中である。


 まずあの後何があったのか説明しよう。

 あの後、不思議な部屋で目覚めた。


 どの様な部屋かというと部屋一面が緑色なのだ。

「趣味の悪い部屋だ」

 そう呟くと

「まあそういう部屋だから、仕方ないわ」

 という声が聞こえて来た。


「!? 誰だ!!」

 声が聞こえた方向に目を向ける。

 そこには


 エルフっぽい人がいた。


 全身をこれまた緑色の服装で包み、弓矢を背負っていいて、耳が長い……まんまエルフである。


「私の名前は、フェルェルッサ・ヴァート・ルースヴェルサよ、よろしく」

「フェ、フェレルサ……ヴァートさん、どうも」


 彼女は一体何なのだろうか? 俺を気絶させた人、もしくは組織の一人なのは間違いないだろうが、何故こんなことをしたのか分からない。


「君は何であんな所にいたんだい?」

 とフェルェルッサがそう言う。


「あそこへはシェールヴァーファを狩りに行っていた」

 そう言うと彼女の顔は険しくなる。

「まさか……シェールヴァーファを殺したの!?」

「ああ」


 正直に答える。だがそれは恐らく間違いだった。

「皆!! コイツを引っ捕らえて!!」


 そう彼女が叫んだ瞬間、大勢の男達が部屋に入ってくる。

 

 俺は瞬時に壁を蹴り、端の方にいた男の顔面へドロップキックした。


「ガハッ!!」

 と男は倒れる。


 倒れた男の持っている弓矢を素早く取り弓矢を引いたままキープする。


「下がれ!! お前らは一体なんだ!!」

 その質問には彼女が答えた。


「私達は、エルフのシェールヴァーファ保護団体よ」


 シェールヴァーファ保護団体? なんだそれ?

 ていうかシェールヴァーファって保護されてる魔物なの!?

 

「ほぉ、で? その保護団体が何で俺らを拉致ったんだよ?」

 そう、俺がシェールヴァーファを殺したと知ったのはついさっきの筈、なのに何でコイツは俺を拉致ったのか気になる。

 

「それは貴方達が私達の敷地内に入ったからです」


 敷地……なるほど、不法侵入的なのをしてしまっていたのか。


「だからって気絶させて拉致る必要あったか?」

「そっ、それは、まあ……やりすぎたと思いますが、貴方がシェールヴァーファを倒したというのを聞いてしまったので貴方を投獄します!!」


 ……えぇ、めんど。逃げよ


 なので矢を一人の男の足なピュッと放つ。

「あ゛ぁぁ!!」

 男はその場に倒れる。


「つっ、捕まえて!!」

  とフェルェルッサが言うと同時に男達がこちらに向けて弓矢を構える。


「おいおい、生け取りする気0だろ?」

 そう言って姿勢を低くし、ジグザグに走る。


 そして時々フェイントも入れながら近くまで寄る。


「なっ、なんだこいつ!?」

 一人の男がそう叫んだ後、矢を放つ。


 それを紙一重で躱わし、撃ってきたやつの顔面にグーパンする。

 その際、顎にパンチをするようにした為、男はそのままのびてしまった。


 そしてそのまま流れるように他の奴にも同じ事をする。


 因みにしっかりと他の男達の射線を切るようにパンチしている。


 それをやり続けて男は全員のびてしまった。

 最後の一人はやめてくれと叫んでいたが普通にやった。


「……あんた何者?」

 フェルェルッサがそう問いかけた。


「彼らは下っ端といえど兵士ではあるの、それをたった一人で倒すなんて……本当に何者なのよ?」

 その問いに俺はこう答える。


「別に? ただ、この世界になぜかよく分からないけど召喚されちった一般人だよ」


 まあ本当に一般人かと聞かれると違うとしか言いようがないのだが。


「……召喚? 貴方まさか勇者!?」

 ここでも勇者という単語を聞くことになるとは……。


「うーん、お前ら的に言うとそうなのか?」

 そう言うとフェルェルッサはすぐに部屋から出た。

 そして部屋の施錠音がした。

 

 今気づいたのだがどうやらこの鍵は内側から開けるにも鍵が必要なやつのようだ。

 つまり俺は出ることが出来なくなってしまった。


「あぁーくそ、面倒くせぇー、明日までに素材集めねぇといけねぇってのに」


 そう言って床にドスンと座る。

 そういえばシェールヴァーファの角を取れてなかったなどと思いながら倒した男達から装備なんかを剥ぎ取る。


 そしてその剥ぎ取った因みに、剥ぎ取られてパンツ一丁になってしまった奴には周りの人をその人に被せて見えないようにした。服を着て同じく倒れておく。

 ここから出るにはこうするのが一番だろう。


 数十分後、ドアがガチャリと開き、ドタドタと大量の武装した人が入り込んできた。


 だが勿論視界の先には誰もいない。

 皆キョロキョロとしている。


 ここで少しだけ顔を上げてフェルェルッサを見る。

 彼女の手には鍵が握られていた。


 それを見た俺はすぐさま立ち上がり、対応できていない彼女の手から鍵を奪い、そのままドアを出て鍵を閉めた。


「ふぅー、危ねぇ危ねぇ、ヤバいところだったぁー。よし、コッコ探すか」


 そう言って進もうとすると死角からゾロゾロと人が出て来た。

 そして彼らの手には……

「……またかよ」

 

 銃があった。


「大人しく両手を上げて武器を捨てろ!!」

 と言われても武器なんて持ってない。


「武器持ってないんだけどー?」

 と言うと

「その背中に背負っている弓矢を落とせ!!」

 と言われた。


 銃で撃たれるのはたまったもんじゃないので言う通りにする。

「後その手に持ってるのも捨てろ!!」

 と言われたので落とす。


「手を頭に付けながらこっちに来い!!」

 という事で手を頭に付けて前に歩く。


 そしてそのまま押し倒されて手を縄で縛られて確保された。


(はぁ、また面倒臭い事になった……)

 と思いながらエルフ達に目隠しをされて、歩かされるのだった。



「ここで大人しくしていろ!!」

 そう言われて牢屋に投げられる。

「痛って!!」


 地面に顔がぶつかった。

 まあまあ痛い。


 そして牢屋の鍵が閉められる音が聞こえた。

 俺はそのまま寝っ転がりながら、眠った。


 そして今に至る。

 そう、結構色々なことをやったのだ。

 まあ今はここからどうにか出て、コッコと合流し、さっさとギルドに残りの素材を出さないといけない。


 ……いくらなんでも多忙すぎないか?


 まあ取り敢えずここから出る方法を見つけなければ。


 そう思った時隣の房から声が聞こえた。

「おい、お前一体何やらかしたんだ? ここは超要注意犯罪者達しか来れねぇ所だ、余程のことをしない限りはここには連れてこられない。で? お前何やらかしたんだ?」


「ただ、なんか森でシェールヴァーファを倒してそのままそこで一夜過ごそうとしたら連れてこられたんだ」


 そう言うと隣の監獄から驚きの声があった。

「お前、シェールヴァーファを倒したのか!?」

「んっ? ああ」

「ハハッ、お前やばいな、シェールヴァーファは相当強い魔物だぜ? 皮膚がアホみたいに硬いから銃弾すらも弾くんだろ? お前一体どうやって倒したんだ?」


 俺は彼にコッコの羽根を使って倒したということを話した。

「ハハッ、おいおいマジかよ、そんな倒し方があったのか……なあ、お前にいい話があるんだが聞くか?」


 いい話……か。

 なんだろう、嫌な予感しかしない。

 でもまあ一応聞いておこう。


「なんだ?」

「へへっ、俺さ、脱獄を考えてるんだ? お前も一緒に協力してくれねぇか?」


 どうやら嫌な予感は的中したようだ。


 脱獄なんてものは、普通に考えてできないのだ。

 しかもそれは一般房での考えだ。


 彼曰くここは超要注意犯罪者用の房なのだ。

 不可能と言っても過言では無いのだ。


「あー、お前、脱獄できないって思ったな? 思ったろ、実は出来るんだよ、まじで」


 仮に脱獄出来るのだとしたら悪くはないが一つ聞いておきたいことがある。


「一つ質問させてくれ、何で俺をそこまでして脱獄計画に参加させたいんだ?」


 そう、それが疑問だ。人では多い方がいいとか言ったら参加はしない。そういうことを言う奴は大抵人を見捨てたりするからだ。


「ん? そんなの決まってるじゃないか、お前はあのシェールヴァーファを倒せる程の実力があるんだ。そんな逸材を放っておく訳ないだろ?」


 成程、そういう感じか。……まあずっとこの中にいるよりはやってもいいかもしれない。


「分かった、その脱獄計画、乗るよ」

「やりぃ、じゃあ自己紹介するよ。俺の名前はウェル・ショールって言うんだ、よろしく頼むぜ」

「おれは矢凪 純時だ。よろしく」

「ああ、よろしく。じゃあ計画の内容を話すぜ」

 

 こうして、二人の脱獄計画が始まったのであった。







 


 

 

 

 


 

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異世界に魔法が無かったので魔法を創り出そうと思います 鬼来 菊 @kikkukiku

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