異世界に魔法が無かったので魔法を創り出そうと思います

鬼来 菊

第一章 出会い

ちょっと変わった異世界転移とかなり変わった転移先

「何故だ……」

 俺は今、異世界にいる。そう、にいるのだ。なのに何故だ

「何故……魔法が無いんだ……」

 


 事は遡ること三十分前、学校に着いて席に座った時に起きた。


 なんと座った瞬間に床がドロっとし始めたのだ。


 それに気づいた生徒はクラスからすぐに立ち去ろうとしたのだがいかんせん粘り気が多く、足を取られて出られなかった。

 そして底なし沼のように引き摺り込まれていく。


 このまま下のクラスに出るのか? 

 とも思ったが体の下半身が埋まっても浮遊感を感じない為、別空間に繋がっているのだろうと判断した。


 幸いなことに引き込まれる速度は遅かった為、ここからどうにかして出れないかというのを皆で話し合った。


 流砂から出る方法を知ってるやつはやろうとしたがむしろそれが仇となり先に沈んだ。


 クラスがそれで一気にパニックになった。

 そんな中、今度はと言ったこのクラスで一番力のある竜次 良介が


「ふんぬ!!」


 と言って体をみじろぎさせた。

 結果はわかってると思うが、沈んだ。

 そしてまたクラスがパニックになった。そして皆這い出ようと来て沈んだ。

「嫌だ、嫌だ死にたくない!!」

 と、俺も叫びながら体を動かす。だがその時、違和感を感じた。


(あれ? これ何かに引っ張られてね?)


 弱々しい力ではあるが、何かに引っ張られている。動くと力を強くする感じのようだ。


「え? なになに怖い怖い」

 そう言ってすっかりパニックになってた俺はまた体を動かす。そして引っ張る力も強くなる。

 そしてそのまま引き摺り込まれた。



 引き摺り込まれた先はとある王宮の広間のような場所だった。

 周りの人は皆俺らを見てポカーンとした顔をしている。


 いやまあ当然だろう。

 何せ急に地面からモコモコと出てきたのだ。こういう反応にもなる。


「まっ、まさか貴方達は……」

 そう言ってそこら辺にいた一人が走って玉座に座っている王様らしき人に耳打ちする。


「なっ、なんと……」

と、王様は言って

「皆の者!! 喜べ!! 我らの元に勇者様達が召喚された!!」と言った。

 その瞬間周りがザワッとなる。


 え? 勇者? どゆこと? まっ、まさかこれは異世界に召喚されたというやつでは!?

 他の奴も同じことを思ったらしい。


「異世界召喚キター!!」

 というふうに叫んでる奴もいたし


「やっべぇ、来た来た」

 と小声で言う奴もいた。


 大抵の人が夢見る異世界転移!! まじか!! 最高じゃん!! 魔法とか使ってモンスター倒したりできるんだろ!? もう本当に最高じゃん。


「では皆様、只今お部屋にご案内いたします」

 と、先程王様に耳打ちをした側近のような人が言う。


「すみませーん、ちょっと待ってください。俺らのステータスとかを見るにはどうしたらいいんですか?」


 そう質問したのは陽キャで俺の数少ない友人のの加藤 順次だ。

「ステータスを見る方法……? すみません、よく分かりません」


 え? ステータスを見る方法が分からない? というかそんなS◯riみたいな反応をしないでくれ!! 


 俺と同じく周りも困惑し始める。何せ普通はステータスとかを見て誰が強いとかそんな会話が始まるとか思っていたからだ。当然俺も例外では無かった。


「は? まさか……無いのか?」

 俺がそう言った事で皆が一つの最悪の事を思い浮かべる。


 そして俺は恐る恐る聞いた。

 その、質問を。


「この世界に……ってありますか?」


 未だかつて異世界に言ってこの質問をした人がいただろうか? 否、いないであろう。そんな質問だが、俺らにとっては非常に聞いておきたい質問だった。

 そしてその答えはクラスの皆を凍り付かせた。


「魔法? 空想上のものでは?」


 空想上の……もの……? 理解が追いつかなかった。

 異世界と言ったらファンタジー、ファンタジーといったら魔法と決まっているものだ。


 なのに魔法が無いなんて……。

 それを知った皆も倒れ込んだりして

「何故だぁー!!」

 などと叫んだりしている。


 俺も例外では無く、同じく倒れ込み

「何故……魔法が無いんだ……」

 そう言って俺は高級そうなカーペットをドンドンと拳で叩くのだった。



 案内された部屋は一人で使うには勿体無いほど広く、本当にここを一人で使っていいのだろうか。と思ったが贅沢ができるのだ、だったらやるしかない。

 そんなことよりも異世界に魔法が無かったというダメージがかなり痛い。


 皆異世界に召喚されたらあんな魔法やこんな魔法を使いたいと話していたのを思い出す。  

 あいつらかなりショックを受けてたからな……まあ俺も同じくショックを受けている。


「魔法……無いのかぁー」

 と項垂うなだれながらベットにバタンと倒れ込む。

 やはり異世界に突然召喚されて疲れてたのだろう。俺はそのまま眠ってしまった。



 翌日、目が覚めると何やら騒がしかった。

 急いで廊下に出てみると王宮のメイドさんや偉そうな人たちが同じ方向に向かって走っている。


「何かあったんですか!?」

 そうメイドさんに聞いた。

「王宮のお庭にムムガルドの群れが!!」


 ……ムムガルド? 何それ美味しいの? 


「なんですそれ?」

 と聞くと

「あぁ、ごめんなさい。そろそろ行かないと!! 間に合わない!!」

 そういって人の波に紛れてしまった。

「えぇ……」


 置いて行かれた俺はしばらく呆然とした後

「とりあえず行ってみるか」

 と言って、人の波に向かって歩くのだった。


 王宮の庭について俺は困惑した。

 何せそこにいたのは……


「に……鶏?」

 他のクラスメイトもいたのだが、皆困惑している。

 まあそうなるのも仕方ない。だって目の前には鶏に群がる人々の波があったのだ。


 鶏を一匹抱えたら急いでこちら側に迫り来る人々を掻き分け城の廊下に向かって走っていく。

 本当に波のようだ。


「俺も取るか」

 見たところ他の奴も取りに行ってるようだ。

 異世界に言ったら地球の食べ物があまり食べれないと聞くが今、目の前に、地球の食べ物の鶏がいるのだ。


 だったら取るしかない。

 そう思い俺も鶏を取りに行った。


 数十秒後


「よし!! 取れた!!」

 そう言って今王宮の廊下を猛ダッシュする。

 そして両手の中では鶏が羽をばたつかせて暴れている。

「コケッ、コケェー!!」

 鶏の声は聞いた事があったが、近くで聞くとここまで大きいのかと驚きながら走る。

 どこへ行くのか? それは、まあ、言わずもがな……王宮の台所へ……。


 そして王宮の台所に着くとそこは阿鼻叫喚の地獄絵図が広がっていた。


「コッ、コケェー!! コッ……」

「コケコケ、コケェー!!」

「コッコッコッコッ……コッ……」


 かなりの量の鶏が、調理されている。

 いつのまにか両手で抱えていた鶏も静かになっていた。

 そしてどんどん鶏達が見るも無惨な姿になっていく。


 うん、この子を食べるのはやめよう。こんな姿にはしたくない。

 鶏も震え出したので自室に鶏を持ち帰る。


 自室に戻ると

 「コッ、コケ」

 と鶏はそう言って近くにあった机の上に乗る。

「悪かったな、あんなもん見せちまって」


 すると鶏が頭を横に振った。

「おいおい、まさか言葉でも分かるのか?」

 勿論冗談で言ったつもりだ。だが鶏の反応は予想と違うものになった。


 なんと鶏はコクコクと頷いたのだ。


「……えぇ!?」

 まさかこいつ、本当に言葉が分かるっ!? 

 たまたまかもしれないが試しになんか喋ってみて欲しいと頼む。

 すると少しの間コケコケと言った後どんどん人の声に似てくる。


「うおぉ……」

 そうだ、ここは異世界だ。魔法が無くても魔物はいる。今目の前にいるのは魔物だし。だから言葉が話せる魔物が頭おかしくない。

 やっぱ異世界最高だわ。


 そんな事を考えていると足についてる鋭い爪で腕を突かれた。

「痛てて、突くなって、聞くから」

 そう言ってその言葉を聞く。


『タベナイデクレ』


 ……なんだろう、心が凄く痛い。

「あっ、安心しろ!! 食べないから!!」

 そう鶏に言うと鶏は安心したようにチョコンと座ってまた話し始めた。


『アリガトウ。ジャアマズハ自己紹介ヲスルトシヨウ。俺ノ名前ハ、コルスコット•ヴァードトイウンダ。ヨロシク』


 向こうが自己紹介をしたので俺も自己紹介をする。

「じゃあ俺も自己紹介をするよ、俺の名前は矢凪やなぎ 純時じゅんじって言うんだ。よろしく」


 そう言うと鶏……コルスコットは一回頭を下げ、また話し始めた。

『オ前達カラハコノ世界トハ違ウ気配ガシタガ、オ前達ハソノ原因ヲ知ッテイルノカイ?』

 俺はコルスコット……コッコに向かって恐らく異世界に召喚された事を伝える。

『成程、異世界ニ召喚サレタ、カ……ツマリオ前ラハ勇者ッテ事カイ?』


 勇者。またこの言葉が聞こえた。

 普通だったら魔王なんかを討伐するものとかのことを指すのだろうが、この世界には魔法が無い。

 なのでもしかしたらだが別の意味なのかもしれない。

 そう考え、コッコに問う。


「勇者ってのはなんなんだい?」

 コッコは少しの間考えるそぶりをした後、話し始める。

『勇者トイウノハコノ世界ニ何カシラノ変化ヲ与エル者ノ事ダ』

「変化?」

『アア、変化ダ。ソレモカナリ大キナ変化ダ』

「例えば?」


『コノ世界カラ魔法ガ消エタ、トカダナ』


 俺はすぐその言葉に質問した。

「待て!! 魔法が消えたのはその前に来た勇者がやったのか!?」

『ソウダ。前ニ来タ勇者ノ……エート、名前ハ確カ……ソウダ、早坂ハヤサカ 亮磨リョウマッテ奴ガヤッタ筈ダ』


 早坂 亮磨……何してんだよぉぉ!! なんで魔法消したんだよぉ!!


『ソシテソノ赤坂ハトテモ面倒ナ事ヲシテナ、コノ世カラ魔法ガ存在シタトイウ記憶ヲ全テ消シテシマッタノダ』

「はぁ!? ガチで何してんだよそいつ!!」

『ダカラ今コノ世界ニハ魔法が無インダ』


 この話を聞き終えた頃に、俺の中に一つ疑問が浮かんだ。

「待て、魔法があった記憶が消えたのならなんでお前は覚えてるんだ?」

『ソレハダナ、マズ俺ガナンナノカカラ始マル。マズハダナ、普通魔物トイウノハ話シタリデキナイモノナノサ』

「えっ!? じゃあなんでお前は話せて……」

『今ソレヲ説明スルトコロダ。俺ハ一種ノ突然変異、所謂イワユルレアモンスターッテヤツダナ。』

「レアモンスター?」

『アア、滅多ニ生マレナイ希少ナ魔物ダ』

「なるほど、それで?」

『実ハ早坂ガカケタ魔法ハ人間ニシカ効カナイ魔法ダッタンダ』

「あぁ、だからコッコは覚えてるのか」

『コッコ?』

「あーいや、すまん、なんでも無い。」

『デキレバ次カラ注意シテクレ』

「分かった」


 そのような会話をしていると

「おーい、王様が俺らを呼んでるってよ、行こーぜー」

 と、クラスメイトが言ってきたので

「ああ、分かった。って事で俺は行くから、大人しくしててくれよ?」

 とコッコに言う。

『アア、分カッタ』

 少しだけどこかに行かないか心配しながら急いで部屋を出る。



 大極殿だいごぐでんへ行くともう皆揃っていた。

「遅いぞー矢凪!! 早くこっち来い!!」

 と、加藤が言った。

「悪い、今行く」

 そう言って走って彼らの元へ向かう。


 王様を見ると少しだけマントの位置がずれていたり、シャツがシワシワだった。

 どうやら王様も鶏を取ろうとしていたらしい。

 みんなも分かっているようだったが何も言わなかった。

「よくぞ来てくれた、勇者達よ」


 この言葉で空気が変わった。

 確実に何か起きる、何かが。

「お前達に集まってもらったのは他でも無い。其方達が勇者だからである」


 辺りが少しだけザワザワとし始める。やはり皆も嫌な予感がしているのだろう。


 昔から俺はこういう嫌な予感に敏感だ。だが皆にも分かるほどとなると、今回は相当やばい空気が漂ってるということになる。

 周りにいる兵士たちからもする。これが殺気ってやつか?


 そう思いながらバレないように身構える。

「これから其方達には……」

 さあ、何が来る?


「死んでもらうとしよう」


 その言葉が王から出ると、兵士達が何かを構える。

「なっ、まさか!?」


 兵士たちの手元には……銃があった。


 確かにおかしくはない。何せ前にも俺らの世界から来た人はいたのだ。その中の誰かが銃を作ったのだろう。


「くそ!!」

 そう言って急いで伏せる。

「放て!!」


 その言葉が王宮内に響いた瞬間、銃声が王宮内に響いた。

「きゃー!!」

「うわぁー!!」


 俺の横にいたやつが死んだ。

 他の奴も撃たれて死んでいく。

 くそ、銃がある可能性を完全に忘れていた。

 身を伏せてどうするか考える。だがその時



『コッケコッコー!!』



 という鳴き声がしたかと思うと一人の兵士が「うっ」と言って倒れた。

 一体何が起きた?

鳴き声の下方向を見ると、そこには

『コゥコッコッコッ、コケェー!!』


 コッコがいた。


「コッコ!!」

 そう叫ぶと銃口が俺に向けられる。

 悪いと思ったがクラスメイトの死体を盾にする。

 普通の人だったら恐怖や吐き気でやばいのだろうが、結構昔にやったゾンビゲームがリアルすぎてこういうのでは何故か大丈夫らしい。


 まあドロっとした血が手に付着しているのは流石に吐き気がしてるが。


 クラスメイトを盾にしている間、コッコを見てみた。

 コッコは高速移動で部屋を走り回り、どうやら羽根を飛ばしているらしい。


 弾丸のような速度で飛ばされた羽根は兵士達の鎧の隙間を通り、首や股の内側を切り裂く。


 どれも斬られたらマズイ部位だ。斬られた奴は皆倒れた。

 その調子でどんどんコッコが倒して行く。


「あいつを怒らせたらダメだな……」

 と呟く。そしていつのまにか兵士全員がコッコを狙っていた。


(ナイスだコッコ!!)


 と心の中で叫びながら走る。

 瞬時に銃口が俺に向けられたがコッコがそれを許さない。コッコを狙わなかった奴から羽根で斬られて死んだ。


 そしてコッコがこちらに走ってくるのと同時にまだ生きてた奴もこちらに向かって走り出す。


「殺せ!! 何としても殺せ!! これ以上世界を変化させてはならぬ!!」

 などという言葉が聞こえたがそれどころじゃ無い俺らはひたすら走った。



走り続けているが一向に出られる気配がしない。

 まず窓から出るのは不可能だ。何せここは高さがかなりある。落ちたら死ぬ。

 そしてもう一つは階段が無いのだ。そう、俺らはあの王様がいた階層から未だに抜け出せていないのだ。


「不味いな……完全に迷った」

「えぇ!? まじかよ!!」

 後ろにいた生き残った生徒が叫ぶ。

「うぐっ、えぐっ、もう、もうがえりだい!! 元いた世界に帰りたい!!」


 と泣き叫びながら走っている奴もいる。

「足を止めるなよ、今止まったらきっと休んじまう。休んでたら居場所がずっと同じって事だから見つかる可能性が高くなる。見つかったら銃を撃たれて死んじまうぞ」


 そう言ってひたすらに走る。

 個人的には俺らの速さについて来れるコッコに驚いてる。

「お前けっこう足速いんだな」

『当タリ前ダ。俺ハレアモンスターダカラナ、普通ノ鳥ヤ魔物トハ違ウ』

「「しゃっ、喋ったぁー!!」」


 あぁ、そういやこいつらはコッコが喋るのを知らなかったんだった。


 何故喋るのかを説明しようとしたその時

「いたぞ!! こっちだ!!」

 と背後から声が聞こえた。

 だが一つおかしい事がある。それは


(何故だ!? ここにくるまでだった筈だぞ!? あいつらは一体どこから出てきた!?)


 道があったのなら俺が見逃していない。仮に見逃していてもコッコが教えてくれる筈だ。

 一体彼らはどこから来た? 待て、確かあいつらは増援を呼んでいた。ということはどこから来るのか見れるチャンスかもしれない。

 と考え、後ろを振り返る。


 すると、何も無いところからパッと現れる感じで兵士達が現れた。

「はっ!?」

 どういう事だ? この世界に魔法は無いんだろ!? あれじゃあまるで転移魔法みたいじゃないか!!


 コッコが羽根を飛ばして兵士達をばっさばっさと倒して行く。 

 因みに今俺の肩に乗っているのだが、さっきから羽根が当たりそうで怖い。


 そしてひたすら走るがやはり分かれ道はない。

 待てよ? 俺が大極殿に行くのに階段を登った記憶がある。そしてこんなに遠かった記憶は無い。

 先程の兵士が虚無から出てくるのにも何か仕掛けがあるのかもしれない。


 ということで、まずは走る。

 銃弾が飛んできてはいるのだが、コッコの超人……いや、超鳥技で飛んで来た弾丸を全て羽根で切り裂いている。

 なので当たる心配は今のところはないだろう……多分。


 まずは周りを見てみる。こういう系だとなんかループしているというのがありそうだからだ。


 だが、分からない。理由は単純、殺風景にも程があるからだ。しかも現在進行形で走っている為、単純に細かいところが見れない。見れて定期的に窓があってそこに何かの花を生けてある花瓶が置いてある事が分かるくらいだ。


「くっそ!! 仕掛けはなんなんだ!!」

 当たり前だが、スイッチなどは見当たらない。

 なので自室から大極殿までの道のりを思い出す。


 まずは部屋を出て左に曲がり、30m程進んだ後、階段を登り、また左に行った所が王様がいた所だったはずだ。

 そしてたしか最初に召喚された場所が一階で、案内されたところが三階の筈……つまり今四階か。


 分かったところで仕方ない事だが、何故だか少し嬉しかった。

 さて、王宮の四階から飛び降りればまあ先程思った通り死ぬだろう。

 やはり仕掛けを解かないと行けなさそうだ。


 ……待てよ、王宮の横道もない廊下がこんなに長いわけがない。普通これだけ長かったら横道の一つや二つはある筈だ。

 まあ異世界だから元いた世界と違うってのはあるかもしれないが。

 もしかしたらなんだが、この見てる光景が嘘ってことはないか? 


 いや、別になんかVRを付けてるとか言うわけじゃない。ただ単に本当は横道があるのだけれど内容に見せられているような……


 もしや鏡とかか? いやでもそれはおかしい。鏡だったら俺らをこの地面がランニングマシンのようになっている筈だ。つまりそこから移動していないということになる。だが辻褄が合わない。その場で移動しているなら周りの壁をじっくりと見ることができる筈だ。何せその場合は動いているのは足場だけなのだから。


 つまり鏡の線は低い。何か別のやつな気がする。そうも思った時コッコがこう言った。

『オ前達、何故ズット前ニシカ進マナインダ?』

 コッコ、お前何を言っているんだ? と思いながらこう言う。

「だって道は一本じゃないか!!」

 するとコッコからこう言われた。


『何ヲ言ッテイルンダ? 別ノ所ニ続ク道ハ沢山アッタロウ?」


 その言葉を聞いてピンときた。

「なあ、もしかしてたが、俺らもしかして魔物とかになんかされてるのか?」

『恐ラクソウジャナイカ?』

 つまり俺らはこの魔物の謎の力の打開策を見つけないといけないという訳だ。


 かれこれ結構走り続けてる。皆の体力がやばそうだ。

 さて、一体どうしたらいいだろうか。

 ……そうだ簡単じゃないか、コッコに横道があったら言って欲しいと頼めばいいんだ。


「コッコ!! 横道があったら教えてくれ!!」

『分カッタ、アッタラ言ウヨ』


 そう言ってコッコは羽根をより早く飛ばし始めた。 

 羽根が無くならないか心配だがそんな事を気にしてる暇はない。今はひたすら走らないといけない。


「お前ら、大丈夫か!?」

 と、後ろで走ってる奴らに聞く。

「な、なんとか」

 とその中の一人が言う。

 やはり限界は近そうだ。そう思った時


『右に曲ガレ!! 横道ダ!!』

 とコッコの声がした。

 右を見るとそこには窓と花を生けてある花瓶があった。


「なるほど!! あれが横道だったのか!! お前ら!! 右のあの窓に向かって飛べ!!」

 そう言って方向転換しその窓に向かって走る。

 一応窓に飛び込む形でジャンプする。


 するとパリィンと音がしたかと思うと窓から見えていた景色が消え、窓の先に通路があった。

「よし!! 行くぞ!!」

 と叫び、その道を走った。



 道を走り続けるとお目当てのものがあった。そう、階段だ。

「よし!! 急いで降りるぞ!!」

 と叫び階段を三段ずつ抜いて降りる。


 遠くから兵士達の足音が聞こえるが、取り敢えず一階に着いた。

 そしてそのまま王宮の出入り口の扉から出ようとする。


 しかし出ることはできなかった。

 理由は単純だ。扉の前にかなり大きめの魔物がいたのだ。


「あいつが俺らを迷わせたやつか?」

 と、コッコに聞くと

『多分ナ。ソシテコイツヲドウニカシナイトコノ王宮カラ出ラレナサソウダ』

「そうだな」


 この魔物の見た目は……なんと言ったらいいのだろうか。

 肌は黄色くゴツゴツしており、ティラノサウルスのような動体なのだが……口から出てる牙がまるで斧のように平べったい。


「ギャオオォォォォォ!!!!」

 と叫んだかと思うとこちらに向かって突進してきた。


 コッコがとんでもない速度で羽根を飛ばし、その羽根が目の前のイエローティラノの目に刺さった。


「ガァァァァ!!!!」

 とイエローティラノが叫び、自分の顔をブンブンと振り回す。

「お前ら!! 今のうちだ!!」

 と言い扉に向かって走る。

 

 だがイエローティラノはさせまいと片方の目でこちらを見て巨大な尻尾でぎ払った。


「危っぶね!!」

 と言って寸前のところで避ける。

 コッコがまだ羽根を飛ばして牽制してくれている。


 マジでコッコに感謝だ。羽がなくならない事を祈ろう。

 取り敢えず先程までいた所へ行く。

 だが後ろから嫌な声がした。


「いたぞ!! 撃てぇー!!」

 おいおい嘘だろ? 最悪のタイミングだ。


 いやまあ確かにさっき足音がしたにはしたが早すぎないか?

 だがそんな事を考えるよりも先にやる事がある。それは


「伏せろぉぉー!!」

 と叫んで伏せる事だ。

 その瞬間銃声が鳴り響く。

 急いで移動して近くにあった高級そうな壺を兵士に投げつける。


「ぐあぁ!!」

 とその兵士一瞬怯んだ隙にそいつの背後へ回り、そいつの銃を奪う。


「きっ、貴様ぁ!!」

 と兵士は言ったがガン無視だする。何せ銃を手に入れたのだ、後ちゃっかり予備のマガジンも頂いている。


 そして兵士を盾にしながら銃を撃つ。

 因みに盾にしてる兵士は仲間に撃たれてしまった兵士だ。


 このままは勿体無いので使う。

 そしてひたすら銃を撃ってる間他のやつは倒れた兵士から銃を取り、イエローティラノに向かって発砲していた。


 イエローティラノからは紫色の血がダラダラと流れ、倒れそうになっている。

 そして兵士達は銃弾に撃たれて次から次へと倒れていく。



 撃ち続ける事五分。兵士達の大体は倒れ、イエローティラノも今にも倒れそうになっている。

 このまま行けばほぼ確実に倒せるだろう。だがしかし後ろから大勢の足音が聞こえた。


「勇者共に粛清を!!」


 と聞こえた瞬間、とんでもない量の銃声がした。俺は運良く階段の下の方のちょうど死角になるところにいたのでバレなかったが他の奴は……皆撃たれた。


 どうやらあのイエローティラノはあの状態でもなんらかの方法で俺らをあの通路にいた状態にし、彼らの足音に寸前まで気付かないようにしたのだろう。


 目の前でクラスメイトが倒れていく。もしかしたら生き残りは俺だけかもしれない。


 生き残った奴の中に加藤 順次もいた。だがしかしそいつは今、口から血を流しながら倒れている。

 因みにコッコはどこかに隠れたようだ。


「生存者は?」

「恐らく、もう居ないかと」

「よし、念の為、大極殿に戻って勇者共の生死を確認するぞ」

「了解しました」


 という会話があった後、兵士達は大極殿へと向かった。

 足音がしなくなった後、俺は急いでクラスメイト達の元へ駆け寄る。


「おい、大丈夫か!? 今どうにかしてやる!!」

 そう言ってそこら辺にあった布や、カーペットを引きちぎって彼らの出血部分に巻く。

 だが俺には分かる。

 この出血量は助からない。彼らもそれは分かっているようだ。


「あぁ……くそ、死ぬのかぁー」

 など言っている。


 因みにイエローティラノは先程の銃撃で死んだ。

 仲間に殺されるのは少し可哀想だが、俺らを殺そうとしたのだ。それ以上は何も思わない。


「なあ矢凪」

 まだ生きていた加藤が言った。

「おい加藤! 喋んな!! 俺がどうにかしてやるから!」

 こういう時に言うあるあるのセリフだが、いざこの状況になった時にはこのようなことしか言えない。


「なあ、異世界に来れてさぁ、俺、嬉しかったんだよねぇ」

 そんな事を言ってる間も血は出続けている。

 数少ない友人なのだ、救ってやりたい。

 でもそれが出来ないのが分かっている今の俺の顔はきっとぐちゃぐちゃなのだろう。

 「んな顔すんなよ」

 そう言って彼は俺の頭をくしゃくしゃと撫でる。

 

 俺はこいつとは結構長い付き合いになる。

 小学校から一緒の友人なのだ。

 その小学校の時からこいつは同い年だったのに兄貴のように感じれる雰囲気を醸し出していた。


 しかも俺としたの名前は同じ読みなのだ。

 そこから友人になり中学もコイツと一緒に色々やって高校生になって今に至る。

 そんな俺ととても仲のいい奴が今目の前で死にかけている。


 それなのに俺は顔を地面にあった腕にうずめてこう言った。


「何故だ……何故……魔法が無いんだ……ここは異世界だぞ!? 回復魔法の一つや二つくらいあってくれよ!!」


 無理なのは分かってる。でも諦めたくない。そんな俺に彼はこう言った。

「時にゃー諦めも肝心。今がその状況だよ矢凪」

「は? 何言ってんだよ、諦めたらそこで試合終了って言葉もあるぞ!! それこそ今この状況だろ!!」

 そうは言ったものの諦めなかったからって何がある状況でも無いだろう。


「ハハハ、確かにそうかもな。……なあ、矢凪」

 彼は真面目な声で俺を呼んだ。

「……なんだ?」

「お前、さっきなんで魔法ねぇんだって言ったろ?」

「……ああ」

「だったらさ、一つ頼みがある」

「内容は?」

「魔法を創ってくれ」

「はぁ!? 何言ってんだお前!! 第一どうやって創るんだよ!!」

「アハハハ、まあそうなるか。でもなぁーんかお前ならできそうな気がするんだよ」

「……なんだよそれ」

「やってくれよ、魔法創造。そんで俺を生き返らせてくれ」

「……分かった。んじゃあそん時にまた」

「ああ、また遊ぼう」


 このような会話をした後、彼は眠る為に目を閉じた。


「モウ大丈夫カ?』

 どこからかコッコが出てきた。

「あぁ、コッコか。多分もう大丈夫だよ」

  そう言うとコッコは安心したような素振りを見せて

『ソノ……ソイツの願イを叶エルノカイ?』

 コッコは俺にそう問いかけた。

 だが俺の答えは決まってる。


「勿論だ、コイツの願いは叶える。絶対に」


 静かに、だがとても強く、そう言った。

『ソウカ。ナラ良イ事ヲ教エテアゲヨウ』

 とコッコは言った。


「ん? なんだ?」

『早坂ガ消シタノハ魔法ト魔法に関係スル記憶ダケダ」

「? どう言う事だ?」

『ツマリダナ、コノ空気ヲ舞ッテイル魔力ハタップリアル訳ダ』


 あっ!! 確かにそうだ。早坂が封印したのは魔法、つまり蛇口の出口を封印したようなものだ。水を封印したわけでは無いという事だ。


「つまり魔法の使い方さえ分かれば」

『マアソウイウ事ダナ』


 よし!! 魔法を生み出す方法が分かったぞ!! 

 まあ細かな手順は全く分からないが。


「ナア、オ前ノソノ旅ニ俺モ連レテイッテモラエナイカ?」

「ん? いいのか?」

『アア、オ前の旅ハナンダカ面白ソウダ」

 

 これはとてもありがたい。コッコがいればかなりの戦力になる。

「お前が良いなら来てくれ」

『アリガトウ』

「んじゃあ行くか」


 俺は少しだけ振り返りながらそう言う。

『アア、行コウ』



 王宮の扉を開ける。

 そしてとても眩しい日差しが俺とコッコの目に入ってきた。


「うおっ、眩しっ!!」

『ソウダナ、結構眩シイナ』


 だが今は日差しを見れた事が何よりも嬉しい。

「まずは何処へ行こうか」

 と言うと

『マズハ服屋ジャナイカ?』

 と言ってきたので自分の服を見ると血だらけだった。

 

 まあ当然と言えば当然だ。

「うし、じゃあまずは服屋行くか」

『ソウスルトシヨウ。道案内、シテヤルヨ』

「サンキュー」


 こうして一人と一羽による魔法を創り出すというちょっと変わった旅が始まったのであった。

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