第34話


殲滅力を得た恵奈たちの攻略速度は、劇的に上昇した。


と言うのも、自分の命を犠牲にトレイン現象を発生させられる前に、一グループ纏めて【瞬発信管式榴弾】が消滅させる為、呼ぶ隙がないのだ。


お陰様で今までの遅延状態は一体何だったのかと思うほどサクサク攻略が進む。


そうして辿り着く10階層。


石造の通路を進んだ先には、荘厳な装飾の施された巨大な両扉。


ボス部屋だ。


「最初は手間取ったけどここまで来れたね!」

「結構遅れちゃって、特別報酬を逃してないか凄く心配なんだけどっ!」


と、焦りを露わにする琴音だったが、その心配はない。


現在、世界各国は5階層より先に進む事が出来ない為、攻略が停滞している。突破口として日本は自衛隊による”切り込み隊”を結成。アメリカや中国とロシアなどは”核”の使用を真剣に検討している段階である。


その他の中小国は大国の動向を静観し、大国の結果次第でどう行動するかを決定する予定だ。


だが、この事は電気が使えず電波も流れないダンジョン内では、知ることができない情報だ。


「まぁ大丈夫なんじゃないかな?・・・私たちみたいに始めから職業を持ってたり、特別なスキルを保有してる人が居ればわからないけどね」

「そうだったらいいんだけどねぇ~」


心配する気持ちは理解できるよ、と同意を示す恵奈。


「さて。第二のボス戦だけど琴音ちゃんは準備OK?」

「うん、いつでも行けるよ!」

「それじゃあ出陣じゃぁ~!!」

「出合え出合え~!!」


わぁ~!と騒がしく扉を開く。


まず最初に目につくのは、ボス部屋の構造。


とても広いのだ。蠍の部屋と比べると10倍以上は広大な空間が広がっている。そして、その奥からこちらを睥睨するのは、凄まじい威圧感漂わせる一体のモンスター。


鋭い顎。無機質な複眼。そして巨躯。黒く巨大な体を支える太い六本足。今まで対峙してきたモンスターたちとは一線を画す巨体さで、蠍を凌駕するダンプカーサイズ。


注目すべきは、黒にオレンジのマダラ模様が目立つ、肥大化した腹部。


ぼこぉっ・・・ぼこぉっ・・・


と、腹部の最先端から排出されるは白い塊———卵。


そう。10階層を任されたモンスターは、女王アリだった。


———ギヂィィィイイイィィイイイイイイッ‼︎


女王アリが咆哮を上げる。


次の瞬間、産卵した卵が変化する。白く濁った色をしていた卵の中身が凄まじい速度で黒色に変わり、中から殻を突き破って出てきたのは兵隊アリ。


その間、僅か10秒にも及ばない。


「やっば、早く仕留めないと数で押し潰されちゃうよ⁉️」


すかさず榴弾を発砲し、卵諸共吹き飛ばす。が、如何せん数が数。既に数百匹もの兵隊アリたちが誕生しようとしている。しかし、榴弾だけでは全てを処理できない。


どうすればいいか。


「恵奈ちゃん畏怖領界を使って!」

「あ、うんわかった!」


ボス部屋全域を発動領界に指定し、琴音意外の生命体に対してのみ効果が及ぶ様に設定。


全力発動。


途端、体を蟲が這いずり、心臓を強制的に萎縮させる様な得体の知れない悍ましい気配が、ボス部屋全域を埋め尽くす。


琴音からのアドバイスは的確だった。


まだ誕生したての蟻たちと恵奈のレベルの乖離の幅はとても広い。よって、畏怖領界が及ぼす効果は絶大に高まる。これにより兵隊アリ達は例外無く状態異常”恐怖””錯乱”状態。


果たして生物が耐えられるかわからない絶対的な畏怖によって恐怖状態・錯乱状態に陥った兵隊アリは、この状況から一刻も早く逃れたと思う一心で暴れ出し、味方を攻撃し出す。耐えられなかった数十匹は自ら体を傷つけ自害していく。


地獄絵図が広がった。


———キヂィィイイイイイイイッ‼︎


女王アリの咆哮。これは先ほどの孵化とは違うスキルの様で、効果は兵隊蟻たちの統率の様だった。しかし、制御できたのはほんの一瞬だけで、直ぐに暴れ出す兵隊アリ。


恐怖の余りに女王アリを攻撃し出す者も出てくる始末。


女王アリが事態の対処に奔走する中、恵奈たちはと言うと・・・


「えっぐ・・・」

「これは大軍に有効的な攻撃だけど・・・」


自分たちの引き起こした現象に顔が引き攣るのを抑えられない。


しかし、敵が混乱している状況は、攻撃できるチャンスである。


恵奈は榴弾を再装填したDSMR-01を構える。

琴音は新たに取得した全属性魔法適性の発動状態。


「行くよ!」

「うん!」


発砲と同時に大爆発が発生し、女王アリ周辺を吹き飛ばす。


爆破に気を取られた次の瞬間。


「喰らえ、インフェルノッ‼️」


突き出した手から迸る魔力の渦。それが全てを焼き尽くす業火に変わり、ボス部屋全域を埋め尽くさんばかりに蟻たちを滅却するべく飲み込んだ。


「そして、トルネードッ!」


続いて発動されたのは風属性魔法。業火に包まれるボス部屋内で竜巻が発生し、風の渦は炎を巻き込んで火災旋風と化す。


撃ち続けられる榴弾と、偶に徹甲弾。そして全てを焼き尽く業火。


致死レベルの攻撃に晒される兵隊蟻たちは数分経たずに全滅。


そして女王アリも・・・


———ヂィィィィィ・・・


腹部が千切れ、炭化した身体は地に倒れる事となった。




『レベルアップしました』

『レベルアップしました』

・・・

『レベルアップしました』


『階層主の討伐が確認されました。スキルポイント+10の討伐報酬が付与されます』

『一定時間内の階層主及び全てのモンスターの討伐が確認されました。特別報酬が授与されます』


がこんっ


宝箱が2つ落ちた。

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