第30話


ボス部屋からの階段を下ると、恵奈たちは6階層に到達した。


「なんか、雰囲気変わったね?」


見た目はこれまで通りの洞窟タイプ。しかし、どこからともなく重々しい空気が漂っており、否応もなくこれまでよりも強いモンスターが出現すると察せられる。


ただ、階層主ほどの威圧感は感じない。


「じゃぁ何時も通り慎重に進んでくよ」

「了解です!」


【気配感知】と【罠感知】を最大限活用しつつサクサクと探索を進める一向。階層の始まりはどの階層も一本道が基本のようで、数十メートル移動して漸く分かれ道にぶつかる。


視線を琴音に向ければ右を指差す。


右好きだね。

定石だと思う。


という会話。


「あっ琴音ちゃん気をつけて。トラップ!」


この反応から推測するに、落とし穴。岩肌に擬態した感圧板のようなスイッチを押すことで動作され、自由落下した対象を串刺しにして殺傷するタイプのようだ。


「ここにあるってわかる?」

「ん〜何となく危ない何かがあるって感じかな」


琴音の【罠感知】のレベルは低い為、罠があること自体は感知できたが内容まではわからない。


万が一落ちてしまったら大変な為、注意して先に進む。


そしてとうとうモンスターと接敵した。


「あれはカタツムリと・・・マイマイカブリ?」


何時ぞやの中型犬サイズなカタツムリと、ママチャリサイズのマイマイカブリという、カタツムリを捕食する肉食昆虫の一種。


「何で捕食者と被捕食者が一緒に活動できるのかな、餌じゃないの?」

「いやここはダンジョンなんだし仲間なんじゃないかな」


なんて考察を述べていると、彼らが恵奈たちに気付いた。そして敵だと判断し、マイマイカブリが大きく前足を振りかぶった。


カタツムリに向かって。


グジュっ

キュロォオオ・・・


生々しい音が響くと同時に絶命するカタツムリ。


普段であればその後は粒子になってドロップアイテムを残すのだが、不思議な事に死体が消えることは無く、その骸にマイマイカブリが喰らい付いた。


人間たち何ぞ知ったことか。と言わんばかりな良い食いっぷり。


「え、えぇ〜?」

「私たち無視してお食事始まっちゃったんだけど・・・」


暫くして咀嚼音が止まると、マイマイカブリが咆哮を上げる。


その瞬間、なんと体に気のようなオーラを纏い始めたではないか。動きが明らかに力強いので身体強化系のスキルを使用したと思われるが、恵奈たちは冷静だった。


「いずれモンスターがスキルを使ってくるとは予想してたけど、もしかしてカタツムリを食さないと使えない系な制限スキルか何かなのかな?」

「単純に魔力が足りないんだと思う。さっきまでの倍の魔力を感じるし」


これは【魔力感知】を持つ琴音ならではの見地。


「なるほど。じゃぁやっぱりカタツムリは食料だったと」

「哀れだね・・・」

「ね〜」


まさかカタツムリにそんな感情を抱くとは思わなかった。


ガンッ

シャッ⁉️


急発進したマイマイカブリは、結界に突撃し勢いを失う。


「そして強化されても聖結界は突破できない、と」

「捕食行動には驚いたけどそれだけだったね」


もっとこう、一瞬だけステータスを大幅に超過した攻撃力を繰り出す。のようなスキルかもしれないと警戒していた恵奈たちだったが、拍子抜けだった。


もちろん、乗用車並みの速度で突撃してきたので、モロに食らったら吹き飛ぶ威力はある。打ちどころによっては間違いなく重傷だろう。


「しかしあの急発進・・・なんか既視感あるんだよね〜なんだろ・・・」

「プリ○スミサイルじゃない?」

「それだそれ!」


一時期ネットミームと化していた、自動車生産超大手企業の主力自動車。あれを某北の国の軍歌と合わせて作られたコラ動画は、記憶を無くしてもう一度見たいと思うほどの伝説作品。


あの動画を制作した方に、最高の感動お笑いをありがとうと伝えたい。


「あの曲一度聴いたら頭から離れないよね」

「凄く上手く作られてると思う。冗談抜きで」


などと話しつつ検証が済んだ。


なので、彼は用済み。


と言わんばかりにDSMR-01を構え直す。


「攻撃 攻撃 攻撃戦だ〜♪」


引き金を引く。


バシュッ

グシャッ・・・


レベルアップはしなかった。


「将○様万歳!労○党万歳!」

「恵奈ちゃんは赤く染まってしまったのね・・・」

「流石に冗談だからね?」

「知ってるよ」


恵奈も琴音も普通に資本主義者だ。


はい。


さて、ドロップアイテムだが、マイマイカブリの外殻が一枚と魔石一つでそれ以外の収穫はない。因みに、マイマイカブリが消滅したと同時にカタツムリの殻なども消滅している。


こちらのドロップはないようだ。


「素材の良し悪しがわかんない!鑑定スキルが欲しい!」

「この際、魔道具とかでも良いから欲しいよね」


コンコン叩いたりして品質確認のようなこ事をした琴音に苦笑いを浮かべる。固めはプラスチックのような質感であり、軽い防具の材料になりそうだ。


だが、加工できない為に島行きである。


ぽいっと扉の向こうに放り投げ、ダンジョン探索を続行。


その先々で遭遇するカタツムリとマイマイカブリのコンビは、別々に撃破すれば双方ドロップアイテムを落とすことが確認できたので、捕食される前に撃破することを心得るようになった。


得られるものは得ておきたい主義者です。

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