第31話


6階層を突破し、7、8階層も順調に攻略を進めた。


どの階層もコンビで出現するようになっており、難易度自体は上がっているが、恵奈たちの敵ではなかった。


そして9階層。


ここで恵奈たちは苦戦を強いられることとなった。というのも、新登場したモンスターがある意味厄介であり、思うように攻略が進まなかったせいである。


そのモンスターは、黒蟻である。


地上では外出時などで日常的に目に触れる存在であるが、このダンジョンでは大型化していて働き蟻が中型犬サイズ。しかも3匹以上7匹未満で行動。


最悪なのは、直ぐに殺せなかった場合に発生する。


———キュゥィイイイッ‼︎

「しまったッ」


5匹の群れに遭遇した恵奈たちは即座に攻撃し、4匹を撃破。


最後の一匹を殺そうとしたその直前。自らの命を対価に耳障りな咆哮をあげて息途絶える。


この咆哮が実に厄介で、その効果は直ぐに現れる。


ドドドドドドッ‼︎


ダンジョンの奥から聞こえるのは夥しい数の足音。


その数は実に数十匹にも及ぶ。


「もぉ嫌ぁ〜」

「我慢だよ琴音ちゃん。ほら、迎撃体制!」

「わかってるよ!」


黒蟻同士にしか聞こえない特殊な波動でもなっているのか、咆哮の発生源に目掛けて一定範囲内に存在する全てに蟻たちが迎撃にやってくる。モンスターが擬似的に起こす迷惑なトレイン現象である。


この現象は9階層に突入してから、かれこれ7回目。普段の攻略速度では既に2階層分は突破している時間を費やしても終わりは見えていない。


「全く。ダンジョンに足止めされてる気分だよ・・・」

「もしかしたらダンジョンの防衛行動かもね。ほら、作品でよくあるじゃん。ダンジョンは生き物で、心臓部であるコアとか破壊されたり持ち出されたりすればダンジョンが死んじゃうって話。この仮説が現実のダンジョンにも当てはまってるのかもよ?」


とは琴音の仮説。


「って事は、もう直ぐ最深部ってことかな?」

「仮説が本当だったらね」


それならば今の恵奈たちが倒せないような強力なモンスターをガーディアンとして設置する方が、こんなに大量の蟻を使わなくてもコストパフォーマンス的に良さそうだと考えつつ、ちまちまと殺していく。


殲滅が面倒なだけで、レベルアップに利用できるのが唯一の救いだ。


バシュッ

「あっ今の上手く行った!」


DSMR-01は通常弾でも強力なので、1発で撃破可能。威力は衰えるが、貫通した弾丸が上手い事ターゲットに重なれば3〜5匹を一撃で屠ることができる。


それがたった今成功した形だ。


「ナイス!」

「琴音ちゃんも順調だね!」


【聖結界生成】を展開する傍ら、同時に【吸収変換】も併用し、二人の居場所を守りつつ魔力を回復させながら地道に働き蟻を殺していく。


2人合わされば重防御型固定砲台とかす。とても相性のいい二人組だ。


数を減らしていく働き蟻たちだが、彼らに強力な援軍がやってくる。


「恵奈ちゃん兵隊アリが来たよ!」

「わかった!琴音ちゃんは防御を優先してね!」


働き蟻よりも体格が大きい兵隊アリは、彼らの上位種的存在。


キチチッ‼︎


鳴き声と共に発動されたのはおそらく土属性魔法。拳大サイズの石が砲弾のように豪速球で飛翔してくる。


体当たりや噛みつき、引っ掻きなどの物理攻撃しか行わない働き蟻と違って、兵隊アリは飛び道具魔法を使う文字通りの兵隊だった。


しかし、琴音謹製の聖結界は破れない。


遠距離から攻撃が効かないと理解した彼らは、魔法攻撃を諦めて肉薄攻撃を仕掛けるべく行動を開始した。


因みにだが、彼らには複数タイプが存在する。


頭部が盾となり身を挺して味方を守る外殻が厚い重装兵タイプ。

素早く行動する牙が槍のように長く尖った突撃兵タイプ。

負傷した仲間を回復魔法で救護する衛生兵タイプ。

膨らんだお腹を破裂させ蟻酸を撒き散らす自爆兵タイプ。


である。


そして、初撃の魔法攻撃は兵隊蟻全般が取得しているデフォルト魔法だ。


今回遭遇した兵隊蟻の組み合わせは、突撃兵3、重装兵1、衛生兵1の合計5隊である。


この中で一番厄介なのは勿論、衛生兵タイプ。


「回復役を先に潰すのは定石だよね!」


衛生兵は兵隊蟻だけでなく、周りの働き蟻も回復させてくる。可能な限り早めに仕留める事を推奨する存在だ。


発砲。


狙われているのが衛生兵だと察した重装兵が射線に割り込み、攻撃を防ごうと防御体制。しかし、その行動を予測していた恵奈が弾種を通常弾から徹甲弾に変更していた為。


バゴッ‼︎


自慢の盾が破壊。


弾丸の威力が衰える事なく重装兵を貫通し、背後に庇っていた衛生兵をも貫く。この一撃で兵隊蟻は、盾役と回復役を失うこととなった。


守りも支援も無くなった突撃兵タイプが、加速して名に恥じぬ突撃を繰り出す。


だが。


「琴音の結界は頑丈なんだよ!」


三匹同時攻撃でもびくともしない。


その間に通常弾へと弾倉を交換した恵奈が発砲。突撃兵は纏めて爆散することとなった。


兵隊蟻の乱入から十数分後。


「やった終わったね、お疲れさま琴音ちゃん」


集まった働き蟻全匹の殲滅が完了した。


「お疲れ恵奈ちゃん。今回は百匹近くいなかった?」

「多分いたと思うよ」


ピコンっ♪

『100体以上のモンスターを一度に殲滅が達成されました』

『初回報酬としてスキルポイント10が付与されます』


「ラッキ〜!」


散らばったドロップアイテムを回収し、一度休憩の為に島へと移動した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る