第28話


「今日は楽しかったよ、またね!」

「じゃあね〜」


イオンからの帰り道。帰宅ついでに琴音ちゃんを家に送り届けた。


共有利用を予定している商品は恵奈が後ほど【共有空間】に運び込む予定だ。と言うのも、恵奈の家には外から見えない車庫があるので、安全に運び込むことができるからだ。


因みに琴音を家に帰したのは、【共有空間】の実証実験のため琴音の家から空間を跳躍して恵奈の元へと向かえるかどうか試すためだ。


「ただいま」


車庫に停車しシャッターを閉じる。


「うん、大丈夫だね。【共有空間】発動っと」


ちゃんと閉じているか確認して発動。半透明な白い扉を開き、バックドアから運び出したテーブルキットを持って島に移動した。


現実と同じ様に日夜の周期がある様で、時刻は夜。月と満天の星空が視界を埋め尽くす幻想的な景色が広がっていた。


めっちゃ綺麗。しかも、夜なのにあったかい。


日本の冬は寒すぎる。もう、冬の間はこっちで過ごそうかと半期で考えつつ、他にもマットレスや食器も運び終わった。あとは保存食。


と、車庫に戻ろうとしたその時。


「おーい恵奈ちゃん!こっち来れたよ〜‼︎」

「来れたんだね、おかえり!」


接続されたもう一方の島から琴音ちゃんがやってきた。


これにより、現実空間では別々の場所にいても【共有空間】内で合流できることが証明された瞬間である。


「ただいま。もう全部運び終わった感じ?」

「いままだだよ。後は食品かな」

「じゃぁ手伝うよ!」

「ありがとう!」


一緒に恵奈の方の【共有空間】から現実空間に移動する。


「凄い・・・転移みたいに空間移動できちゃったんだけど⁉︎」

「予想してたことだけど、これは凄いことだよね・・・」


仮に一人が地上に待機し、もう一人がダンジョンの深層へ向かったとする。そこから扉を開けば、地上から複数の階層を無視して直接物資や人間を連れてくることができる。


これがダンジョンでは無く、国と国の間だったら。


悪用すれば不法入国や輸出入禁止のアングラなブツも持ち込みや持ち出しし放題。最悪、他国の首都に扉を開いて核やサリンを解放すればどうなるか。


脅威度は撃墜できる弾道ミサイルなんかよりも比ではない。


「いやぁこのスキルは隠さないとダメだね。少なくとも私たち以外には見せられない。危険すぎる」


これ絶対政府にバレたら強制的に拘束される奴だ。しかも逆らえば知らずの間に消される最悪なパターンが待っている。


とも付け加える。


自体の重大さを改めて認識した恵奈だったが、これを自己申告する気はなかった。むしろ墓場に持ってくつもりである。


「もしバレても簡単に殺されない様に強くなっとかないとね」

「え、恵奈ちゃんこ、怖く・・・ないの?」


流石にブルっときたのか琴音の顔色が悪い。


「確かに怖いよ?・・・不謹慎だけどあえて言うね、私は琴音ちゃんを失う方がもっと怖い。だからね、もしもの時があっても琴音ちゃんだけは守り切れるくらい強くなろうって改めて思ったよ」

「・・・もしもの時があったら助けてよ?」

「もっちろん!」


いやしかし、私にだけ見せてくれる弱った時の琴音ちゃんの表情はなんと言うか、小さな女の子のようで非常に庇護欲が唆られる。


シリアスな場面でこんな事は言葉にできないので、頼りになる風に装い撫でるだけにとどめた。


暫くして落ち着きを取り戻した琴音と、トランクから食料品を島に移送する。これで、共有空間の島は拠点として使用する事ができるようになった。


バックアップは万全である。しかし、直ぐにダンジョンへとは向かえない。


と言うのも、眠気がやってきたからだ。


恵奈はダンジョンが出現した瞬間からダンジョンに潜ったことにより、かれこれダンジョン関連の行動によって20時間ほどぶっ通しで行動していた。しかし、ステータスの影響で肉体的に疲労はない。


ないのだが、精神的には辛いものがある。わざわざ眠気に逆らって攻略中にヘマをしでかすよりも、万全に体調を整えてからの行動は、攻略の効率に繋がる。


「と言うことで、琴音ちゃん一緒に寝よ〜」

「ふぁ〜・・・夜だしそうだね、寝ちゃおっか」


寝る。そう意識した時、琴音ちゃんが可愛らしいあくびをした。


釣られて恵奈もした。


寝る準備をする。まず、ここにはお風呂がないので体が洗えない。洗面所がないので歯磨きもできない。だが、これは恵奈が取得した【生活魔法】の浄化で一瞬に済ます事ができる。


「生活魔法って本当に便利だね。琴音も欲しいんだけどそれ」

「私に言ってくれれば何時でもやってあげるからね。でもそんなに欲しいならスキルポイントに余裕がある時に取得しなよ?」


双方持参したパジャマに着替る。肌に優しく暖かいもこもこでふわふわな可愛らしいパジャマをお互い使っている。これは、二年くらい前に一緒に買ったもので、ペアルックだ。


普段もお泊まりの時も良く使っている。


因みに着ていた衣服は浄化で綺麗さっぱり。畳んで置いておく。


マットレスの準備は整えてある。持参した枕を設置し、二人で一緒に横になった。背中から柔らかく包まれる。二人で入る毛布も暖かい。


そして、琴音ちゃんがいる。


「綺麗・・・」

「そうだね・・・」


満天の星空をうっとりと見つめる彼女の手を握る。握り返される。こんなロマンチックな場所で、好きな人と一緒に眠れるなんて私は幸せ者だ。


「おやすみなさい琴音ちゃん」

「おやすみ恵奈ちゃん」


かすかな漣だけが感じられる静かな時間が過ぎていく。


そして二人は深い眠りに誘われたのだった・・・

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