第24話


世界各国が5階層の階層主に足止めされている———


「次で5階層だけど、問題なさそう?」

「大丈夫だけど、ちょっと怖いなぁ・・・もしもの時は助けてね恵奈ちゃん?」

「そりゃもちろん!」


・・・なんて事など知りもせずにダンジョン攻略を進める恵奈と琴音。


一日の長がある恵奈のバックアップの元、琴音は安全にモンスターを倒して行き、順調にレベルアップを重ねた事で21レベルまで成長。新しいスキルも複数個取得したことにより、戦力は格段と上昇している。


前回のボス戦で恵奈は22レベルだった事もあり、琴音がそろそろボスに挑戦できる頃合いだろうと判断。


琴音に判断を委ねる形で聞いたところ、緊張気味に快諾した。


そして現在、階層主のいる部屋の前で、最後の休息を取っている。


「琴音ちゃんが潜って3時間くらいかな?だいぶ早く到達したね〜」

「そりゃ恵奈ちゃんがついてるもん。早いに決まってるじゃん」


苦笑いで返される。


一度攻略した者の案内の元に進んでいた為、琴音のレベリングを兼ねた最短ルートでやって来た結果である。因みに恵奈も、攻撃はしないが戦闘に参加してパーティーとしての連隊行動を取れる様に練習をしていた。


成果がボス戦で発揮できるかは定かではないが、それは兎も角。


「聞いてちょうだい琴音ちゃん。私から言うことはたった一つ。勝とうぜっ!」

「恵奈ちゃんそれそのキャラの死亡フラグ・・・まぁいいか、うん。行くぞっ!」


地面に突き刺した剣の様にDSMR-01を携え、手を強く握った恵奈。これから行く先で回復魔法を拒否して粒子になってしまいそうだ。


当然、なんのアニメのセリフのオマージュだか知らない琴音ではない為、ため息を吐きつつ、ネタに乗った。


「ちょ、それ私のセリフだよ〜」


なんとも閉まらない出陣式を終え、恵奈は階層主の扉を開いた。


———キシャァアアアッ‼︎

「きゃっ」


お出迎えしてくれるは、つい数時間前に恵奈と戦った蠍。耳障りな咆哮、そして今までのモンスターからは感じたことのなかった強烈なプレッシャーに、琴音は臆して無意識に一歩下がる。


が、優しく支えた。


「大丈夫だよ、落ち着いて琴音ちゃん。これまで一緒にやった訓練通りにやってこ?」

「う、うんわかった!」

「それじゃぁ撃つよ、結界お願いね!」


バシュッ!


既にセーフェティーの外されたDSMR-01を蠍に向けた瞬間に発砲。これまでの経験から、恵奈がこの程度の距離で外すほどの素人ではなくなっている。


恵奈の動作を遠距離攻撃だと察した蠍が、巨大な右鋏を使って防御体制を取った。が、弾種は徹甲弾。蠍の自慢の重外殻も容易に破壊する。


バゴッ‼️

———シャァアアアッ⁉︎⁉︎

「ほらほら次撃っちゃうよ〜」


レバーを引いて次弾装填。


再度、銃口を向けると、不可視の大威力遠距離攻撃が来る。右鋏が破壊されるほどの威力だ。防御ではなく回避に専念した方が良い。


そんな判断を下したのだろう、蠍が負傷して使い物にならない右鋏を自切。身軽になった分、高機動性を確保。


毒針を噴射して牽制しつつ回避行動を行う———


———シャッ⁉︎


行おうとしたその時。


何もないはずの場所に低い半透明な壁が出現していた。それに気づけなかった蠍は、高速で移動しようとしたのが仇となって盛大に転倒する。


このチャンスを逃す恵奈と琴音ではない。


「琴音ちゃんっ最大出力で上から押さえつけて!」

「了解だよ【聖結界生成】っ‼️」


琴音の全力結界生成。そういえばもう一匹一人いた、と思い出した時には既に手遅れ。倒れた蠍の上に厚みのある一枚結界が出現し、蠍の身動きを著しく制限。動く尻尾で苦し紛れの毒針攻撃を行うが。


バシュッ‼︎

「あははっもうそんな攻撃通用しないよ!」


恵奈が最も容易く撃ち落とす。


元々攻撃を受けたことなんてないが、このセリフは恵奈の気分で発せられたものだ。細かく気にしなくてもいい。


バシュッ!

バシュッ!

バシュッ!

バシュッ!


続けて連続発射。この追撃によって、蠍は足全本と尻尾を失い、胴体だけとなる。四肢が切断された人間の状態が一番近い見た目になるだろう。


結界が消える。


だが、グネグネ動く事しかできない蠍は怖くもなんともない。再生系スキルを持ってない事は前回の挑戦で判明しているため、回復されることもない。


「琴音ちゃんトドメ!」

「OK!」


狙撃手なのに前衛を担当していた恵奈が後方に下がると、琴音が前に歩み、手を突き出す。


そして。


「私の糧となれ【吸収変換】!」

———シャァァァァァ…


蠍の苦悶の鳴き声が響く。


琴音の職業”聖女”と相性が良さそうだと取得した本スキルは、対象とした者から魔力と体力双方を強制的に吸収し、自身の魔力を回復させるというえげつないスキルだ。


もちろん、このスキルを妨害又は遮断する方法もあるが、蠍に対処法はないため、触れるがままとなる。


【聖結界生成】を多用し減った琴音の魔力が回復して行くにつれ、蠍が目に見えて衰弱して行くのがわかる。


しばらくして。


「あっ」


蠍が粒子になって消える。


最初とは打って変わって、とても静かな終焉だった。


『レベルアップしました』

『レベルアップしました』

『レベルアップしました』


これで琴音が二番目に階層主を倒した者となったが、残念ながら特別報酬が発生する事はなかった。


「お疲れ様琴音ちゃん、やったね?」

「うん・・・ちょっと地味な終わり方だったけど、頑張って倒せて良かったよ!」


こうして琴音のダンジョンデビューは成功裡に幕を閉じたのだった。

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