第23話


「ええっと、自衛隊員の皆さんは銃などの火器を用いてモンスターを倒していますよね。それは果たして、個人の力で成し遂げたことなのでしょうか?」

「・・・」


無言で続きを促す。


「銃などの火器の特性上、個人の力量に左右されず常に一定の固定ダメージを与えることができます。しかし、それでは道具の威力だけに頼った戦闘になってしまうので、撃ち殺してレベルアップしてもそれが火器による結果なのでステータスが殆ど上昇しないのではないかと考えています・・・まぁ、ゲームの受け売りなんですが」


もっともらしい理由で語られたが、最後で台無しに。


「ここはゲームの話をする場ではないぞッ‼︎」

「国民を、ひいては国を守る為の重要な会議の場だ!」

「これだから最近の若者は・・・」


ここにいるのは日本のトップ達である。彼らはゲームを娯楽とは理解しつつも、実際にプレイする者は殆どいないため、国の行く末が試される重要な国政の場で遊びの話をされてキレない訳がなかった。


喧喧囂々と化す会議室。


そろそろ鎮めよう。と、行動に移そうとした総理だったが。


この騒ぎを止めたのは、意外にも若手議員だった。


「で、ですが実際にゲームの様なことが起こってるんです!ならばゲームの様にやってみるのも一つの手ではないのでしょうかっ!?」

「「「「・・・確かに」」」」


ゲームで騒いでいた者以外の一定数の理解を得られた。


この結果を受けて、総理は決断する。


「ふむ・・・君の意見は理解した。その方法で攻略を試してみよう」

「あ、ありがとうございますぅ!」


ぺこぺこ頭を下げて着席する若手議員。隣のベテラン議員に小突かれつつ褒められて満更でもない様子。


「もちろん、自衛隊員に無茶な真似はさせられない。いつでも救援に駆けつけるバックアップも充実させた状況で、志願した隊員に実証実験をさせる。これでいいかね?」

「はい、志願であれば問題ないかと」


総理の隣で防衛大臣が頷いた。


この決定により、日本は現代兵器を捨て、全時代的な刀等を主兵装として扱う志願隊員だけで構成した”切り込み隊”が結成される。


日本国内では、隊員の安全を無視した悪しき検証実験だと、それなりに批難されることとなったが、海外からの受けは非常に良い。


リバイブ・ジャパニーズ・サムラァイ!


と、部隊紹介のニュースが流れるほどの熱狂ぶりであった。


映される映像には、迷彩服に防刃タイプの防具を身に纏った隊員の姿。その腰には二振りの刀が携えてあった。


彼らが活躍する日は・・・近い?



*****



「え〜続いての議題ですが、経済産業省からです」


パリッとスーツを着こなした如何にもエリート全とした男性が、パソコンを開いてプロジェクターを操作する。


「これまでのダンジョン攻略で、モンスターを殺害した時に一定の確率で落ちる所謂ドロップアイテムの一つに、日本のエネルギー事情を根本から覆す可能性のある物質が確認されました」


ざわ・・・ざわ・・・


日本のエネルギー事情を根本から覆す、などと言われると悪い方向をイメージしてしまいそうになるが、実際には逆である。


プロジェクターが切り替わり、一つのアイテムを映し出した。


「これは、通称”魔石”と呼称したドロップアイテムです」


恵奈が大量に保有してる小石を思い出して欲しい。それのことだ。


「この魔石ですが、特殊な装置を使用したところ、直接電力を取り出す事に成功しました」

「「「⁉︎」」」


ガタッと机が揺れるほど驚くほどの衝撃が走る。


一体どういうことか。


分からない人に説明すると、日本国民が日常で使用する電力の大半は火力発電と言われる、オイルを燃やし、水を水蒸気に変えて巨大なタービンを回転、同機械に接続された発電機を回すことで、ようやく電気が生み出されるのだ。


この際、地熱発電や原子力発電は原動力が違うだけで、発電方式は変わらない為割愛する。


さて、今まで上げた様々な発電設備の例で共通していることがある。


それは、自国で産出しない諸々のエネルギー資源を利用し、水を蒸気に変える工程を挟んで、発電機を回し、ようやく電気を取り出すということ。


図で示すとこうなる。


各種エネルギー資源→水→蒸気→タービン→発電機→電力


対して魔石はというと。


魔石直接変換電力


となる。


「そうです、今までの発電方式では、海外からエネルギー資源の多くを輸入に頼らなければなりませんでした・・が、しかし!」


一拍。


「この魔石は、直接電気が取り出せます!石油も原子力も、その一切を全く必要としません!更に!!」


ターンっ!とエンターキーの音が響くと同時に画面が変わる。


映し出されたのはグラフなどの様々な数値と、数々の検証結果。


「小石程度の魔石一つで、およそ石油0.3リットル分相当の発電量があることが確認されました!これは3つで、ガソリン車を18km相当の走行を可能とします!」


現状だと、魔石一つを得るのに小銃弾1発を消費しているが、これから発足する切り込み隊が刀などの武器でモンスターを殺害できた場合。


初期投資として刀などの武器が必要だが、殺し続ければ刀のコスト以上のリターンを得られる。


「我が国は長年、エネルギー資源に悩まされてきました・・・ですが、それはもう終わりです。これからは自国ダンジョンで賄うことができる様になるのですから‼︎」


明るい表情で彼は喝采する。


それに釣られて周りの閣僚達も表情を崩す。


しかし総理は素直に喜べなかった。


何故か?


それは、2億3千万キロリットル日本の年間石油使用量分の石油に変わる量の魔石をダンジョンから得るには自衛隊の力だけではままならない。


つまり、民間開放が必要不可欠ということになるのだ。


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