第22話


日本国 

総理官邸


ダンジョン出現以降、その対策室として利用されているこの会議室には、緊急事態ということで又もや各省庁のトップ達が一堂に介していた。


集まった理由は、これまで順調に攻略が進んでいたダンジョン内部で発生した悲劇が発端である。


日本には、自衛隊が存在する。


そんな自衛隊内の組織では、法律に違反するアンダーグラウンドな行為。例えば、他国に対する情報操作や情報収集、要人暗殺等、表に出せない後ろ暗い事を行う部隊が存在する。


アメリカならSEALDs。ロシアならスペツナズに該当するだろう。


戦後80年、一度も実戦経験の無い自衛隊内に置ける唯一の戦闘経験者たちが所属する、特殊作戦群。


通称S


その中で、特に戦闘に特化した部隊が存在する。多種多様な武器、世界各国の特殊な軍隊格闘術などを用い、相手を殺害に特化した秘密の部隊。


それが、”甲秘部隊”だ。


防衛大臣直轄の虎の子分隊が、5階層に出現したモンスターに敗れ壊滅した。


国内で最速にダンジョンを攻略していたその分隊が壊滅したことを受けて、日本国に置ける攻略は、事実上の停滞を余儀なくされることとなった。


「現在、各国の情報収集を行っていますが、どの国も5階層の主で足止めされている様です」


と同時に、各国でも特殊部隊が壊滅する事態が発生していた。


アメリカのデルタフォースの2分隊壊滅。

中国の猟豹特殊部隊壊滅(被害状況の詳細は不明)。

イギリスの第22SAS連隊の1分隊壊滅。


いずれもが大国であり、世界でダンジョン攻略をリードしていたグレートプレイヤー各国である。


この出来事は日本と同様、大問題に発展していた。


「・・・それで、この先に進めるのかね?」


死した自国の特殊部隊員を悔やみつつ、現防衛大臣に話を振る総理。


防衛大臣の顔色は悪く、口を開閉して逡巡。暫くしてポツリと、しかし、嫌な静けさを保つ会議室に響き渡った。


「それが・・・全くの不明です」

「現状だと不可能ということか・・・」

「・・・はい。と言うのも———」


防衛大臣が言うには、ダンジョン内部は電気が使用できない為、問題なく使用できる電子装置の無い兵器を利用して戦闘を行っており、階層を超えるごとに小銃等の効き目が悪くなっていくこと。


階層の主は、今まで対峙してきたモンスターに比べて明らかな強敵だった為、無反動砲などの歩兵としては強力な火器を装備した甲秘部隊員7名で突入。


その後、主の居座るボス部屋の扉が閉まり、内部の状況が分からなくなる。


外では、くぐもった爆発音が響いていたが、数分で沈黙。


暫くして扉が開くと、無傷の主が佇んでいた。


「———以上の事から、高威力な火器だけでは件の主を討伐することは不可能であることが判明しました」

「扉の外から攻撃は出来ないのかね?」

「見えない膜の様なもので堰き止められます」


ファンタジー現象に頭を抱えるしかないお歴々。国の中枢で活躍するものたちだが、この様な状況は全く想定していないため具体的な対処策など出てくるはずものなかった。


「ステータスで得た魔法などでは攻撃できないのですか?」


現在、ステータス取得によって変化する体調を詳しく調べている厚生労働大臣からの質問は、現状を唯一打破できる可能性を秘めているものだった。


しかし。


「それが、自衛隊員全員に総じて言える事なのですが、何故かレベルは上がってもステータスの上昇量は微量であり、魔法での攻撃も数回が限界です。威力も銃火器に及ばない為・・・」


自衛隊内部で発生している問題は、なにも主戦だけではない。


実は、ステータスの上昇量が微量なのだ。


勝手に侵入した民間人に比べると、基礎体力などが相応に高い隊員なので、ステータスの初期数値は20〜30、高くて50ある。


だが、現実は厳しくゲームの様にポンポン上がるわけではなく、この状態が続いていくと5階層の主とは到底戦うことができない。


元々ファンタジーな事に縁の無いお歴々は、どうすれば良いのか分からず途方に暮れるしかなかった。


が、そこに救世主が現れる。


「あ、あのぉ〜」


控えめな挙手。それと同時に突き刺さる多数の視線。


びくっとなる若手議員。


「どうしたのかね?」

「あの、実は、その、えっと・・・ステータスの問題を解決できるかもしれない案が、ありまして・・・」


緊張にガクブルな彼は、総理に促されて説明の前に結論から入った。


「えと、まず・・・銃での戦闘、やめませんか?」

「「「「「「「はぁ?」」」」」」」

「ふ、ふぇぇ・・・」


何言ってんのお前それじゃぁ戦えねぇだろボケ!という目力で貫かれた若手議員が、まるで幼女がおどおどしている時に使う、あのセリフが飛び出してしまう。


若手といっても40代。


純粋に可愛くない。


「こほんっ・・・それで、銃での戦闘をやめるとはどういうことか、説明してもらえるかな?」

「は、はい———」


腰が引ける彼は、どうにか資料を取り出して説明を開始した。

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