第9話
ピコンっ
またあの音がした。
『【魔力自然回復速度上昇】が最大レベルに達し、上位互換へ進化が可能となりました』
『上位変換にはスキルポイントを10消費します』
それは上位変換が可能という通知音だった。
「やっぱりねぇ」
恵奈の職業”狙撃手”が上位職である、と言う情報を先に入手していた為、スキルにも上位互換があるのでは?と、予想していた。
予想通りだったようだ。
しかし、
「スキルポイント10か〜多いな」
普通に3つレベルを上げれば貯まる量だが、他にも回したいし、新しいスキルを取るかもしれない。
仮に挙げたとして、魔力の回復速度がこれまでにない速度で上昇するとしても、ちょっと躊躇してしまう消費量だ。
特別スキルを取得してない者からすると、なに贅沢言ってんだという話である。
「まぁ頑張って貯めるけどね」
魔力の消費がこれからも増えると確定しているので、回復手段は強化するに越したことはない。よって、このスキルの上位互換化は必須と言える。
溜まったら進化させよう、と頭の片隅に記憶した。
それからは、魔力を消費して通常弾を生成したり、災害時に食べる用の保存食、予備の衣類、地図を書く為のノートや筆記用具等をバックに詰め込んで準備を整えた。
これで漸く、本当にダンジョン攻略を再開できる。
恵奈はDSMR-01を携え、ダンジョンに侵入した。
*****
深夜2時ごろ
日本国 総理官邸
恵奈がダンジョンに潜った頃、日本も発生した緊急事態に慌てて対処していた。
「それで、ダンジョンの確保はどうなっているのかね?」
緊急事態に基づき、緊急招集された現内閣の錚々たるメンバーが集まる、この会議室。
そこでは、今日00:00分に地震と共に発生した地下特殊構造物、通称”ダンジョン”についての対策会議が開かれていた。
「はい、47都道府県で合計178箇所を確認し、自衛隊や警察の出動によって確保しております」
初動がとても遅いと有名な日本だが、意外にも速やかに対処していた。
と言うのも、特殊地下構造物が自衛隊基地の敷地内に出現したことから、その確認を経て、それがダンジョンであると認識し、危険生物を隊員が殺害したことで”ステータス”や””レベル”を得たことが判明。
もし自衛隊の基地敷地内以外の場所に出現し、一般人が侵入、ステータスを保有するに至った場合の混乱は、犯罪などの制御が不能になる恐れがあるとして、政府は信じられないという思いを抱きつつも、全国のダンジョンを確保していった。
それが功をなし、現在の民間人の侵入は最低限に収まっている。
「侵入者の確保はどうした?」
「協力的な者を省く、一部の侵入者が暴走しましたが、今は静かにさせています」
残念ながら既に侵入し、ステータスを得たものもいる。
侵入し既にステータスを得た者は、建造物侵入罪を都合のいい様に解釈し、超法規的措置として有無を言わさず任意動向という形で隔離施設に突っ込まれている。
もちろん、馬鹿正直にこんなことは発表しない。
表向きには、突然に現れた地下特殊構造物内には未知の細菌やウイルスが存在し、無自覚だが感染しているかもしれない、精密検査を、ということで隔離されている。
幸いなのは、某ウイルスが世界的に流行したことで、隔離場所は数多く存在する事。
最悪なのは、ダンジョンやステータス関連の情報がインターネット上に投稿され、既に拡散されてしまっている事。
これによって、政府が確保したダンジョンの解放を求める動きが活発になるだろうことが予想されている。
「暴れた者はやはりステータスを持っているのかね?」
「はい、ですので強固な拘束具等を使用し、厳重な監視下に置かれています」
総理は深くため息をこぼす。
「万が一拘束具が突破される様な場合は・・・病死したことにしたまえ」
「ッ!?そ、それは」
日本国では有るまじき言葉に、会議室の空気は鉛の様に重くなる。
驚愕に総理を凝視するが、その者たちは少数。大半は険しい表情を変えずに肯定の意を示した。
「ステータスを得た者は、魔法などの超能力を行使し、簡単に人を殺すことができる。その力を馬鹿者が制御できないというならば、他に被害が出ない様にする。それが民主主義だ。」
大のために小を切り捨てる。
その判断を総理は決断した。
「・・・まぁ、そんな事が発生しないことを願うまでだがな。さて、早急に現行法や刑法の草案を詰めていこうじゃないか。今夜は皆徹夜だぞ?」
戯けた総理に、会議室の空気は軽くなる。
「はぁ・・・なんでこんな
その呟きは、誰の耳に届くことはなかった。
*****
ダンジョンの問題は日本だけに止まらず、海外でも発生している。
しかし、日本はこれでもまだマシな方だ。
アメリカは自由の国であり、銃で武装する者たちがダンジョンを占拠したり、ロシアや中国ではダンジョンに立て篭もる市民を、当然の様に軍隊で吹き飛ばし占領していく。
まだダンジョンが発見さえれて2時間少々のうちに、世界は急速に変化を開始。人はダンジョンを認識していくだろう。
だが、世界は知らない。
ダンジョンは進むにつれて、現代兵器が通用しなくなるということを。
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