第5話


「んぁあああッ⁉️」


恵奈の悲痛な叫びがダンジョンを反響する。


一体何があったのか。


「あ゛ぁ〜あ゛ぁ〜耳がぁ・・・耳がぁ〜あぁ⁉︎」


そう、耳である。


狭いダンジョンの中で、瞬間的に大音量を発すれば如何なるか。恵奈は某大佐風に耳を押さえて呻くが、子供でも分かる当然の結果であった。


「うぅ・・・酷い目にあった」


しばらくして回復した恵奈であったが、完全に自業自得である。


もし、放たれた弾丸がカタツムリを爆散させていなければ、負傷中に襲われていたかもしれないと、今になって冷や汗をかいており、


「うわ、3も減ってる・・・」


只の爆音で体力が3も減った事に対して、二重の意味で顔を青くしていた。


正直、もうダンジョンダンジョン!と喜んでられない。


人は怪我をして後悔すると漸く学ぶ。恵奈は早急にこの発砲音問題を解決しなければダンジョンの攻略を進められない!と、反省しつつ、対策を練る為に戦術的撤退を決めた。


もちろん、ドロップアイテムを回収してから。



*****



たぶん安全な自室に戻ってくると、早速対策を始める。


「確か音を小さくするのがあったよね?」


記憶を振り返ると、某スパイ映画の渋いオジ様が、狙撃銃の先端に黒い筒を装着して発砲していたのを思い出す。あのシーンではプシュッ!と気の抜けるような音がしただけで、煩くはなかった。


その黒い筒がサプレッサーと言って、いわゆる消音効果を銃に与えてくれる存在だ。


早速、【装備アタッチメント】を開く。


スナイパーポイントを消費して購入できる装備品一覧が表示され、予備弾倉やサプレッサー。変わったものだと銃迷彩の変更なんかもできるようだ。


個人的には黒一色とかの方が好みなので、迷彩機能は使わないと思う。


「へ〜そんな機能もあるんだね」


サプレッサー。別名ではサイレンサーやら消音器とも呼ばれる、銃口の先端に装着する装備品であり、発砲音を抑える機能があるとされている。


装着時の発砲音はする。しかし、20〜40mも離れると、聞こえなくなるらしい。


これが1000m2000mも離れた遠距離戦闘の場合では、敵に狙撃音は一切聞こえることなく、狙撃に気づいた時には味方の誰かに風穴が開いた時になる。


先ほど【狙撃銃召喚】で召喚されたDSMR-01にはサプレッサーは装備されておらず、反動を軽減するマズルブレーキという装備品が標準装備されていた。


敵に気づかれないことが狙撃手の最大の長所だが、現状のマズルブレーキだと大きな発砲音が鳴り響き、恵奈の耳にダメージを与えかねない。


「どれ選べば良いんだろ」


スプレッサー一つとっても色々な種類、見た目、性能がある。


何より———


「ああ、狙撃銃のステータスにも影響が出んだ・・・」


そうなのだ。


例えばこのサプレッサーAを装備すると、消音効果は得られるが反動が強くなる代わりにスナイパーポイントの消費は低く抑えられる、という装備品。


例えばこのサプレッサーBを装備すると、消音効果が少々低い代わりに有効射程が20パーセント上昇する、という装備。


などなど、種類によってはプラスにもマイナスにもなり得る。


「迷うね・・・」


ページをスクロールしていると、廉価品ではなく高級装備品のページに移行した。


高性能でデメリットの少ない代わりにスナイパーポイントを多く消費するという、まさに高級装備品ジャンルの様相。


「ん〜・・・あぁ、これなんか良さそう」


恵奈の目に留まったのは、長めのサプレッサー。


スナイパーポイントを10消費する代わりに、高い消音効果とマズルフラッシュの無効化というものを見つけた。


マズルフラッシュとは、発砲時に発生する光のこと。


つまり、このサプレッサーを装備すれば、音で気づかれず、発砲時の光でも気づかれないという恵奈的に良いこと尽くめな欲張り装備。


欠点は単価が高いのと狙撃銃のステ振りができないことに尽きる。


「これにしようかな」


なんかもう、静かだしモンスターに気づかれにくいなら、それで良いじゃない。


ポチッと購入。スナイパーポイントがゼロになり、マズルブレーキが購入したサプレッサーに変更。狙撃銃ステータスに変化はない代わりに、装備アタッチメント欄には、


—————————————————————————————

【装備アタッチメント】

・10×タクティカルスコープ(標準仕様)

・バイポット(標準仕様)

・高級サプレッサーGGAJ-L9X

  <消音効果大>

  <マズルフラッシュ無効>

・通常弾倉(標準装備)

—————————————————————————————


という変化があり、何を装備してどういう効果が発動状態にあるか一目瞭然の表記が見やすくていい。


こうして、DSMR-01に高級サプレッサーが装着されることとなった。


「よし!」


これで漸くダンジョン攻略を再開できる。


恵奈は意気揚々とダンジョンへ足を踏み入れた。


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