第11話

「この森どこまで続くんだ?」

「私の記憶だともうそろそろ着くはずなんですが」

森に入って数時間、俺達はまだ森の中を彷徨っていた。

この森に入る際一本の道ができていることに気づいた俺達はずっとこの道を進んできた。

ほかに獣道や道らしい道もなかったからだ。

無闇に他の道へ行っても迷うだけだと思いこの道を進んできたが、まったくと言っていいほど獣の声も音もしない。

さすがにおかしいと思うが、ここから元の入り口まで引き返すにも奥まで来過ぎてしまっていた。

「なぁまだマナの木から出てるマナを感知できないのか?」

「はい。まったくといっていいほどマナを強く感じる場所はありません」

昨日俺がトマトを食べた時、マナの存在を感じることのできたレティーナなら、マナを生み出しているマナの木の場所も特定できると思ったのだがそれもうまくいかないようだ。

それどころか魔物の姿すらないとは、戦闘はできるだけしたくないとはいえあまりにも静か過ぎて不気味だ。

行けども行けども同じような景色に気が狂いそうになるのを抑えながら前に進む。

「そろそろ少し休むか」

少し前に休憩は取ったが、レティーナの方もかなり消耗しているようなので提案する。

「はい。助かります」


俺達は傍に落ちていた大きめの石に座り一息ついた。


「それにしてもどうなっているんだ?この森はどこまでいってもマナの木どころか出口すらありそうな気配がない」

「私も昔来た時のことはあまり覚えてないですが、こんなに歩いた記憶はないと思うのですが」

レティーナ自身もこの森の違和感には気づいているようだが、それが何なのかまるでわからない。

このままだと世界を救う前に俺達の方がどうにかなってしまう。

何かこの森を抜けるいい方法はないものか、そう思っていると道の反対側の草むらがガサガサと音を立てた。

「なんだ!? 魔物か!?」

俺達は咄嗟に身構えると、草むらから出てきたのは青いぷにぷにとした物体だった。

ゲームとかでもよく見たことがある。

おそらくあれは。

「あれはスライム!!」

レティーナの言葉に、あーやっぱりと俺は思った。

実際の異世界でもスライムは青色の塊なんだな。

「そんなに強くはないですが、油断していると大変なことに……」

レティーナが説明をする前にスライムは、俺等には目もくれず俺達の横の草むらへものすごい速さで入っていった。

「なんだったんだ? 今の」

「スライムは臆病だとは聞いていましたけど、どうして私達の方向へ逃げてきたんでしょう?」

俺達がスライムの不可解な行動に戸惑っていると、再び先ほどスライムが出てきた草むらから音がした。

「もしかしてもっと強い魔物から逃げてきたのか? あのスライム」

「そうかもしれません! 一体どんな魔物が」


そう話していると草むらから出てきたのは、鎧を着た短髪赤髪の若い女性だった。


「え? 人?」

「女の人みたいですね」

俺達が驚いたように若い女性を見ていると彼女は険しい顔で俺達の方に走ってきた。

「うわあああ。な、な、なんだ!?」

俺等はあまりの彼女の迫力に一歩下がった。

走ってきた彼女は俺達の表情に我にかえったのか険しかった表情を解きこういった。

「あ、すまん。人を久しぶりに見たから本当に人間かどうか怪しんでしまった。ところでここら辺にスライムが逃げてこなかったか?」

「スライムならそこの草むらにすごい速さで入っていったけど」

「くそ! 逃がしたか」

彼女は悔しそうに俺の指差した草むらを睨みつける。

「あのー? ところであなたは一体?」

「あたしか?あたしはミラネル。ユグドラシルに所属する剣士だ」

「ユグドラシル!?」

隣にいたレティーナが驚いたように声をあげる。

「レティーナどうかしたのか?」

俺はわけがわからずレティーナに聞いた。

「どうしたのか? じゃないですよバルトさん! ユグドラシルといえば、マナの源である世界樹とマナの木を管理するエルフ族によって作られた組織ですよ。

世界の平和にユグドラシルありと言われるほど、この世界全体の秩序とバランスを守るすごい人達なんです!! まさかこんなところでユグドラシルの人に会えるなんて!」

先ほどまで完全に怯えきっていたレティーナが目を輝かせるほどのすごい人ってことはわかった。

さっきはびっくりして見落としていたがよく見ると耳が尖っており俺の知っているエルフとこの世界のエルフも同じ感じのようだ。


「あたしは名乗ったぞ。お前達こそ何者なんだ?」

「俺はバルト・アーカス。一応魔術師だ」

「私の名前はレティーナっていいます。占いと魔術の心得があります」

「二人とも魔術師か。よくここまでマナがもったな」

「あぁ、この森に入ってから一度も魔物に会わなかったし」

俺がそういうとミラネルは血相を変え俺にいった。

「一度もだと!? それは本当か!?」

「この森に入ってから数時間は経ってると思うけど、今のところさっきのスライム以外見てない」

俺の言葉に急に考え込むように手を顎に当てるミラネル。

「ちなみにこの森に入ってずっとこの道を歩いてきたのか?」

そういいながらミラネルは俺達が歩いてきた道を指す。

「あぁ、森に入ってからずっとこの道を歩いてきた。それがどうかしたのか?」

「うーん。実はあたしもこの森に入ってもう1週間になるが最初の3日くらい森に入ってすぐの道をずっと進んでいた」

ミラネルの言葉にレティーナが。

「1週間も!? お体とか大丈夫なんですか!?」

「あぁ、携帯食料とか飲み水は持っているからどうにかはなっている。森の近くにあった町で聞いたらこの森はすぐに抜けられるって聞いたんだが一向に着かなくて、

横道に逸れてみたんだ。けどそれでもどこにも繋がらないしむしろ道がなくなってより進むのが困難になっていったんだ」

「さっき魔物がいなかったことに驚いてましたけどここまでに魔物と戦ってきたんですか?」

俺がさっき気になっていたことを聞いてみる。

「あたしはこの森に入ってから結構な数の魔物を倒してきた、ほとんど弱いやつばかりだったが。けど最初に歩いていた道では魔物に一切出会わなかった」

やっぱりこの森は何かおかしい。

ミラネルさんの話だと横道に逸れたら魔物が出てきたらしいが、こういった舗装された道だと魔物は一切でなかった。

一体この森で何が起きているんだ?








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