第10話

「もう朝か……」

俺が目を覚ますと見知らぬ天井が目に入った。

木造建ての一軒家の一室で俺は一晩を明かした。

昨晩はテンションの上がった村の人達と、急遽開かれた宴で明け方まで大騒ぎしていた。

俺は酒こそ飲まなかったものの村の人達に絡まれまくり宴が終わる頃にはヘトヘトだった。

そしてその様子を見ていたレティーナが疲れただろうから、よかったら私の家で泊まって下さいっていってたことは覚えてる。

でもそのあとのことはあまり覚えていない。

酷い睡魔に襲われ半分意識がなかったようにも思える。

まぁ記憶通りならここはおそらくレティーナの家だろう。

ベッドの横にある小さな窓から差す朝日がまぶしい。

なんだろう昨日はバタバタしてたから忘れていたけど、元々俺ここで静かに暮らしたかったんだよなぁ。

外から聞こえる小鳥のさえずりが、あと2日で世界が滅ぶとかいう現実から俺を解き放ってくれそうな気さえする。

このまま時が止まってくれればいいのに……。

異世界の静かで平和な朝に感動しながら窓の外を眺めていると部屋のドア開きレティーナが入ってきた。

「バルトさん、そろそろ起きてもらわないと朝食が冷めてしまいますよ」

「あぁ、レティーナおはよう今日もいい天気だね」

「バルトさん会ってから初めてとても幸せそうな顔してますね」

「まぁね昨日あったことすら全て夢のように感じるよ」

俺が遠くを見つめるながら言うと。

「昨日のことは夢ではないんですけどね」

俺の心は一気に現実に引き戻された。

「事実だけどあんまり言わないでくれる?泣きたくなるから……」


俺が部屋から出るとそこは広いリビングだった。

中央には大きな四角のテーブルがあり、上にはパン、サラダ、スープなどの食事が用意してあった。

「これレティーナが作ったのか?」

「はい!料理は母から教わっていたので結構得意なんです」

「へえー美味そうだなぁ。ってか思ったんだけど昨日来た時はもっと薄暗い感じだったような気がするけど」

「あれは占いをする時の部屋でしたので。私の家は占いをする用と居住用の家が繋がっているので、そこのドアから昨日の部屋に繋がっていますよ」

なるほど昨日見た時は表向きの構造しか見ていなかったが、家の後ろにもう一軒家が繋がっていたのか。

「さぁ冷めないうちに食べましょう!」

「あぁそうだな」


俺とレティーナは席につき食事を食べ始める。

俺はそばにあったスープを一口飲んだ。

「美味い!野菜の甘みがとても出ていて飲んでるだけで心があったまる気がする」

「本当ですか!? この村以外の人に振舞うのは初めてなので、お口に合わなかったらどうしようかと思ってました」

「起きたばかりの胃にはとても優しくてありがたい。昨日は色々あって疲れたし」

「そういえば昨日はバルトさんが救世主と言われてから宴が終わるまでゆっくり話す時間もなかったですもんね」

「あぁ終わったら終わったで疲れてすぐ寝てしまったしな。というかその救世主ってワード言わないでくれ頭が痛くなる」

俺は頭を抱えながらレティーナに言った。

「どうしてですか? 世界を救える力を持っているなんてすごいじゃないですか」

「正直みんなの期待が高すぎてプレッシャーが重過ぎるんだよ」

「それだけすごい力なんですよ。バルトさんの力が」

「そうなのかもしれないけど、これからのこと考えると憂鬱だよ」

「これからって世界を救うことですか?」

「そう、そもそもマナ不足って言われても具体的にどうすれば世界を救えるのかわかんないし。これから一体どうしたらいいのか」

朝食を食べながら俺が考えているとレティーナがこういった。

「それなら私がこの先どうすればいいのか占いましょうか?」

「え? そんなことできるの?」

「完璧に見ることは多分できないですけど、何かしら行き先のヒントならなるかもしれないですし」

「特に他の情報もないしお願いしようかな」

「はい!」


俺等は朝食をすませると昨日、初めて出会った占いの部屋に行く。


俺は昨日と同じ入り口側の席につきレティーナはカーテン越しの向かい側に座る。

レティーナの前には野球ボールくらいのちいさな水晶が置かれていた。

「ではさっそく見てみます」

レティーナが口を閉じ水晶の両側に両手をかざす。

それからしばらく沈黙のあとレティーナが言った。

「見えました」

「どんな場所だ?」

「森の中の開けた場所に大きな木があってその周りを数人の人が守っているような感じです」

「森の中とはいえ森って一言で言ってもたくさんあるだろうしなぁ」

「いえ、このビジョンに映った場所。私、知っています」

「まじか!?」

「えぇ昔、一度だけ母に連れられ訪れたことがあります。たしか村の畑とは逆方向にずっと進むと大きな森があるんです」

「昨日騒ぎになっていたすぐそこの森より?」

「はい。この村の周りよりも魔獣の数が多く大変危険なため村の人達ですら近づかないんです」

「でもそんなところにレティーナのお母さんは何の用があったんだ?」

「私はまだ幼かったですからそこまではよく覚えていません。ただその場所にあった大きな木のことを母はマナの木と呼んでいました」

「マナの木って昨日レティーナが言ってたマナの源になってるやつ?」

「えぇ、マナの木は世界の中心にある世界樹ほどマナを生み出すことはできませんが、世界各地に存在しそれぞれの地域のマナのバランスを保ち安定させる重要な役割を持っています。

しかし今ではマナを生み出す能力も低下し日に日に弱っていると聞きます。昨日の畑の騒ぎもマナが少なくなったことで魔物達が暴走してしまったのだと思います」

「ということはまずそのマナの木の所までいけば世界を救う方法がわかるかもしれないと」

「そういうことになりますね」

俺はレティーナの言葉を聞くと立ち上がりこういった。

「そうと決まればすぐに準備をしてその場所に向かおう。マナの木までどのくらいかかるかわかんないし」

「そうですね。善は急げといいますから」


俺達はすぐに村を出る準備にとりかかった。

日持ちする食料や飲み物に、護身用の小型ナイフ、そして村の人達から少し野菜や果物の種を分けてもらった。

そしてとうとう出発の時。


俺達は村の出口で村人に見送られていた。

レティーナはこの村で過ごした時間が長かったからか村の人達は泣きながら別れの挨拶をしていた。

レティーナの方はずっと笑顔で対応しているがどこか寂しそうにも見える。

「ではみなさん色々ありがとうございました。いってきます!」

「みんな私は必ず戻ってきますから、それまで元気でいてくださいね」

俺達の出発のあいさつに村の人達は。

「気をつけてね!」

「二人とも病気とか怪我とかしないようにね」

「また必ず帰ってくるんだよ!!」

「この村のことは俺達にまかせな!」

前世でゲームをしていた時にもこういう村の人達の別れはあった。

けど実際に別れるとなると短い時間だったけど少し名残惜しいと思っている自分がいる。

ふと横を見るとどんどん小さくなっていく村の人達に、笑顔を向けて手を振るレティーナ。

「レティーナ」

「はい?何でしょう?」

「その……本当によかったのか?俺についてきて」

「どうしてですか?」

「いや、あの村に残りたかったんじゃないかなって思ってさ」

自分でも今更何を言っているんだろうとは思う。

けど別れる時のレティーナが無理をしているんじゃないかと少し思ったから。

「そうですね。寂しくないって言ったら嘘になります。でも私ずっとあの村で過ごしてきて世界が滅びそうってわかっても何もできなくて。

すごく悔しかったんです。自分がこうしている間にも世界はどんどん滅びる方向に言って世界ではいろんな人が困っているかもしれないって」

レティーナは見えなくなった村に背を向け空を見上げる。

「そんな時にバルトさんが来て、この世界を救えるかもしれない力を持ってるってわかって。もしかしたら私にも何かできることがあるかもしれないって。

だから思い切ってあの村を出ることにしたんです。だからバルトさんにはとっても感謝しているんです」

そういってレティーナは俺に笑顔を向けた。

俺は不覚にもその笑顔に少しドキッとしてしまっていた。

「そ、そうか。じゃあ俺もがんばって1日でも早く世界救わないとな!」

「はい! あれ? バルトさん顔赤くないですか?」

「そんなわけないだろ! ほら早く行くぞ!!」

「あっ! ちょっと待ってくださいよバルトさん」

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