第9話

俺の体からマナが溢れてる?

さっきから体の内で湧き上がってるこの力はマナの力だというのか。

「急にマナが溢れてるって言われても、ピンと来ないんだけど本当なの?」

「足元をよく見てください」

「足元?」

レティーナに促されるように足元を見てみると、俺の足から周囲へ小さな草が広がるように生えていた。

しかもその広がりはゆっくりとだが未だに広がり続けている。

「うわ! さっきまで草の一本も生えてなかったのに、でもどうしてこんなことに?」

「マナというのはどの生物もごく少量ですが体の内に持っています。しかしこれだけ大量のマナを含んだ食べ物や飲み物はこの世界で確認されていません。

おそらくバルトさんの体におさまりきれなくなったマナが、体から溢れだし周りの環境に影響を与えているんだと思います」

「でもそれならさっきレティーナも同じように食べたじゃないか」

「私は昔からマナの制御に関して練習を重ねてきましたから、ある程度のマナは自分の中でコントロールできるんです。

私自身もこの力を抑えるためにマナの制御と同じ方法で押さえ込むことができ、この力がマナによるものだとわかりました。

そしてそのことをバルトさんにお伝えしようとしたら、すでにバルトさんの体からマナが溢れ出ていたのでびっくりしてしまって」

「マナの制御を練習していたってことは、マナは魔術にも関係があるってことか?」

「ええ、バルトさんはご存知ではなかったんですか?」

しまった! 俺は一応魔術を使えるってことにしていたんだった。

「魔術は最近始めたばかりだから、まだ知らないことが多くて」

「そうだったんですね。マナの制御ができないと魔術のコントロールもできないので1日も早く練習してできるようにならないとですね」

咄嗟に魔術初心者アピールをして何とか誤魔化せたようだ。


「まさか俺の魔術でマナを多く含んだ果実ができるなんて」

「すごく落ち着いてますけど、ものすごいことなんですよ!」

感心するように俺が巨大なトマトを見上げながらそういうとレティーナが一大事とばかり騒ぎ立てる。

おそらくこの世界に来て幾度となく聞いたマナ不足と何か関係があるんだろう。

もしかしてこのスキルがこの世界を救うための鍵になるんだろうか。

そんなことを思っていると、村の方から1人の男が走ってきた。

「レティーナちゃーん!!そこにバルトさんいるー?」

この声はアシッドさんだ。

俺に話しかけていたレティーナが声のする方に向いて。

「バルトさんならここにいますよー!!」

そう大声でいった。

息を切らせながらアシッドさんが来ると俺に言った。

「すまないが今すぐさっきの巨大な蔓のところまで来てくれ大変なんだ!」

「大変って何が大変なんですか?」

「話はあと! とりあえず来てみればわかるから!!」

「あっちょっと!」

俺は有無を言わさずアシッドさんに連れて行かれる。

「アシッドさんバルトさん待ってください私も行きます!」

そのあとをレティーナが追いかけていった。


さっきの場所まで戻ってくると、村人が大きな蔓の前で話しこんでいる。

まさかまた言い争いをしているんじゃ……と思いながら近づいていく。

「みなさんバルトさんを連れてきました!」

「おお!待っていたよ」

巨大な蔓の前まで来るとさっきの男二人が俺を出迎えた。

「えっと呼ばれて来ましたけど、何かあったんですか?」

俺が二人に聞くと二人は今にも泣きそうな顔でいった。

「いやぁ俺は最初からお前さんが只者ではないっておもってたよ」

口調の悪かった方の男が俺に話しかける。

「今までもうダメだって諦めてたけど、これで世界にも希望が生まれたようなもんさ」

もう1人の男も手で顔を隠しながら俺に言った。

俺はわけがわけがわからずにいると後ろにいたアシッドさんがいった。

「バルトさんあれですよあれ!」

俺はアシッドさんが指差す方向を見るとそこには蔓の根元から大量の草が広がるようにして生えている光景だった。

これはさっき俺の足元でも起こっていた現象。

しかも俺の時よりも早いスピードで草が周りに広がり続けていた。

「これって……」

「はい! 私も実際には初めて見ましたけど、これは多量のマナを生み出す植物や生物によって引き起こされる現象で、

本来マナの源である世界樹やマナの木の周辺でしか見られないものです」

さっきはこの蔓から実った果実に大量のマナが含まれていた。

そして次はこの蔓からもマナが溢れていた。

やはりあのスキルはただ植物を成長させるものじゃなくて、成長させた植物がマナを生み出すことができるようになる効果もあったようだ。

「すごいです!バルトさん。やはりあなたはこの世界を救える力を持った特別な人なんですよ!!」

いつの間にか追いついていたレティーナが目を輝かせ俺にいった。

「レティーナちゃんの言うとおりだ! この人は我々の世界の救世主様だ!!」

前にいた男二人も泣くのをやめ喜びながら踊りだした。

「バルトさん!いやバルト様この力でこの世界をお救いください!!」

アシッドさんまで俺のことを様づけで呼び世界を救えと言ってきた。

俺が世界を救う勇者に憧れる少年だったら喜んでいたけど、俺はこの世界で静かにスローライフを送りたかっただけなのに、どうしてこんなことになったんだ。

俺はこの先の行方を不安に思いながら空を見上げていた。

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